#40 北の盗賊団2
ナホカト国で行われる儀式の2日前。
シドとエスカー率いる合計80名の社員は、新調した制服を装備し現地入りした。
一応、騎士団長から預かった盗賊団の拠点に関する情報は共有してあるので、重要文化財の盗難や、人攫いがあれば彼等は自動的に作戦を展開する。
それを行うのに十分な戦力を投入したつもりだ。何より、私もナホカト国王に挨拶があるので、数日は滞在する。
「ルミナ。悪いけど、今回は私が同行する事になったわ」
「そう。よかったわね」
「…… ルミナ、もしかしてジェラシー? らしくないわよ?」
「ちょっ!? 妬いてないし!!」
素っ気ない態度のルミナを、ルナは揶揄って楽しんでいた。
相手が盗賊とはいえ、本当に元英雄が存在しているのなら、私としてはヒーラーを連れて行きたかったのだが、ルナが志願した。
人族初となる魔王ミアの弟子を自称するルナは、暇さえあれば色々と教えてもらっているようで、今回志願した理由も ”盗賊相手なら躊躇無く使える魔法” を習ったので、試しにぶっ放したいという無垢な動機からだ。
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「何か見慣れない人達が来てるわ」
「旦那が聞いた話じゃ、victory orderの兵士らしいわよ。ニュースで見たのと服装違うけど」
「え!? さっき目の前で銀貨落としちゃったんだけど、親切に拾ってくれたわ。意外と紳士で礼儀正しくて、しかも精鋭って感じで良いわね」
我が社の社員が悪いのは、目付きと口だけだ。彼等には厳格な規律と秩序を守る事や、己の正義と力を確信する事、その為に完全な態度をとる事を教育している。
「初めましてだな、ラインハート君。
国王のレオノールだ。遠路はるばる部隊を派遣してくれた事、礼を言うぞ」
「お初お目にかかります、レオノール陛下。この度は、御依頼頂き光栄です」
国王のレオノールは、高い身体能力を持つ ”黒狼族” という種族の亜人だった。
初めて話したが、少なくとも ”敵対関係” への発展を予感させる嫌悪感は無い。
挨拶を終え、私は部屋に案内された。
その部屋だが、いくら城の客室とはいえ豪華過ぎる。案内してくれたメイドに聞くと、その部屋は国賓用の部屋らしい。
ちなみに、ルナの部屋は帰りが遅くなった大臣が泊まる時の部屋らしい。
流石に恐れ多いので、レオノールに部屋を変えてもらうよう話をしに行こうとしていた時、見計らった様に、部屋にレオノールが訪れた。
部屋を変えて欲しいと言う私に、レオノールは言った。
「アルザスから聞いているぞ?
君は、ストラス王国で絶大な権力を持っているそうじゃないか。
国王以上のね」
「まさか。私は、しがない民間企業の社長ですよ。権力とは無縁です」
少し笑いながら、レオノールは続けた。
「謙虚なのだな。安心したまえ、それは ”我々だけ” が認識している事だ。
あ〜、そうだ。君は明後日まで滞在するんだったな。私は儀式の為に同行出来ないが、是非、我が国を楽しんでくれ」
レオノールの言う ”我々” とは、一体誰の事だろうか。確定でアルザスが入っているのは分かるが、他に誰か居るのだろうか。
そんな事を考えながら、ルナと城の中を見学していた時だ。
長い廊下の向こうから、騎士の護衛を付けた1人の女性が歩いて来た。
「もし? 貴方はストラス王国の関係者では?」
「えぇ。私は、ストラス王国の民間軍事会社 victory order社代表のラインハートと申します」
「やはりそうでしたか。父から、素晴らしい兵士が派遣されると聞きまして……
あ、申し遅れました。私は王女のロレーヌと申します。短い期間ですが、何卒よろしくお願いしますね」
やや紫がかった艶のある黒髪に白い肌。
ピンッと上を向いたフワフワの耳と、同じくフワフワで太い尻尾。
品を感じさせる仕草は、言われなくても直ぐに王族だと分かる程に洗練されていた。
「では」
にこやかに一礼し、ロレーヌは行ってしまった。その表情とは裏腹に、纏う雰囲気は何処か悲しげだ。
お供の騎士の表情も、やるせなさを滲ませているが、何れにしても ”嫌だ” と表立って言えない状況なのを理解しているのだろう。
「可愛いお姫様ね。私が男だったら、何がなんでも手に入れて無茶苦茶にしてやりたいわ。考えただけでたまんない」
「ルナさん…… 私は今、貴女が女性で良かったと心底思ってますよ」
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その2日後。儀式の為に、王女を乗せた馬車が城を出た。
王都から北上すると、王族以外立ち入り禁止の森があり、そのエリアには美しく神聖な湖があるらしい。
どうやら、そこで身を清めるのだろう。
その護衛は、全員が神聖騎士で編成されていて、森までの道中は勿論、森の周囲にも隈無く配置されている。
斥候が走り回り、まさに厳戒態勢だ。
私は警備には参加せず、王都の少し南にある農園を視察していた。
勿論、社員達を信頼しているし、何かが起こるとも思っていなかった。
だが、事件は起こった。
”ライ! 襲撃だ!! 結構大変な事になっちまってる!”
シドからの念話を受け、私は王都の方を見た。
はるか遠くに見える王都から、煙突のものとは違う煙が立ち上っていたのだ。
投入した戦力に不足は無い。だが、シドの焦燥感漂う念話は、私の頭に刺さりきりだ。
転移魔法を使い王都に戻ると、そこには、逃げ惑う人々と、有り得ない数の盗賊の死体があったのだ。
私は、直ぐにエスカーと合流し、話を聞いた。
「お姫様が出ていって、お前が芋堀りに出掛けたすぐ後だ。どっからとも無く盗賊共が湧いて来やがった。大半は地べたを走って来たんだが、中には転移魔法で転移してきたとしか思えねぇトコから出てくる馬鹿野郎も居やがった」
「盗賊が転移魔法?」
「あぁ、でもそれだけじゃねぇ。連中の中には、低ランクの冒険者じゃ使えねぇような攻撃術式をぶっ放してくるヤツも結構居やがったんだ」
「まさか、騎士崩れや上級の冒険者が混ざっていると?」
「そのまさかよ。ライ、こいつは何か臭うぜ。俺達の担当エリアだけでも、ざっと1500人以上の盗賊共が押し寄せた。当然、他のエリアにも押し寄せてる」
「!? まさか、この襲撃は陽動ですか!
シド、エスカー! 盗賊のアジトに向かうのです!! 他の者は、騎士団の援護に回ってください!!」
私は、立ち入り禁止区域へ急いだ。
”王女が危ない” と直感したのだ。
森の周囲に配置された神聖騎士団は、案の定惨殺されていて、森への侵入を拒む者は誰一人として存在しない。
森へ入り、暫く走ると目の前が開けた。
少し大き目の湖があり、その畔には馬車が停められていた。間違いなく王女の身を清める儀式の会場なのだが、そこに本人は居ないのだ。
一足遅かったかと思ったが、わたしの魔力探知は、対岸に2つの魔力反応を捉えた。
その対岸に転移すると、そこには白髪で赤眼の盗賊と、捕らえられた王女。
「しつけぇなぁ。やっと全滅させたと思えば、もう湧いて来やがる。 だが、てめぇは運がいいぜ? 俺は欲しいもん手に入れて、家に帰るとこだからな」
「賊め、帰れると思うな!!」
斬り掛かった私のナイフは、盗賊を捉える事無く空を斬った。
その盗賊は、感心する程の展開速度で転移魔法を発動させたのだ。間違いなく ”元英雄” だろう。
取り逃した事もそうだが、シドとエスカーを盗賊のアジトへ向かわせた事も後悔した。
何故なら、私は王女を攫った盗賊に見覚えがあったからだ。
”ライ! アジトに着いたけど誰も居ねぇ!お留守だ!”
魔王軍時代、私はゴンドワナ大陸の北部にはよく訪れていた。その当時、情報収集や兵站の不安定化工作の為に、この国の周辺にも来た事があった。
その時、私はならず者の集団に遭遇した事があって、その一団のリーダーと思しき男の顔を見ている。
そう、先程の盗賊だ。
そして、その一団を尾行した結果、勇者や支援国とは無関係と判断し、特に攻撃する事もなく駐屯地に帰投した訳だが、数日間の追跡で、連中のアジトの場所は確認してある。
今思えば、そのアジトの場所は騎士団長の地図の地点ではなかったのだ。
転移魔法は、目視出来る範囲か、行ったことのある場所にしか転移出来ない。
例外として、正確な座標が分かれば転移可能だ。
私は、過去に盗賊のアジトの近くに一度行っているので、そこには転移出来る。当然、私は先程の盗賊を追って転移したのだ。
”ルナ? シドとエスカーに、今から伝える座標に転移するよう伝えてください”
”オッケー。こっちは粗方制圧したし、すぐに向かうわ”
ギリギリ念話の使える距離に居たルナに伝言し、私は見覚えのある洞窟の中に入った。
深奥まで辿り着いた私は、そこで最悪な光景を目の当たりにしたのだ。
壁面に飛び散る血と肉片。
床には、白い毛の生えた肉塊が転がっていた。確認するまでもなく、先程の盗賊だろう。私は、その空間の隅に倒れている王女を発見し保護した。
どうやら気を失っているだけで、特に外傷は無い。
「ライ、こりゃ一体……」
到着したシドとエスカー、ルナも、その人外の所業に絶句した。
「誰もこの場には来てないんですよ」
「「「……?」」」
「この盗賊が死ぬ前に。ナホカト国の騎士団も、私もね」




