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#4 信じる心

「私は、皆さんに嘘を吐いています。

つい最近まで魔王軍の兵士でした」


夜の街を行き交う酔っ払いや客引きの声。

微かに聞こえる喧騒の中で、私達の部屋だけが虚空に引き込まれてしまったかのように静まり返っていた。

重苦しい静寂は、周りの騒音を徐々に飲み込む。

その状況は、まるで夜の墓場に置き去りにされた幼子のように心細く、胸の鼓動が身体を揺らす。


「辞めたの? 何で?」

「嫌気がさして、馬鹿馬鹿しくなって辞めてしまいました。

辞めた事で、大切な人に合わせる顔もなく…… 堪らず旅に出たのです」


斬られるかと思っていたが、静寂を終わらせたのは刃ではなく、少しの興味を含んだ優しい質問だった。


「旅に出て、どうするつもりだったの?」

「分かりません。

ただ…… 旅をする中で自分の力だけで生きていく方法を見つけられたらと、そう思っています」

「じゃあさ、魔王軍に戻る気は無いんだ」

「えぇ、その選択肢は有りません」


何やらアイコンタクトをとると、ルミナがニッコリと微笑む。


「私達は、ライの事を信じるわ」

「何故です。私は人類の敵対勢力の構成員だったのですよ?」

「ライを信じるのは、私達が、私達自身を信じてるからなのよ。

私の中の、小さい私が ”信じていい” と言っているの」


先程から、男子諸君は一言も発しない。

ルナやルミナが言い出した事には反対しない性分の彼等だ。

どう思っているのか、しっかり意見を聞いておくべきだろう。


「テオ、シド。貴方達も私を信じるのですか?」


私の問い掛けに、シドが口を開いた。


「森で出会った時なんだけど、お前から ”強者” の匂いを感じた。

強者とは、多くの物や命を壊して来ているからこそ、周りはそいつを強者と呼ぶ。

でもよ。強者には2種類居て、狂気に満ちた破壊の権化って言うか…… 取り扱い注意みたいな奴と、確かに強えぇけど何処か優しさを感じさせる奴が居る。

俺は、お前は後者だと思うぜ?」

「俺もそう思う。

それに、巫女が信じていいと言ってるんだ。

充分だろ?」

「ちょっと!? 私も大丈夫って言ってんだけど!」

「おふぅ…… 精霊の声が聴ける魔導師も大丈夫って言ってんだ。

間違いねぇよ」


その後、私は魔王軍を辞めてから彼等と森で出会うまでの経緯を話し、改めて謝罪した。


「ライが魔王軍の兵士だったっていうのは、私達だけの秘密にしておきましょ!

他の人が聴いたら、どうなるか分かんないんだからね!

じゃ、この話はお終い!

明日は朝ご飯食べて、お買い物したら、さっさと街を出よっか!」


ルナは街を出ると言うのだが、果たして良いのだろうか?

どの様な事情が有るのかは分からないが、彼等は月に一度、必ずトカゲの討伐依頼を受けているのだ。


「依頼はどうするのですか?」

「依頼は大丈夫よ。元々、あれは騎士団の仕事だし」


一瞬困った様な顔をした彼等。

やはり、何かしらの事情がある様だ。


「この依頼を受ければ恩赦がどうのこうのって言われたけど……」

「一体何があったのですか?」

「実はさ、俺達は冒険者登録こそさせて貰えたものの、ランクアップの試験は受けれないんだ」

「? 何故です?」

「いや〜、この国には戦士やら魔法使いやらを育成する学校があるんだけどよ。

そこで、同じクラスになった皇帝の親戚をボッコボコにしてやったのよ。

いけ好かねぇ野郎だったのは間違いねぇけど、俺も若かったって事よ」

「で、卒業する時にシドは冒険者登録はさせてもらえたんだけど、ランクアップは出来なかったわ。

それを何とかしたくて、私達はシドとパーティを組んだんだけど、それが馬鹿の耳に入ったのかもね。

ある日突然ランクアップの試験を拒否される様になって、私達全員ランク据え置きになっちゃったった訳。

永久にね」

「で、ランクアップの試験を受けれるようにする代わりに、騎士団の討伐任務を引受けて国に貢献しろって言われてたのよ。

まぁ今に至るまで、ランクアップは拒否され続けてるけど」


権力恐るべし。

しかし、漸く合点がいった。

彼等のクラスは何れも上位、しかし、それに不釣り合いなランクは、皇帝の親戚とやらに手を挙げた代償だったという訳か。

まぁ、学生という身分のおかげで極刑は免れた様だが、年老いるまで後悔し続けるであろう足枷を着けられたのだ。

寧ろ、それを楽しむのが目的だったのだろう。


「街を離れれば冒険者登録証は剥奪されるかも知れないけど、結構貯えはあるのよ。

普通の生活してたら、そうね…… 10年以上は安泰よ」

「そうですか。

しかし、それで良いのですか?」

「良くはないわ。

でも、登録証を剥奪されても何食わぬ顔で生活してる私達を見た時の、 ”アイツ” のアホ面を見るのも悪くないわ」


負け惜しみにしか聞こえないルナの言葉は、申し訳なさそうに俯くシドの表情も相まって、悲壮感に塗れていた。


「と言うわけで、朝一に出発ね。

一応言っとくけど、此処から一番近い街は厄介よ。

一泊するだけで、長居する気は無いからね?」

「それは構いませんが、何かあるのですか?」

「次の街は、人間の街なんだ。

着いて早々この街では散々な目に遭ったが、次の街はもっと厳しいぞ」


テオが言うには、次の街は人間至上主義の街なのだそうだ。

色々気になるが行ってみれば判る事だ。

その日は、脱走しない様釘を刺され眠りに就いたのだった。

殺されずに済んだが、今だに住所不定無職なラインハート。

次に立ち寄った街で、遂に奴隷に堕ちてしまう。

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