#39 北の盗賊団
「と言うわけで、来月行われる儀式の期間中、盗賊団に対する警戒任務を依頼したい」
「なるほど、要人警護は神聖騎士団が行い、街の警戒監視に、我々は増援という形で加わるのですね」
「えぇ、北部は ”白狐” という厄介な盗賊団が活発に活動してましてね。
合同で掃討作戦を展開する話を帝国に持っていったのですが、魔王軍の対応で手一杯のようで、実行に移せていないのです」
今日は、獣人の王が治める国 ”ナホカト国” の使者が依頼に訪れていた。
盗賊団掃討作戦が帝国の都合で実施出来ていないらしいが、我が社には帝国から勇者が派遣されて来た。疑問は尽きないが、それを言うのは野暮だろう。
最近、国家からの依頼が多く、その全ては警備の依頼だ。その国の騎士団のユニフォームを貸与してもらっていたが、帝国からも煙たがれる名の通った企業となったので、その手の依頼用にイカした装備を拵えなくてはなるまい。
「ラインハートさん、サンプル持ってきたぜ」
街の仕立て屋に基本のデザインを伝え、数種類作ってもらった。
それを事務所兼屋敷のホールに展示し、社員達の反応を伺う事にしたのだ。
男子諸君は、黒をベースに銀のラインや装飾の施された軽装鎧。女性の戦闘職は、銀の部分の比率が多くなる。
魔導師やヒーラーも黒がベースだが、肩当や胸当てなどのゴツゴツした防具は無く、可能な限り疲れにくくなっていて、フードか帽子を選べるのも特徴だ。
「ラインハートよ、マントの類が無いな。いいセンスだ」
我々は、王族でも貴族でもないし、勿論、騎士でもないのだ。
なので、マントではなくロングコート仕様にしたが、ヴィットマンはお気に召したようだ。そして、幹部のみ黒ベースに銀若しくは白が選べ、更に1色追加する事が出来る。
クラス ”闇の支配者” である私は、黒多めに赤のアクセントを選んだ。
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「正直かったるいぜ。おNewの装備が間に合うから、前回よりはテンション高ぇけど」
シドは、”前回よりはテンションが高い” と言っているが、私の目には明け方の気怠いテンションにしか見えない。
その前回だが、トリア王国で行われた戦勝記念の晩餐会で、夜通し街の警戒をさせられていた。
当然、索敵が得意なシーフ系のクラスの者が適任なので、シドやエスカーを組み込みたい。だが、毎回彼等だけでは申し訳ないし、何より、ここまでやる気が無いと正直不安だ。
なので、私が現場に立つ時もある。
「今回、ナホカト国の騎士団は、白狐という盗賊団を警戒しているようです。何の儀式かは知りませんが、恐らく、その会場には上位クラスの騎士が集められるのでしょう。我々は、手薄になった王都周辺の警備に加わります」
「白狐? その依頼、もしかしたら厄介事かも知れねぇぞ」
普段は、指名されないように気配を断っているエスカーが口を開いた。
「エスカー。その盗賊団について、何か知っているのですか?」
「北の方じゃ有名なんだ。何でも、その盗賊団の親玉は ”元英雄” らしいからな」
エスカー曰く、 ”糞を便器からこぼさないように真ん中に座る。そのぐらいの脳ミソは持ってる” 輩らしい。
「なるほど、それは気にしない訳にはいきませんね」
そんな事情もあり、今回はシドとエスカーが志願した。
私は、彼等を指揮官に、40名程の小隊を編成する事にしたのだ。
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「こちらが、盗賊団のアジトと思しき洞窟の場所です」
前払いの報酬を受け取りに行った帰りに、騎士団長と話をする事が出来た。
掃討作戦を計画していた彼等は、当然、盗賊団の所在地を多方把握していて、その地図を提供してくれたのだ。
手練を用意するので問題無いと思うが、もし万が一、重要文化財などが盗まれたら、我々は急襲するつもりでいた。
「王族だけの行事といった感じでしょうか? 国内は祝賀ムードではありませんね」
「えぇ、実はあまり喜ばしいものではなくて…… 我が国の王女が ”愛妾” として帝国に行かれるのです。
愛妾とはいえ、身を清める儀式は行われるのですよ」
愛妾といえば、確か側室でもない ”公認の愛人” だ。
男児を出産しても、その子供が地位を与えられる日は来ない。
騎士団長の話では、帝国領の一部を統治している皇帝の息子が、ナホカト国の王女様を寄越せと言ってきたらしいのだ。
国境を接しているだけでなく、様々な圧力をチラつかされたナホカト国の王族は、国の未来の為に泣く泣く娘を送り出すのだそうだ。
まったく、反吐が出る話だ。
イライラすると思えば、それの原因は暑さや寒さや不快な天気ではなく、必ず ”二足歩行の知的生命体” だ。
特に、身の丈に合わない権力を持った ”ど阿呆共” は、頼んでもいないのに話題を提供してくれる。
だが、今回のナホカト国の事情はvictory order社には関係の無い。
不憫な話だが、私の仲間に害が無くて商売の足しになれば問題無しなのだ。




