#37 戦後
「ザーヒル、新米国王にしちゃあ上手く立ち回ったな」
「お、おう。名案だったろ……?
損したのは殺りあった東西トリアだけで、他は誰も損してねぇ。めでたしめでたしだ」
「あぁ、そうかもな。だが、そう思ってるのはテメェとアルザスだけかも知れねぇぞ?」
「……?」
「魔石の輸出が滞ってるばかりか、俺達が派遣した部隊を足止めした事の詫びもねぇ。
そんな勘違い野郎が治めてる、何処にあるかも分からねぇようなチンケな国が、今、帝国内ではホットな話題になっててな」
「!!?」
「そのチンケな国の国王は、帝国は図体がデカいだけで、実は二正面作戦を展開する事も出来ないぐれぇ貧弱だと思っていて、そんなデク野郎相手に啖呵切って人気取りしようとしてる馬鹿か、ケツに最新の魔道砲をブチ込まれたいマゾ野郎なんじゃねぇのか? って意見が出たりしてるんだ」
「!!!?」
「下品な話をしてすまなかったな。
まぁ安心してくれ、俺も皇帝もそんな風には思っちゃいない。国土のように広い心と大きな器を持った人間だ。
だから、お前が万が一そんな事を考えていたとしても、俺がするのは、せいぜい ”このぐらいの事” だ」
ドガッッ!!!
テーブルを蹴り壊した高官は、怯え切って床に伏せるストラス国王ザーヒルに言った。
「数日中に、俺達が喜ぶ政策を発表してくれ。楽しみにしてるぜ?」
その後、事務所に戻った私にザーヒルが泣きついてきたが、こんな事もあろうかとストレス耐性極大を付与してあるのだ。問題無いだろう。
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「おい! てめぇが余計な事をしてくれやがったお陰で! 俺は帝国のお偉いさんに怒鳴り散らされて小便を床にぶちまけちまったんだぞ!!」
「貴方は、表向きは王様ですよ? 言い返せばよかったじゃないですか」
「言い返せる訳ねぇだろうが!! ケツの穴の拡張工事なんて御免だぜ!! 連中は、数日以内に喜ばしい政策を発表しろって言ってた! 何とかしねぇとサファヴィー公国に併合されたプチアみてぇになっちまう!!」
少し前に、南西の小国プチア王国がサファヴィー公国に併合されたのだが、不気味なほど静かに事は進み、我々が知ったのは全てが整った後だった。
表向きは武力衝突も無く、平和的な併合だったとなっているが、真相は闇の中だ。
「心配無用ですよ。トリア王国が近々 ”何か” 発表するそうなので、帝国の関心は逸れるでしょう」
「あ!? てめぇの心配無用なんて当てにならねぇんだよ!!」
ザーヒルは気が気じゃないといった様子だが、私には帝国が喜ぶようなネタは無いし、そもそも喜ばせるつもりも無い。
私が、なぜ帝国に対して良い印象を持っていないのかと問われても、正直なところ、明確な理由を説明する事は出来ない。
ぼんやりと、私は彼等と仲良くする事に抵抗を感じていて、最終的には ”私にとって邪魔な国” 筆頭として立ちはだかる。何となくだが、そう思うのだ。
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アルザスは、東西を隔てていた国境付近に王都を移転すべく再開発をスタートさせた。
その会見で、アルザスは色々と話をしてくれたのだ。
「東トリアが使ってた魔導兵器は俺の管理下だ。
殺り合ってる最中の悲しい出来事は、俺をハメようとしやがったのかも知れねぇし、鼻クソほじりながら無駄話してたら、うっかり発射スイッチに肘が当たっちまったのかも知れねぇ。
だが、運用してた騎士は石の下で、命令を出してた旧王族はトンズラしちまってる。
今更、真相は確認のしようもねぇが、最早どうでもいい事だ。
少なくとも、俺が国民を危険に晒す事はないからな。
それとな…… トリア王国は、隣国のストラス王国を安全保障上の重要な位置あると思ってる。色んな意味でな」
「ストラス王国は、確かに紛争の長期化という懸念に対して、ある種、特効薬的な役割を果たしていましたね」
「まぁそういう事だ。東西の紛争が長引いてたら、魔道砲を使った自作自演が繰り返されてたかも知れねぇし、他国の部隊が介入してたら、戦火と犠牲者の数は壊滅的に拡大していただろう。
その辺を冷静に判断出来るストラス王国と、安全保障条約を締結する事になった」
「!!?」
「それと、これは異例な事だが、避難民の安全確保で良い仕事をしてくれたvictory order社とパートナー契約を結ぶ事にした。
トリア王国は、victory order社に領土の一部を提供し、持続的な投資を行っていく。
詳しい話は、ストラス王国のハンサムな報道官に聞いてくれ。
以上だ」
これを聞いたストラス王国の新国王は発狂した。帝国が喜ぶ要素は微塵も無く、単に目の上の瘤が大きくなっただけの話だったからだ。
事実、この会見のお陰で帝国から更に睨まれる事になるのだが、今回の決定は個人的には歓迎出来るものだ。
victory order社は、更に知名度を増し、グローバル企業へと一歩前進したのだから。




