#34 東西トリア紛争2
「進軍の口実が気になりますが」
「俺の密偵が手に入れた情報だ。東トリアが、帝国に魔導兵器購入を打診した」
「魔道砲ですか?」
「そうだ。先月、東トリアへの売却が承認されて、パーツが既に運び込まれてる。
射程の短い旧式とはいえ、配備する場所によっちゃあ十分脅威だ。弾が飛んで来てからじゃ遅せぇからな」
2世代前の魔道砲らしいが、射程距離は最大300km、威力もさほど高くない。だが、確かに配備する場所によっては、アルザスは安眠出来なくなるだろう。
「日程をお聞きしても?」
「招集は2ヶ月後だ。言うまでもないだろうが、送り込む犬種を間違えるんじゃねぇぞ」
「ご心配無く、心得てますよ」
事務所に戻ると、私は幹部を集め、2ヶ月後に迫った東西トリアの紛争について話を始めた。
今回の主となる任務は、進軍した西トリア騎士団への兵站だが、その他の任務の為に、複数のタスクフォースを編成する。
「以前から気にかけていた案件ですが、ちょうど2ヶ月後に、東西トリアの紛争が起こります」
「「!!?」」
「我々は西トリア側に付き、前線への補給任務を請負います。そこで、幾つかのタスクフォースを編成し、幹部の皆さんには指揮官として張り付いてもらいたい」
補給任務には、シド、エスカー、ルミナ、魔王ミア、そしてA-の兵士10名程の分隊を4つ。
それとは別に、居残り組としてヴィットマンを指揮官とし、その指揮下にA-の兵士10名を隊長とした分隊にB+の兵士とヒーラーを組込み、10個の班を編成させる。
更に居残り組2として、ルナを指揮官とし、シャーロットとベル、エヴドニア、それに残っているB・Cランクの社員と新入社員の合計600名を3つの中隊に分けた。
「おい、ラインハートよ! 俺が補給任務から外れているのは何故なんだ!?」
ヴィットマンは語気を荒らげ、ルナは少々呆れ顔だ。だが、ルナはヴィットマンとは違う疑問を持ったようだ。
「ミア様入ってるけどいいの? それに補給任務って前線に物資を輸送するだけでしょ? 何で幹部が3人も編成されてんのよ」
ルナは、たかが物資を運ぶ程度で戦力過多だと思ったようだが、輸送任務は非常に危険なのだ。
兵站線を断たれる事は、生存率の低下に直結する。今回の主戦場は東トリア領内だと予想されるので、西トリアの戦力がある程度進軍した段階で、後続の部隊との分断を狙った伏撃を仕掛けて来るだろう。
その時、集中砲火を食らうのは、間違いなく補給任務を担う我々後続部隊だ。東トリアは西トリアの兵站を断ち、前線の戦力の士気と命を奪い去るだろう。
まぁ、そんな責任重大な補給任務には、高い適応性を備えた戦闘部隊が不可欠な訳だ。
「…… それは分かったわ。でもミア様は流石に不味いんじゃない?」
「大丈夫よ。力は並の人間程度に抑えるし、私を連れて行けば、きっと役に立つわよ?」
「…… 違います、見たいの。私も間近で何が起こるのか見たいの!!」
ルナは、”その場” に魔王が存在している事の重大性について意見しているものと、その場の誰もが思っていた。
だが、ルナはそのニュアンスを隠れ蓑に、とんでもない本心を隠していたのだ。
結局、録画用魔道具で一部始終を撮影してプレゼントする事を条件に、ルナは大人しくなり、ヴィットマンには居残る理由を説明した結果、彼もまた大人しくなった。
「で? ライ。お前はどこにも入ってねぇけどよ、どこで何するつもりなんだ?」
「私は事務所で大人しくしています。特にする事がありませんから」
「「「はぁっ!!?」」」
……………………………………………………………………………
その数週間後、西トリアの動きを新聞屋達は見逃さなかった。
「テオ報道官。
ここ数週間、西トリアが国境付近の兵力を増強しているとの情報がありますが、両国と国境を接するストラス国としては、どのようにお考えでしょうか?」
「我々の元にも様々な情報が入って来ている。現在、それ等の情報を精査している最中であり、現時点でコメントする事は無い。
最も近い隣国であるストラス国としては、両国に対し、緊張を高める行動を慎むよう求めていく」
テオの定例会見と時を同じくして、東トリアの高官とゲヴァルテ帝国の外交官が密会していた。
複数の兵士が同行していたので、配備した魔道砲の点検と、それを運用する東トリア騎士団の練度を確認しに来たのだろう。
「西トリアの連中は獰猛で脳筋だ、突入は一般の騎士でというのが定石だが、奴らは何を送り込んで来るか分からん。
だが、何を送り込んで来ようと、孤立させてしまえばお終いだ。旧式とはいえ防城結界を撃ち抜く威力の魔道砲で後続の部隊を足止めすれば、伏撃する側である東トリアの優位は動かないだろう」
「ですが、もし万が一の時は」
「分かっている。皇帝も支援を惜しまないと仰っておいでだ」
東トリアの高官は、帝国側の言葉に大いに喜び、何処かの役に立たない民間軍事会社を扱き下ろした。
まぁ、確かに ”何処かの民間軍事会社” は物資を輸送するだけで、敵勢力の殲滅には関わらないので反論は出来ない。
……………………………………………………………………………
「現刻より状況を開始する。
3個騎兵大隊、侵攻を開始せよ!!」
その日、前線に展開していた西トリア騎士団の戦力、その15%が国境を越え、東トリアになだれ込んだ。
「今の所、魔道砲をぶっ放したって情報は入ってねぇ。予定通り、犬共は明日の朝一に出発させるぞ」
「了解ですよ、アルザス陛下」
私は、ストラス城の通信用魔道具を使い、アルザスとやり取りしていた。
私が君主専用の通信用魔道具を使っている事に対してアルザスは何も言わないが、それは立て込んでいるからで、事が終われば真っ先に聞きに来るだろう。
翌朝、魔王ミアを含む我が社の部隊は、食糧や水、ポーションの類に、攻撃用の魔道具を積込み東トリアへ入った。
victory orderの部隊は、その存在を知られたくない事情があったので、男子諸君はフルプレートアーマーを装備し、女性は魔導師装備でフードを深く被った。
4頭立ての大型馬車の列は1.5kmに及び、我々の部隊は4班に別れ、物資を守るべく警戒していた。
侵攻初日の夕方には、第2陣の戦闘部隊が送り込まれいるので、それを追うように前進する我々は、比較的安全なはずだ。
東トリア領内に入ってから数時間が経過し、遠方で爆発音が聞こえ始めた。遠目に白煙を確認したが、まだまだ距離がある。
「そういやぁ、ライが言ってたんだけどよ。本当はヴィットマンを組み込みたかったらしいぜ」
「そうなのか? 何で止めちまったんだろうな」
「あの人間離れしたガタイが問題だったらしいぜ。俺達は関与してない態で、穏便に事を進めたいのに、アイツが居たらフルプレートアーマー着ててもバレるからな」
「あ〜、あんなゴツイ奴は他に居ねぇもんな」
”あんた達、無駄話してる場合じゃないわ! 砲撃よっ!!”
シドとエスカーが無駄話をしていた時、念話でルミナ叫んだ。
遂に、東トリアが魔導兵器を使用したのだ。




