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#33 東西トリア紛争

「ラインハートさん! アリシオン陛下の許可はもらいました!」


シェフシャ国の新聞屋は、最新の魔道具を破格で手に入れると、約束通りストラス国での議員選挙の様子を城下町の広場で上映した。

彼等の真摯な対応で、最新の魔道具の販売元であるvictory order社には、引っ切り無しに問い合わせが入ったのだ。


「V. O .Factoryに社名変えちまうか?」


エスカーが何故か御満悦だ。

まぁ早い話が儲かっている。ストラス国王に議会設置の話をする前に、私は国内の魔道具屋に大口の発注をしておいたのだ。

しかも、営業している全店舗に対してだ。


魔道具の原料となる魔石は他国でも産出されているが、魔道具は様々な場所で利用されていて需要が無くなる事はない。そして、ストラス国は、その魔石の質、量共に大陸一の産出国なのだ。

産出国ならば、魔石を加工する技術が先進的で、魔道具製造業は潤っているだろうと思ったが、行く店行く店、全て閑古鳥が鳴いていて、店主や従業員からは意欲のいの字も感じられない。


「この国で産出される魔石の8割は帝国に輸出されてる。帝国は莫大な予算を、魔道具の開発に割り当てて、技師や先進技術を囲いこんでんだ」

「皆さんは、帝国に働きに行かないのですか?」

「俺達みてぇな二流の技師は雇ってもらえねぇよ。俺達に出来る事は、原石を掘り出して売るか、世代遅れの魔道具を作る事ぐれぇよ」


やる気が無いのは問題だが、暇そうにしているのは好都合だった。

私は、彼等に最新の魔道具を披露し、その製造を打診したのだ。


「世紀の大発明じゃねぇか! これに俺達も一枚噛めるのか!?」

「えぇ。皆さんには、世代遅れの魔道具製造はキャンセルして頂いて、1年間、我が社のOEM製造を専属で請負う契約…… その他を結んで頂く事が条件となりますが」


魔道具屋は快諾した。

受信用魔道具は、魔石の錬成費用も含めて原価が金貨1.5枚、そこに製造費として金貨1.5枚が上乗せされる。

そして、販売価格は金貨5枚だ。

中継用や撮影用の魔道具は、比較にならない程高額だが、高く設定し過ぎて普及の妨げにならないよう受信用魔道具は安価に設定した。


そこで気になるのは技術やノウハウの流出だろう。

人間の応用力は素晴らしいので、どこかで類似品が出てくるのは止むを得ないが、半年間という期間限定で、製造業者にはペナルティを設定したのだ。


その期間内に模造品が流通した場合は、有無を言わさず全ての業者から金貨50万枚を取立てる契約だ。

この新しい技術を解明するのに、帝国と言えども半年以上は費やするだろう。そして、製造業者が契約する相手は軍事会社だ。我々は命までは取らないが、業者はそうは思っていないかも知れない。


……………………………………………………………………………



受信用魔道具や中継用の魔道具は飛ぶように売れた。

小さなストラス国に、他国の商隊が訪れ、それを有るだけ買い漁ったのだ。

この調子なら、帝国が技術を解明する前に、民間にも広く普及するだろう。


設置した議会も様々な問題を提起し、活発に議論している。


「テオ報道官。今回の議会設置について、他国では賛否両論あるようですが、目的についてお聞かせください」

「他国で賛否が別れているのは承知している。

我が国の王は、盲目的に政策を推し進める事は無い。

民意を尊重し、民の為の政策を実行していくだろう。議会を設置したのは、それを明確にする為だ」


テオも、報道官として働き始めた。

これまでボンクラ息子と言われていた新国王の株は急上昇したが、それ以上に、テオの評価がうなぎ登りだ。

おしゃべり大好きなマダム達は、ハンサムなテオの定例会見を見る為だけに、ヘソクリを握り締め、受信用魔道具を買いに走った。


……………………………………………………………………………


「景気はどうだ?」

「良いように見えますか? 最近、南部は盗賊の数も激減してしまって、商売あがったりですよ」

「そうかよ。その割には、求人して固定費を膨らませてるって聞いたぜ?」

「噂を聞いたんですよ。東西トリアの紛争が始まりそうだと、風の噂をね」


私は西トリア城に呼び出され、アルザスと2人で世間話をしていた。

アルザスが私を呼び出した理由は、東トリアの外交官が私に接触したという情報を手に入れたからだろう。

その情報の通り、確かに新聞屋を装った東トリアの外交官が、victory order社を訪れていたのだ。


「で? 連中の依頼は?」

「詳細はお話出来ませんが、以前、アルザス陛下が仰った事と似たようなものです」

「…… そろそろ依頼しないといけねぇと思って呼び出したんだが、一足遅かったみてぇだな」

「…………」


そう言いつつも、アルザスは依頼書を私の前に置いた。

内容は、前線への補給任務。

報酬は、1日金貨10万枚だった。


「アルザス陛下。今回、victory order社は西トリアに付く事にします」

「そう言ってくれると思ってたぜ」

「東トリアが提示した報酬は、今、提示された金額を上回ります。

ですが、私は、我が社の幹部2人…… 元英雄にも市民権を与えてくださった事を非常に感謝しています」

「…………」

「我が社は、仁義を守るということです」


まぁ、今の話は冗談では無い。

東トリアの提示した報酬は金貨15万枚。ここでアルザスに恩を売っておく必要があると感じたし、今後の事を考えれば、東トリアに付くべきではないのだ。


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