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#31 布石

サファヴー公国から戻った2日後。

victory order社には、各国の報道陣が押し寄せた。


「ライ。コイツら、俺がイラついてるって事を分かってねぇ。ケツを蹴り上げてやってもいいか?」


報道陣とは言ったが、厳密には新聞屋だ。

彼等は、常にネタに飢えていて、国境を越えて取材する。エスカーは執拗いインタビューにうんざりしているが、耐えてもらっている。


「今回の盗賊団掃討作戦は、サファヴー公国からの依頼だったんですか!?」


捕らえた盗賊団は、大陸南部でそれなりの規模の盗賊団だったらしく、我々は一躍有名企業になった。

今回は、サファヴー公国で拘束されている社員を解放するための作戦なのだが、街道の治安悪化を懸念したvictory order社が、自発的に部隊を編成し盗賊団のアジトを急襲した。

そして、賞金首の幹部を拘束し、 ”とある事情があって” 遠方のサファヴー公国へ引き渡した。という事にしておいたのだ。


「今日は、折角お越し頂いので ”最新の魔道具” をご紹介しようと思います」


各国から訪れた報道陣に紹介したのは、リアルタイムで映像を投影する事の出来る魔道具だ。

これは、録画した映像を再生する機能しか無かった既存の魔道具からインスピレーションを得た物で、3種類の魔道具が1セットとなる。


「ラインハートさん、これは?」


セットの内訳だが、1つは撮影専用魔道具。

もう1つは、撮影専用の魔道具のデータを中継する専用の魔道具。これを各地に設置すれば、遠方の通信も可能となる。

最後は、中継されたデータを映像として投影する魔道具だ。

タイムラグは無いに等しい。


「私は、この魔道具を報道各社に対し、先行して販売していきたい。そう思っています」

「「!!?」」


普及させるには、まだまだ気付きを与えなければならないが、その場に居合わせた報道関係者の反応は良好だった。

ちなみに、魔道具を作ったのは魔王ミアだ。


……………………………………………………………………………


「もう何でもいいよ。どうせ反発すりゃ地獄を見んだろ?」

「随分賢くなりましたね。良い事です」


私は、ストラス国内で ”議会” を発足させるべく段取りを始めていた。

君主制の国だが、王の施策に賛同するばかりでは先が危うい。現場主義者という訳ではないが、当事者しか解らない問題や、国家が介入するしかない根の深い問題もあるだろう。

その類を掘り起こし、解決する為に手足の様に動く者が必要だ。


「王様の言う事を素直に聞いてりゃいいと思うけどな」

「国王? 賢く優秀な人材は、議会という場で頭角を現す可能性が高いのです。そして、その様な人材には、後々重大な権限を任せる事が出来る。国王と議会が連携を取って、国を良くしていくのですよ」

「けっ! 意味分かんねぇ」


優しく諭したが、彼に分かってもらおうだなんて正直1ミリも思っていない。ただ、私は魔道具の実証実験結果と優秀な人材が欲しいのだ。


その頃、城下町の広場では、騎士団長ゲオルグが議員候補者の応募を募っていた。


「国王の名において、年内にストラス国家議会を設置を宣言する。

目的は国家の繁栄、国民の豊かな未来の為である! 国民の代表として議論し、身を粉にして難題に取り組む者を、国王陛下は求めている!!

自薦他薦は不問! 種族や家柄、年齢も性別も制限しない! 我こそはと思う者! あいつならば! と心当たりのある者は、王城まで出向き登録せよ!!」


と、大声で喧伝していた。


……………………………………………………………………………


それから数週間後、あまり期待していなかったが、意外にも多くの立候補者が現れ選挙戦が始まっていた。

貴族やそれなりの財力を持つ商人が目立つが、平民も多数出馬している様なので何よりだ。

私や元英雄の2人は、住民登録が西トリアなので選挙権は無い。だが、シド達はストラス国に住所を移しているので投票用紙が送られて来ていた。彼等には、各候補者の演説を聞いて、志の高い者に投票するようお願いしたのだった。


4人が街に出掛けて行った後、事務所にシェフシャ国の新聞屋がやって来た。

要件は、以前紹介した魔道具についてだった。


「皆さん、丁度いい所にいらっしゃいました。ご存知かと思いますが、ストラス国では議員選挙が行われています」

「えぇ、他所の国には無い事なので、我々も興味深く注視しています。国民が国政に関与出来ると認識しているのですが、ラインハートさんは何かご存知ですか?」

「いえ、私は西トリアの国民なので詳しい事は何も。ですが、今回の選挙で、我が社の開発した魔道具が試験的に導入されています」


私が魔道具を起動させると、そこには街の至る所で演説している様子が映し出された。


「ご覧下さい。これは、今、街で行なわれている選挙演説です。録画ではありません。リアルタイムです」

「「!!?」」

「これを貴方が手に入れたとすれば、貴方の伝えたいニュースを、受信用魔道具を持っている人々にリアルタイムに伝える事が出来るのです。

各地のイベント情報や、他国の動向、国の祝い事。遠方の美しい景色も全てです」

「買います! 是非売っていただきたい!!」

「少々値は張りますが、条件を飲んで頂けるなら割引しましょう」

「条件とは?」

「シェフシャ国の広場に受信用魔道具を設置する許可を貰い、そこで他国のニュースとしてストラス国での選挙の様子を上映して下さい。アリシオン陛下には、この魔道具を既に献上しています。話は早いでしょう」


新聞屋は、何としても許可を取りつけると言い、大急ぎでシェフシャ国へ戻って行った。

受信用魔道具は一般向けにも販売するので、大量生産するつもりだ。



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