#27 招かれざる客達
「ライ、お前にお客さんだ」
ストラス国王から慰謝料も受け取り、私は朝から気分良くベルの訓練を行っていた。
そんな時、エスカーから念話が入ったのだ。
因み、エスカーは来客があったとしても、滅多に私を呼び出そうとはしない。もし呼び出すとすれば、西トリアの国王が来た時か、自分では判断しかねる状況になった時だ。
屋敷に戻ったが、どうやら後者だったようだ。屋敷の庭で、200名程の魔王軍部隊がお出迎えしてくれたのだ。
「立ち話もなんですので、部隊の責任者の方は中へどうぞ」
1人の魔族が、何も言わず後をついて来た。
「お掛けください。私は代表のラインハートと申します。本日はどの様なご用件で?」
「ラインハート? 貴様はアシェルであろう? 軍を辞めたと聞いたが、まさか人間の領土に居るとはな」
「ライ? 知り合いですか?」
「いいえ、他人の空似でしょう」
「……? ラインハートと言ったか? まぁ貴様が何処で何をしていようが、どうでもいい事だ。今日、我々が此処に来たのはな、魔王ミア様の安否を確認する為だ。魔王軍は、この地で魔王ミア様の魔力を探知した」
この魔族は、私と同じ魔王軍最精鋭部隊に所属していた ”アグスティナ” という兵士だ。 魔王候補として名前が挙がる程の ”猛者” である彼女が出張って来るとは、一体何事なのだろうか。
気になるが…… 聞きにくい。
「今日は、その魔王様の安否を確認するだけですか?」
「そうだ。無事だと確認出来れば退散するが…… 危害を加えられていたり、もし万が一、死亡が確認されれば戦争が始まるだろう。
魔王ミア様は、貯まりに貯まった約2400日という有給休暇を一気に取得し消息不明となった。余りにも長い期間戻らない魔王ミア様を、鬼ヶ島の鬼人族共が心配して騒ぎ出した結果、本部より、私に捜索命令が出たのだ。そして、ミア様の魔力を探知した場所は人間の領土だったという訳だ」
聞いてもいない事まで喋ってくれたが ”貴様は、どうせシラを切るのだろう” と言うと、アグスティナは屋敷を出た。
「よぉ、魔族の姉ちゃん。今日はドンパチやらねぇで帰るのか? あ?」
屋敷の外には、アドレナリン全開の幹部達が待っていた。
エスカーは何時になく荒ぶっているが、そんな彼に、アグスティナは言った。
「兵士も揃っていないのにドンパチなど始める訳なかろうよ。本土に戻って直属の部下で編成し直す必要があるかも知れん」
「そこにイカついのが大勢居るじゃねぇか」
「……ふっ、こんな雑魚共に背中を預ける訳にはいくまいよ。なぁ、そう思うだろ? ラインハートととやら」
妖しく光る魔眼。彼女は、少し微笑みながら私に言ったのだ。
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一先ず魔王軍の脅威も去った victory order社には、翌日、盗賊団が訪れていた。
私と頭領が話をしている間、表ではエスカーやシドが、盗賊達に超至近距離でメンチを切っている。
連中が暴れださないように牽制してくれているのだと思った私は、放置して話を続けた。
「いつまで待たせるつもりだ? まさか忘れたなんて事ぁねぇよな?」
「申し訳ない、すっかり失念してましたよ。最近忙しくてね、クソの依頼は特に忘れがちだ」
「てめぇ!!」
「 ”てめぇ” じゃありませんよ。 此処がどこだか分かってますか?」
「…… すまねぇ。つい、いつもの癖が出ちまっただけだ。気を悪くしないでくれ。
何ヶ月か前に頼んでおいた輸送依頼だ。
そろそろ運んでもらわないと不味い ”ブツ” がある」
そろそろ? …… 確かに、この盗賊の頭領と思しき男から依頼書を預かったのは、ローラの件でバタバタしていた頃なので、半年近くは無視していた案件だ。
短気な輩にしては、よく今まで待ったものだと、ほんの少しだけ関心した。
我々には、請ける権利も断る権利もある訳だが、今回は、気長に待っていた頭領に免じて請けるとしよう。
「1つ言っておきますが、おたくら盗賊や魔物から、人や物を守る為に我々が運ぶんです。襲う側の荷物を運ぶ事に関して、私は様々な疑念を抱いていますからね。
ですが、今回は待たせた詫びという事で、特別に請けましょう」
「てめぇらが容赦ねぇから、騎士共の相手する余裕も無いぐれぇ、部下の数が減っちまってんだよ」
「そうですか。で? いつ、何を、何処に運べば良いのですか?」
頭領は、来週末に荷馬車に積んだ荷物を持って来るので、それを西トリアよりも更に西の国 ”サファヴィー公国” に運んで欲しいらしい。
荷物の詳細は不明。無理矢理聞き出す事も、その場で点検する事も可能だが、我が社がそれをすることは無い。
「良いでしょう。送料は、金貨30枚前払いです」
頭領は、金貨30枚を支払い屋敷を出た。
金はもらったので約束通り荷物を運ぶが、行き先はサファヴィー公国という、皇帝から爵位を賜った貴族が治める国だ。
そんな国に、盗賊が送りたがるのは一体何なのだろうか。
まぁ何でも構わない。爆発物でも気にせず運ぶのが我々の強みだ。




