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#19 ナホカト国の悪夢Ⅵ

ローラが豹変しても、怒らず焦らずフレンドリーに接するように通達し、私は西トリアの王様に会いに行った。


「アルザス陛下、シェフシャの件の報告書をお持ちしましたよ」

「おう、仕事が早えぇのは良い事だ。

こっちも、お前の欲しがってる情報は調べといたぜ」


アルザスに頼んでおいた奴隷市場の情報が手に入った。年齢、種族、性別、身体的特徴と売買された日にち、そして販売した奴隷商が記されている。

その中に、イザベルの特徴に合致する者は含まれていない。そして、盗賊絡みの殺人事件に関しての情報ももらったが、十数件の事件の内1件を除いて victory order社 に返り討ちに遭った強盗未遂事件だったのだ。


「お前ん所は、いい仕事をするって評判だ。だがな、少しばかり派手に殺り過ぎる癖があるようだ。焼け焦げてたり、細切れだったり…… 現場を通り掛かった商人やら旅人がビビっちまって通報が絶えねぇ」

「我が社は、盗賊相手に手加減はしませんよ? 仕事の邪魔をする者には死あるのみです」

「そうかよ、頼もしい野郎共だ。俺が東トリアとドンパチ始めたとして、お前ん所の猟犬を貸せと依頼したら参戦するか?」

「報酬次第です。金さえ払えば、我が社は何でもやりますよ?」

「その内依頼するかも知れねぇからよ。心の準備しとけ。補給任務だ」

「補給任務…… ですか。

分かりました、心の準備をしておきましょう。

あぁ、アルザス陛下。もし、同じタイミングで東トリアから依頼が入れば、我が社は払いの良い方を取りますので」

「…… あぁ、心と金の準備をしておこう」


人探しで忙しいのに、くだらない盗賊の依頼に国家対国家の戦争が控えている。

護衛や輸送の依頼も日々舞い込んで来るので、スケジュールはビッシリ埋まっているのだ。

そろそろ、兵士の求人をする時期なのかも知れない。


西トリア城を後にした私は、城の近くの甘味処に向かった。

シドとルミナ、そしてルナとシャーロットが待っているのだ。


甘味処に入ると、奥の席に4人の姿があった。食べ終えたばかりだろうか、その表情はとろけんばかりに緩んでいる。


「ライ、こっちだ! 早かったな!」


私も席に着き、目星い情報は得られなかったと報告した。一瞬項垂れた彼等だったが、良い案があると私に提案して来たのだ。


「ローラの依頼は、後一ヶ月で期限だ。

見付かりませんでしたって事にして、お引き取り頂いたらどうだ?」

「エヴドニアの方は期限無しですよ? どうするんですか?」

「そっちにはローラの居場所を教えてやれば済むだろ? 気楽に行こうぜ」


シドは本気でそう思っているのだろうか。

創業して間も無い victory order社は発展途上、つまり全てに於いて蓄積していかなくてはならないのだ。

信用と実績、それを作り上げる資源、そして、それを客観的に評価し、会社のパフォーマンスを向上させていかなくてはならない。

私は代表として、幹部とはいえチョロく稼ごうとする意見に迎合する訳にはいかないのだ。


「その提案は却下です。どんな依頼だろうが、請けたからには手を尽くさなくてはいけません」


私の言葉に、ルミナはニッコリと微笑んだ。


「シド? そんな事してたら仕事無くなっちゃうわよ?」

「冗談だって、ライを試しただけだ」


ルナに突っ込まれ、シドは試したと言ったのだが…… 泳いだ目は口ほどに物を言っていた。



……………………………………………………………………………



西トリアを出発し、ストラスに戻る道中の事だ。


山道を進む我々は、2つの集団に遭遇した。

言い争っているように見えたが、どうやら何かの取引をしているらしく、価格交渉の最中だった。


「これは ”魔族の始祖” だ。そんな値段じゃ売れねぇ!」


奴隷商の一団は、職業農家風の集団が何処かで見つけて来た魔族の始祖と思しき何かを欲していた。


正直、余りにも下らない話だと思った。

魔族の始祖とは、魔王軍のトップである大魔王なのだ。犬のフンじゃあるまいし、そんな危険物が落ちていては堪らない。

その横を通り過ぎようとした時、大き目の荷馬車に積まれた ”魔族の始祖” の姿が僅かに目に入った。

魔力で出来た深い蒼の聖櫃に包まれた ”オーガ族の姫” の姿が。


魔王ミア様…… その姿を見間違える訳がない。

一瞬にして血圧が上がった私は、咄嗟に紙とペンを取り出し書き殴った。


「シド。貴方は依頼を請けるばかりで、自分で依頼をした事はありませんね?」

「え!? お、おう。依頼をした事はねぇな……」


私は、書き殴った紙と2000枚の金貨をシドに押し付け ”その内容で” 私に依頼をするように迫ったのだ。


「えーっと…… 何なに。 魔族の始祖を大至急強奪。は?…… おい、強奪って何よ?

報酬 金貨2000枚。

運搬している者、その他の生死は問わない…… え?」

「さぁ、その紙と金を私に渡せば自動的にミッションスタートです。 さぁっ!!」


冷静さを失った私を見て、流石にルナもルミナも止めに入った。


「ライ、急にどうしちゃったのよ!

何でいきなり……」

「何故かって? クックックッ…… そんなの簡単な事ですよ。目の前に奴隷商(宿敵)が居るからです!! シド! 早く渡すんです!!」


クラス ”闇の支配者(ダークロード)


その覇気に当てられ、怖気たシドは即席の依頼書と現金を私に渡そうと震える手を伸ばした。

それで良いのだ。それが私の手に渡った瞬間、2つの集団は骸と化す。


「ライ! ちょっと待って!」


血が昇った私の頭にルミナの手刀が炸裂し、闇の支配者(ダークロード)の覇気は鳴りを潜めた。


「何でそんなに切羽詰まってるのか知らないけど、盗賊紛いはダメよ? 交渉して買い取ったらいいじゃない」


ルミナは天才だった。

そう、知ってか知らずか、私は大金を持ち合わせているのだ。


「失礼、その ”魔族の始祖” とやらに私も興味があります。ご希望の金額で買い取らせてもらえませんか?」

「あ? 兄ちゃん、お前誰だよ?」

「申し遅れました。

私は、ストラス国で民間軍事会社を営んでおります。代表のラインハートという者です」

「てめぇ、 victory order の社長かよ!?」


奴隷商の男が反応した。

どうやら、仕入れや運搬で各地を回る仕事柄、我々の ”素晴らしい仕事ぶり” を知っているのだろう。

基本的に、我々は奴隷絡みの仕事は断っているので、自分達奴隷商がよく思われていない事を理解しているらしい。


傭兵(ハイエナ)が横から口出して来るんじゃねぇよ。この商談は金貨5000枚で話が付いた」

「我々は傭兵(マーセナリー)ではありませんよ?

まぁ、それは良いとして…… 」


私は、金貨5000枚で万遍の笑みを浮かべる職業農家風の男達に、金貨1万枚を提示した。

彼等は商人ではないので、持続させるべき信用もクソもないだろう。一方、奴隷商の男達は、私の提示した金額以上を払えなければ話は流れる。


「1万枚!?」

「えぇ、勿論即金です。

奴隷商と私は、偶然ここを通り掛かり、あなた方に出会った。

縁もゆかりも無い者に気を遣う必要はありませんね? 高く買ってくれる方に売るべきだと思いますよ?

我々に売り渡せば、その後に発生しうる厄介事の始末もキレイに処理されるでしょうし」


職業農家風の男達の表情は、完全に金貨1万枚だ。だが、奴隷商の男達が黙っている訳もなかった。

事もあろうに、彼等は職業戦闘民族の我々に刃を向けたのだ。


「おい、戦争屋! 俺は思い付いちまったぜ? 金を払わずに ”魔族の始祖” を手に入れる方法をよぉ」

「その思い付きは最適解ではありません。

たかが20人程度の素人と、数名の頼りない護衛では手に余るでしょう。

その10000倍の戦力を揃えて、初めて私と対等かどうかという所です」

「しゃらくせぇぜ! クソガキが偉そうに物申してんじゃねぇぞ!!」


この世界では

若かろうが壮年だろうが、細かろうが逞しかろうが、強面だろうが優男だろうが、武器を持っていようが持っていまいが関係無い。

使える魔法とスキルの差は、全ての認識を覆す程の戦力差となる。


「…… 黙れ」


一緒に居た幹部達は、私の口調が変わった時 ”ヤバい!!” と本能的に思ったそうだ。

しかし、その後に彼等が予想した事態(血の雨)は発生しなかった。

殲滅領域内に取り込んだが、魂に少々暴行を加えて、すぐに肉体に戻したのだ。


「ライ? 例のスキルか?」

「えぇ、少し鼻先を小突いてやった程度ですが」

「冗談キツいぜ? 鼻先小突いた程度で小便ぶちまけるかよ」


亜空間で何が起こったかは秘密だ。

農家の集団に金を払い、私は魔王ミア様の安全を確保したのだ。


「でもさ、この魔族生きてる?」

「生きています。

とにかく急ぎましょう。話は事務所に戻ってからです」


私には確信が有った。

一見、どんな物理攻撃も魔法も寄せ付けない聖櫃に守られ、目覚める気配も感じさせない魔王ミア様だが、一定の条件が揃えば目覚めると。


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