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#12 取引

事務所に戻ると、暇そうにしている幹部達の姿が目に付いた。

勝手に合流して来るだろうと思っていたが、意外にもちゃんと指示には従ってくれる。

まぁ、口は悪いが。


「ライ。俺達はさぁ、暇で暇で仕方ねぇんだよ。

そんな俺達の為に、西トリアの国王とはバッチリ揉めて来たんだろうな!?」

「いいえ。今後揉める事になる可能性はありますが、それはまだ先の話です」

「まどろっこしいのは嫌いだぜ?

チャチャッと殴り込みかけて! 皆殺しにして! 取れるもん根こそぎ取っちまおうぜ!!」

「…… エスカー。

我が社は、殺人鬼や強盗の吹き溜まりじゃないんですよ?

揉めるにしても、動機が必要ですし、筋も通さなくてはなりません。

暫くの間、アドレナリンは提供出来ないかも知れませんが、今日は退屈な留守番を引き受けてくれた皆さんと、くだらない商談に同行してくれた皆さんに豪華な食事と酒を振る舞う所存ですよ」

「やっったぁぁっっ!! とりあえずは、それで我慢してやる!」


単純な男だ。

出払っている社員には申し訳ないが、その日はバーベキューを楽しんだ。

今日は西トリアの国王と会い、帰り道に騎士を半殺しにし、いつ風向きが変わるのだろうかと楽しみにしていたが、その刻は意外にも早く訪れる。


翌朝、私は何時もの様に早朝から出社し、依頼や報告書に目を通していた。


「あ!? ガサ入れ!? 代表を出せ!? てめぇらは誰の命令で動いてんだ!? あ!? 西トリア!? 知らねぇな!そんな国は!!」


エスカーの声だ。

外を見ると、大勢の騎士相手にエスカーが怒鳴っていた。

その騎士は、西トリアの騎士団では無くストラスの騎士団だ。


(ライ。ストラスの騎士団様が、お前に会いたいとよ)

(すぐ行きます)


念話だ。

相手の許可が必要で、5km程の距離まででしか通話出来ないが、市街地戦や、ちょっとした遣り取りには便利な魔法だ。

最も便利な機能は、特定の波長を設定し共有出来る事。

それをすれば、グループでの遣り取りが可能になるのだ。


私が外に出ると、ぞろぞろと幹部達も出て来た。

私とエスカーの念話を聞いていたと言うよりは、エスカーの怒鳴り声が五月蝿すぎて起きてしまったといった感じだ。


「おはようございます。

今日は何用ですか?」


私の問いに、騎士団長と思しき男が答えてくれた。

どうやら、西トリアから重要参考人として、私の身柄を引き渡す様、要請があったそうだ。

そして、事務所を捜索…… 具体的には魔道具の回収も依頼されたらしい。


「事務所の捜索はご自由にどうぞ」

「ライ! 拒否しねぇのかよ!」

「しませんよ。

私は彼等に同行しますので、留守を頼みましたよ」

「また留守番かよ!」


項垂れるエスカーをヴィットマンが優しく慰めている。

何とも奇怪な絵面だ。

他の幹部は、事務所に入って行く騎士達に殺気を送り続けている。


「物分りがいいな。では、行くぞ」

「設備や備品を壊さないで下さいね? それが同行する条件です」

「我々も詳しい内容は知らされていないのだ。

安心しろ、手荒な事はせん」


用意された馬車に乗り国境まで行くと、西トリアの騎士団が待っていた。


西トリア騎士団の馬車に乗り換え、揺られる事1時間程。

着いた先は、西トリア城の裏口であった。


「枷の類は無くて良いのですか?」

「そんな事、俺達が知るかよ」


手枷も足枷も無し。

騎士達も、私をストラスの騎士団から預かって来いと命令されただけで、詳しい話は聞いていないようだ。


裏口から城に入り、地下の薄暗い部屋に案内された。

そこで待っていたのは、あの宰相だった。


部屋に入ると、高度な盗聴防止結界が張られた。それに、そこそこ高度な逃走侵入防止効果もおまけで付いている。


その空間は、ズラリと並んだ鎧のインテリアとテーブルに椅子が有るだけの部屋で、不用心にも宰相は私と2人きりだ。


「商談に伺った時、国王陛下もそうでした。

貴方も護衛を付けないのですね」

「護衛なら用意しているよ。

私はね、ゴーレムを操るのが得意だ。

この部屋の甲冑はインテリアじゃない、全て私の意のままに操る事が出来るゴーレムなのだよ」


インテリアだと思っていた鎧は、宰相の護衛だったようだ。

高度な結界から察するに、ゴーレムの能力、制御も中々のものだろう。


「騎士団は信用できませんか」

「いつもは騎士に護衛させている。

君達が始末した末端の騎士では無く、聖騎士と呼ばれている者達だ。

だが、今日は騎士を同席させるのは具合が悪い」

「具合が悪いとは?」

「今日は、君と私だけの取引がしたい」

「? この件は国王陛下はご存知で?」

「いいや、ここだけの話だ」


宰相は、私の録画した畑荒らしの映像を欲していた。

どうやら畑荒らしの件は、アルザスとごく一部の騎士しか知らない事なのだろう。宰相は何かを掴み掛けてはいるものの、決定的な ”証拠” は持っていなかった。

コイツは、私から手に入れた映像を帝国に持って行き、現国王アルザスを失脚させ自分が国王に成り上がるつもりのようだ。

下衆が考えそうな稚拙な手口だが、アルザスは失脚するだろう。

周辺国は帝国の同盟ばかりだ。

帝国自体は、魔王軍相手にドンパチやって手が回らないだろうが、周辺国に根回しして経済制裁を発動させれば事は済む。

制裁解除の第一歩は、アルザスが王座を降りる事が条件か。


「映像を録画した魔道具を渡してくれれば、君に爵位を贈ろう。

ストラスの辺鄙な田舎ではなく、西トリアの一等地に豪邸も用意しようじゃないか。

その周辺が君の領地だ。

いい話だろ?」

「えぇ、非常に魅力的な話です。

ですが、もし断ったらどうなるのでしょうか?」

「断れば…… う〜ん、そうだね。

目ん玉くり抜いて、代わりにもぎ取った金玉を埋め込んであげるよ。

君は騎士を半殺しにした。国家反逆罪で今すぐにでも吊るし上げられるんだ」

「なるほど」


(ライ? 無事?)


物騒な話の最中、ルミナから念話が入った。

どうやら、城の近くまで来ているようだ。


(無事です。

今、宰相と2人きりで城の地下にいるのですが、取引を持ち掛けられています。

国王ではなく、私に記録映像を渡せと)

(どうせ碌でもない取引でしょ?

断れば?)

(断ったら、目ん玉くり抜いて、代わりに引きちぎった金玉を移植してやると言われています)

(それは痛そうね。

逃げれないの?)

(逃走侵入防止の高度な結界が張られています。

触ると痛いヤツです。

それに、部屋に騎士は居ませんが、宰相のゴーレムが30体程居ます。

ゴーレムは直ぐに片付きますが、結界が厄介です)

(分かったわ。お姉さんが助けてあげる!!)

(ちょっ、ルミナ!?)


念話は切れてしまった。

恐らく、部屋の周囲には一般の騎士ではなく聖騎士が配置されているだろう。

先日同席させたおかげで、商談をでっち上げて城に入るのは可能だろうが、自由に動けるとは思えない。

正直不安だ。


「どうだね? 貴族に成るか、死ぬか。

選択の余地は無いだろ?」


薄ら笑う宰相の顔。

嘗て、何処かで似たようなものを見たと思った。

そう、魔王軍の人事部長とダブるのだ。

私は、爆発寸前の感情を抑え込み、理由まで添えて丁寧に取引を断った。


「お断りします。

貴方が国王に成れる保証も、私を貴族にしてくれるという保証もありませんね?

そもそも、生きて此処を出れる保証も無い。

私は現実主義者なんですよ、こんな馬鹿な取引には乗りません」

「折角、死ぬ前にひと時の夢を見せてやろうと思ったのによぉっ!!」

「鈍らな剣を持ったゴーレムで、私の相手が務まりますか?」

「切れ味なんて要らねぇんだよ!!

すり身になるまで叩きまくってやるんだからなぁ!!」


宰相が本性を現した頃。

ルミナとテオ、そしてヴィットマンとエスカーが部屋に向かっていた。

国王と聖騎士団を先頭に。


「貴様!! 俺の許可も無しに何勝手な真似してやがんだっ!!」


怒鳴る国王の声に、部屋の中から返事は無い。

聞こえるのは鈍器を肉に打ち付ける様な、何とも言えない怪音のみだった。


業を煮やしたヴィットマンが、得意の結界壊しでドアごと結界を破壊し部屋に踏み込む。


「なっ!?」


そこで国王が目にしたのは、粉々に破壊されたゴーレムとボロ雑巾になった哀れな姿の宰相であった。


「宰相は、あんたに内緒でラインハートを引っ張り、家宅捜索まで行った。

何故かは分かんだろ?」


テオの言葉に沈黙する国王。

宰相の裏切りに動揺しているのか。

それとも、この後の事を考えているのか。

何せ噂が本当ならば、ボロ雑巾になった哀れな男は皇帝の遠戚。

大問題だ。


「国王陛下、貴方の代わりに殴っておきましたよ」

「!?」


体裁が悪そうだ。この場には我々と聖騎士だけだが、余計な事は言わず貸しを作るべきだろう。


「国王陛下。

私は不当な取り調べの末に、30体のゴーレムで集団暴行を加えられ殺されそうになったのです。

これは過剰防衛になりますか?」

「あぁ、これは過剰防衛だ。

2、3日牢屋(おり)で頭を冷やして帰れ」


国王の言葉に、ヴィットマンとエスカーが爆発寸前だ。


「それだけで良いのですか?」

「それだけじゃねぇ。

お前には、西トリアの市民権をくれてやる。

そこのクソ野郎共にもな。

他の国はどうだか知らねぇが、西トリア国内の街なら何処でも出入り自由だ。肩で風切って歩けるぜ?

悪い話じゃねぇだろ?」

「マジかよ!? 街の酒場に行ける様になるぜ!! 王様サンキュー!!」


相変わらず単純な男だ。

爆発寸前だったエスカーは大喜びし、ヴィットマンは ”やっと人間に戻れた” とでも思っているのだろうか、感無量といった表情だ。

私も、やっと人間の国で市民権を手に入れる事が出来て顔が綻ぶ。

この一歩は、この大陸に私の存在を知らしめる為の大きな一歩だ。


「えぇ、願ってもない話ですよ」

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