第1話 故郷の村
「おはよう!」
「おはようございます。お坊ちゃま。」
今日もいい天気だ。
散歩をするにはいい感じ。
「それにしても、もうすぐ学校か~。」
僕は男爵の息子だ。
男爵、といってもこの村と近くにある山を治めているに過ぎない。
生まれてからずっとここに住んできた。
だけど、もうすぐ王都の学校に行くことになる。
……あまり気が向かない。
「地位か……。」
僕の家の領地はとても小さい。
領地の人口をすべて合わせても五百人に満たないと思う。
昔は街道沿いにあったとかで小さいながらも結構栄えていたようだけど、
今では海運にとってかわられ、収入なんてあってないようなもの。
「一応、名家なんだけどな。」
五代ほど前にこの国に逃れてきた貴族の末裔らしい。
かつては王を輩出した家だったとか。
「それが今はこんな有様。」
僕の一族のかつての故郷は選挙王政、つまり国王を代替わりごとに選挙で選ぶ感じだった。
何代か続けて王を輩出した後、宮廷クーデターで追放、この国に逃れてきたらしい。
「やっぱり、知識は重要だよね。」
当時の当主は逃れてきた後も故郷に戻ることを忘れていなかったらしく、この国の王家に取り入って、味方をしてもらおうとしていた。
結局、故郷に戻ることはできなかったが、
その知識を買われて個人的な相談役に抜擢され、
小さな男爵領を与えられた。
そして、運河が出来て街道が使われなくなり、王家とのつながりも代ごとに薄れていって、貧乏男爵になり、今に至ると。
「なんでそう野心に燃えるかな。」
僕の父親は男爵だ。しかし、学校に通う中で人脈を得て、今は王都で事業を行っている。
父親がこっちに送ってくる仕送りは膨大で、
そのおかげか身分の割には羽振りがいい。
他のところがどうなのか知らないけど。
村も小さいわりに豊かだ。もともと街道沿いにあったため、この村を遠い故郷にする商人は大勢いる。僕の父親、そして商人たち。その仕送りによって皆が平和に暮らしている。
「よく考えたら貧乏男爵じゃない気がする。」
だけど、この村には発展の余地がない。
面積も小さい。仕送りもいつまで続くかわからない。
活気もない。領民はみんなのんきで、領主の息子である僕ものんきだ。
「だけど、それでいいと思う。」
未来のことはわからないわけだし。
「……行きたくないな。」
なぜ、地位を求めるのだろう。確かに、その恩恵は受けている。でも、どうして?
「わからないものは仕方ないか……。」
『学校に通い、王都で暮らせ。』
父親から手紙が来たのは一か月前のことだった。