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瞼を閉じていても突き刺されるような感覚がするほど強い光。

反射的に、目を庇うように顔の前で両腕を交差させる。


あれやりたくなるね。

あの、目が、目がぁあああ! のやつ。

やらないけど。


直後、エレベーターに乗った時のような浮遊感。

身体は全く動いていないのに中身だけグンッと引っ張られるような感じがして、気がつけば床にへたり込んでいた。


「ふむ、今回は成功か」

「ええ、そのようですね」


声が2人分、それからうめき声のようなものが周囲から複数、聞こえる。

顔を覆っていた腕を下ろして周囲を見回し……ドン引きした。


まず私がいる場所。

学校の教室2つ分くらいの大きさの部屋の中央、その床にデカデカと描かれた魔法陣らしきもの。

私はその中心部にいる。

ここまではいい。

問題はその後。

魔法陣らしき模様の周りに、明らかにグロッキー状態で倒れているローブ姿の男たち。

うめき声の発生源はコイツらだ。

一様(いちよう)に青白い顔で、中には目が虚ろだったり白目を剥いていたりするヤツもいる。

控えめに言ってもヤバイ。


「女か。鑑定を」

「御意」


グロッキーローブ集団から少し離れた位置にいる偉そうなおっさんが、その横に控えていた男に命令する。

宝石が散りばめられ刺繍の施されたローブを身にまとっている無表情な男がそれに応えた。

状況からして、グロッキーローブ集団のトップか何かだろう。

ということは、偉そうなおっさんは王か何かか。


ってちょいちょい。

鑑定とかそういうのって本人の許可なくやっちゃダメなのがお約束なんじゃないの。

思わず眉をひそめる。

同時に私と同じ顔をするキラキラローブ。


「これは……ハズレですね。ユニークスキルで神の好きーに、とありますが、それ以外は特筆すべき能力も無し。しかもステータスは非戦闘員の平均未満です」


ハズレ言うなし。

悪かったね、貧弱で。

しかも無許可で見よったな?

おっさん共々(ともども)五百円玉にハゲるがよい。

なんで五百円玉か?

だって日本で流通してる硬貨の中で一番大きいじゃん。

つるっパゲじゃただのスキンヘッドだし、それだと面白くないでしょ?


「神の好きーにとは何だ?」

「さぁ……?」


キラキラローブ、こっちを見るんじゃない。

教えるわけないでしょ。


にしても、そうか、神の好きーにか……。

確実に創刊号は290円的なやつもじったな、じじい。


「ふざけた名前の効果もわからぬスキルに低いステータス。うむ、確かにハズレだな」


ふざけたネーミングセンスはじじいに文句言ってね、私じゃない。

だからそろそろハズレ連呼するのやめてくれるかな。

勝手に召喚したのはそっちでしょう?

じじいに言われるまでもなく協力する気失せるわぁ……。


「おい、女。お前は勇者に選ばれた」


は?

やだわー上から目線のおっさん。


「この世界は、魔王によって滅亡の危機に追い込まれている」


知らんがな。

私異世界の人。

この世界とは無関係。

おーけい?


「勇者とは、魔王に対抗できる者。お前も勇者であるからには戦ってもらわねばならぬ。やってくれるな?」


断られることなど毛頭ないと思っているらしき王様っぽいおっさん。

だが断るっ!

必殺!

日本人的遠回しなお断り文句!


「善処します」

「そうか、頑張ってくれたまえ」


よし、通じなかった。

これで穏便に断れたよ、やったね。

でも念の為それらしい動きはしておこうかな。

何か言われた時面倒だから。


「では、これを」


キラキラローブが近づいてきて、目の前に布袋を置く。


「中に当分の間の金、それから地図が入っているので活用するように」


あ、一応そういうのは用意してくれるんだ?


「ついてこい、勇者よ」


ずっと上から目線でイラッとするけど我慢。

揉め事はノーセンキューですよ。

私は事勿(ことなか)れ主義なので。


置かれた布袋を手に、大人しくキラキラローブの後ろをてくてくとついて行く。

靴?

なぜか見覚えのあるスニーカーを履いてたよ、不思議だね。

服?

部屋着兼寝巻きのままだよ、不思議ではないね。

どうせなら服も替えて欲しかった。


ローブ集団死屍累々の部屋を出て、人通りがほとんどない通路をキラキラローブと2人、無言で歩く。

薄暗い石造りの通路に反響する2人分の足音。

沈黙が痛いとはまさにこのこと。

かといっておしゃべりできそうな相手でもなし。

結果、沈黙に耐えて足を動かすしかない。


んー、でも、あれ?

さりげなく歩調あわせてくれてる?


キラキラローブの鳩尾(みぞおち)あたりにちょうど私の目線がくるくらいの身長差だから、普通にスタスタ歩かれるとまず間違いなく置いてかれるよね。

私が小さいわけではない、ないったらない。

キラキラローブがデカいだけだ。


内心でぐぬぐぬしていると、キラキラローブが立ち止まった。

しっかりと足の裏でブレーキをかけて衝突事故回避。

キラキラローブは扉を指さす。


「この部屋に服や防具、武器などが置いてある。自分に合うものを身につけてくるように」


それだけ言って通路の端に寄り、待ちの姿勢に入るキラキラローブ。

その前に一つだけ確認。


「後から返せとか、対価を寄越せとか、言いませんよね?」


ほら、タダより高いものはないって言うじゃない?


「……言わない」

「そうですか」


少し返事に間が空いたのが気になる。

さっさと生活地盤を固めて、貰ったものはきっちり耳を揃えて返してしまった方がいいかもしれないな。

後からイチャモン付けられでもしたらたまったもんじゃない。

特にあの王様っぽいおっさん。

あれは要注意人物リスト入り確定だね。

キラキラローブも要注意人物リスト入りかな。


頭の中で算段をつけながら扉に手をかけ、室内を覗いてみる。

ざっと見渡して……これは困った。


私が使えるもの、あるかなぁ……?

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