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ふわふわと、ぬるま湯に浸かっているような微睡(まどろ)みの中を漂っていた。


「もし……し、お……の?」


何か、聞こえた?


「そろ、ろ、起きとく……か?」


何を、言ってるの?


「おぉーぅい、聞こえておるかのー?」


んんー、まだ寝てたい……。


「これこれ、起きとくれ。時間がないんじゃよ」


そっと、肩を揺さぶられる。


「ほれお嬢ちゃん、お目覚めの時間じゃぞ」

「んぇ……?」


重い瞼を半分だけ持ち上げる。

目の前には、仙人と言われてイメージするそのままの姿のおじいちゃん。

……あれ。


「ここはどこ、私は……佐々木志穂(しほ)。貴方はだれ?」


私はたしか、夜、オフトゥンに潜って寝たはず。

でも今は見覚えのない真っ白な空間にいる。

寝起きで未だハッキリしない頭でぼんやりとおじいちゃんを見返す。


「自己紹介ありがとうのぅ。ここはあれじゃ、緊急避難用のテキトーに作った空間じゃから特に何も無いぞい。んで、わしじゃな。わしは(ホァン)浩然(ハオラン)という。いわゆる神というやつじゃなぁ」

「……もう1回寝たら目が覚めるかな」

「寝ないでくれんかの!?」


目の前の自称神が慌て出す。

なんだか、おじいちゃんっていうよりじじいって感じだ。

もちろん、親しみを込めてのじじい呼びである。


「時間無いし、手短に話すぞい! だから聞いとくれ!」

「えー……わかった」


めんどくさいけど。


「思いっきり顔にめんどくさいって書いてあるのぅ……。まぁ良いが」


そう言って自称神なじじいが話を始めた。


「お嬢ちゃんは、お嬢ちゃんがいた世界とは異なる世界の人間に召喚されたんじゃ。寝ている時にの。異世界転移。おーけい?」

「は?」


なんかノリ軽いぞ、このじじい。

見た目仙人のくせしておーけいとか言ってるぞ。


「わしはその召喚の術式に干渉してお嬢ちゃんをここに一時避難させておる。さすがに一般人をそのまま異世界に召喚させるわけにはいかんからのぅ。ほらあれじゃ、魔物だの何だのじゃ」

「なるほど理解した」


誰だってクマの目の前にいきなりほっぽり出されて、さあ倒せ、と言われても無理だろう。

時々ニュースで、怪我を負いつつも素手で撃退したとかあるけど、あれは例外とする。


「ということで本題じゃ」


じじいが、んんっ、と咳払いをする。


「力が、欲しいか……」


このじじいネットに生息してないよね?


「えーと、欲しいです?」

「そうか……では力をやろう。どのような力を望む? 言ってみるがいい……」


じじい、さっきと口調が違うぞ。

だが遠慮はしない。

私は死にたくないんだ。


「もし何かに困った時に、それを解決できる力が生える力が欲しい」

「んん? どういうことじゃ?」


じじいが素に戻った。


「たとえば、お腹がすいて今にも倒れそうだとする」

「ふむ」

「食べ物は何も持ってないし、手の届く範囲にも食べられる物は何も無い」

「ふんふん」

「そういう時に、手が届かないほど高いところに果物が生っていたとする」

「うぉぉ……」

「そういう時、空が飛べるようになったら、その果物を採って食べることができるよね?」

「なるほど、ご都合主義的に能力が生えてくる力じゃな!」


にぱっと無邪気に笑うじじい。

このじじい、本当にネットに生息してないよね?

つぶやいたったーに生息してると言われても納得できると思う。


「ふーむ……わしのいじれる権限内ではちと難しいのぅ……」


うむうむと目をつぶって考え込むじじい。


「定期的にスキルを送る、ならいけそうじゃが、どうする? ほれ、創刊号は290円的なやつ、あんな感じで」


なぜ創刊号は290円的なやつを例に持ってきた。


「わしが臨機応変に選んで送るぞい?」

「んー、じゃあそれで」


なにやらサブカルに詳しそうな匂いがぷんぷんするじじいだから、その辺りは大丈夫な気がする。


「うむうむ、了解したぞい。ところでお嬢ちゃん、召喚の理由じゃがの」


んんっ、ともう一度咳払いをするじじい。


「お嬢ちゃん()勇者にならないか?」

「ならない……待てじじいそのセリフはダメだ」


じじいにツッコミを入れて、ふと気づく。

やけに対応に手馴れた様子のじじいと、用意周到なこの空間、そして今のセリフのチョイス。


「もしかして、私以外にも勇者として召喚されてる人がいる?」

「お嬢ちゃんのような活きのいいカキはフライじゃよ……」

「じじいそれ以上はいけない」


今のやり取りで確信した。

このじじい絶対つぶやいたったーに生息してる。

神とか書かれたアイコンのうちのどれかの中の人がこのじじいに違いない。


「とまぁそういうわけでの、お嬢ちゃんは召喚されるんじゃが……魔王を倒せと言われても、倒してはならんぞ?」

「無理無理倒せない」


私という引きこもりをなめないでほしい。


「そうかの? それならいいんじゃが。魔王とは、むしろ仲良くしてやっておくれ。あれがおらねば世界が崩壊しかねないからの」

「え?」

「あれはのぅ、終わり……もっと簡単に言うと死の神なんじゃ」


……え?


「おっとまずい、もう時間がのうなってしもうた」

「待ってじじい今んとこ詳しく」

「話をしっかり聞いてくれて嬉しかったぞい」

「じじい説明プリーズ」

「元気でやるんじゃぞ!」


視界に光が溢れる。


「じじいぃぃぃいいいい! 説明ぇぇぇぇえええええ!」


目を開けていられないほど強くなった光に呑まれた。

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