酸性
雨が好きになって2日目。今日も雨脚は変わることなく、昨日と同じ空模様にドキドキした。
学校に着いて当たり前の1日を過ごす。
放課後バイトに行こうとしたら、普段話しかけられない矢野 蓮(やの れん)という男の子に話しかけられた。そして“体育祭について”というプリントを渡された。どうやら彼は体育委員の人らしい。
「1人1競技以上参加してもらうから、プリントに書いてある競技の中で何に出たいか決めてもらって、決まったら俺に伝えて!一応早い者勝ちだから、早めに教えてくれた方がいいかも!
よろしくね」
「う、うん、わかった」
これが彼との初めての会話。
競技は徒競走、綱引き、玉入れ、障害物競走、借り物競走……とにかく沢山ある。
私は運動があまり得意じゃない。出来れば目立たない競技で、友達と出来るのがいいなぁと思って、私の1番の仲良しの子に話しかけた。
「はるか!体育祭の競技何にするか決めたー?
出来れば一緒にやろうよ!」
彼女は小林 遥架(こばやし はるか)。入学当初に名簿が隣で仲良くなった。移動教室もご飯もいつも一緒。
「いいね!一緒にやろ!
つばきは何がやりたい?」
「んー玉入れとか?」
「いいじゃん!カゴに近づくように肩車してあげるよ」
「やだ、絶対目立つじゃん!」
と冗談混じりに話して、私たちは玉入れに参加することを決めた。
「矢野くん、私とはるか、玉入れに参加したいです!」
「おっけー!早く決めてくれてありがとう!」
彼は忙しそうにメモする。あまりに忙しそうに見えたのか
「体育委員って矢野1人だっけ?」
とはるかが質問した。
「ううん。陸人と一緒」
あー、佐々木 陸人(ささき りくと)くんか。
「そうなんだ。え、でも佐々木最近指骨折してんじゃん。今日だって病院ですぐ帰ったし。治るまで私手伝うよ」
とはるかが言う。
「わ、私もできることがあればお手伝いします!」
「2人ともありがとう!今の名簿作りは大丈夫なんだけど、クラスTシャツをオリジナルで作るか、パンフレットから選ぶかを決めないといけなくって、どうやってアンケートしたらいいかなって困ってるんだけど……」
「普通に聞こうよ!今!」
「今!?」
私と矢野くんの声が重なる。
「みんな〜!!
クラスTシャツオリジナルで作る?それともパンフレットから柄決める??
今ぱぱっと決めたいから手挙げて〜!」
はるかの行動力には驚かされる。
「じゃあ聞くよ〜
オリジナルがいい人ー?
パンフレットから選ぶのがいい人ー?
じゃあ、オリジナルで決まりね!
みんなありがとう!!
決まったよ!」
「小林天才かよ」
にかっと笑う矢野くんにつられて私も笑った。
「はるかすごすぎ!」
「だってさっさと決めた方がいいじゃん!悩むより行動あるのみだよ〜」
「ありがとな、小林!
それでオリジナルだと誰かにデザインしてもらわないとなんだよね」
「じゃあ書いてくれる人探さないといけないね?」
「そう。誰に頼んだらいいかな」
「とりあえず美術部の子に声掛けようよ!あと描きたい子!
もっかい聞こうか!?」
「心強いな!頼む」
「みんな聞いて〜
オリジナルクラスTシャツの絵柄案書いてくれる人ここ集合!」
2人の女の子が来てくれて矢野くんがお願いをする。
「ありがとう助かるよ。この紙にデザイン書いて来週に俺に出してほしい」
「おっけ〜」「りょうかい」と言い残して2人は帰った。
「矢野くん、まだやることある?」
「今日はもう大丈夫かな、2人ともありがとう!」
「私何もしてないけどね」
「そんな事ないよ、紺野さん!ちょっと小林が天才すぎただけだって」
「だってはるかすごいもん、真似出来ないけど」
「褒めてるくせに笑いすぎなんですけど〜
じゃあ部活行くからまた手伝えることあったら言って」
リュックを持ちながら言うはるかを見て私も帰る準備をする。
「ありがとうな、がんばって!」
「はるかがんばれ!また明日」
「つばきもバイトがんばってね!バイバイ」
「紺野さんこれからバイトなんだ!どこでしてるの?」
「あそこのケーキ屋さんだよ」
「そうなんだ!また今度行こうかな」
「うん、待ってるね!それじゃあ」
「今日はありがとう、また明日」
教室を出てバイトに向かう。
まだ時間に余裕はあるが紫陽花タルトが気になって傘をさしながらいつもの道を走った。
バイト先に着くと先輩が先に着いていた。
「おつかれ!いつも早いのに珍しいね」
「体育祭の準備を手伝ってたんです。体育委員の子が怪我しててひとりじゃ大変そうだったので」
「そうなんだ!競技決めた?」
「玉入れに出るつもりです!
先輩は決めました?」
「借り物競争と障害物競走!」
「ふたつも出るんですね!」
「そうなんだ!
あ!早く着替えてきて!タルト見に行こ!!」
「はい!!すぐ着替えてきますね!」
急いで着替える。走ってきたからかまだドキドキしていて落ち着かない。
「先輩!着替え終わりました!」
「早く早く!」
手招きする先輩が愛おしい。これ!と指をさした先の紫陽花タルトは昨日と違って赤くなっていたのだ。
「え!?えー!?」
びっくりした。
「アルカリ性から酸性になっちゃいました〜」
「え、どういうことですか??」
「紫陽花は土壌の成分がアルカリ性だと青色、酸性だとピンク色になるんだ!
毎日同じだとつまらないから店長がピンク色の紫陽花タルトを作ったんだよ〜」
「すごいですね!!」
「味も違うんだ!食べてほしいから残るといいなぁ」
「食べたいですけど、残るのは悲しいですよ〜」
と笑いながら業務に取り掛かった。業務が終わると1個だけ紫陽花タルトが売れ残った。
先輩と店長が話す。
「店長!紫陽花タルトもらっていいですか??」
「おーいいぞ」
振り返って
「紺野さん持って帰って食べて!!」
と先輩は笑顔で言ってくれた。
「いや、先輩が食べてください!」
「俺が紺野さんに食べてもらいたいの!
箱詰めるね」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ!着替えてきちゃっていいよ」
「なにからなにまですみません…」
「いーのいーの!ほら、はやく行っといで」
という言葉に甘え、着替えることにした。
着替えながらニヤけてしまう。先輩が優しくて大好きで…
色変わりする紫陽花とは反対に、先輩への思いは色味が強くなるばかりの迷わない赤い色。先輩に出会う前は色付いてなかった、なんて思いながら透明色を忘れた私は先輩の所に向かった。
「先輩、着替えてきました!」
「おかえり!はい、これ」
とケーキの入った箱を渡してくれた。
「ありがとうございます!」
「一緒に帰りたいけど、試作品作るから今日はごめんね」
「いえいえ!そんな!
試作品作りがんばってください!」
「ありがとう
それじゃあ気をつけて帰ってね」
「はい!お疲れ様でした」
「おつかれ〜」
1人で歩く雨道。昨日より長く感じて、少し寂しくて……。
傘を閉じて、わざと雨に濡れた。




