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えーと…。
うん。理解してるしわかるのよ。妻になる私が邸に来る日に顔出してくれた…そういうことよね?
でも何か違うと思うの。
あれ?これって私がズレてるのかしら。もし私がズレてるなら謝罪するけど、今回はぜっーーーーったいに旦那様、あなたがおかしいしズレてるわきっと。
…どこのどいつが妻の入居日に愛人連れて様子見に来るってのよ。それにアリアナ様、あなたもあなたよ。なにのこのこついて来てるの?え、牽制ですか?こちら戦う気ゼロのすけでございますー!
私がピキッと固まっていると旦那様が私の名を呼ぶ。
「…マドレア?」
はいはいはいはい、マドレアでございますわよ。
「…ええ、感動で開いた口が塞がりませんでしたわ。ですが1つ言わせていただけるなら私はピアノを用意して欲しいと“ただ”それだけを望んでいたのですが」
横に控えるサラはうんうんと頷き、セバスチャンは「えっ…」と小さく声を漏らしたのが聞こえた。
「ははっ、いやぁ。君とはこれからうまくやっていきたいし、君専用の憩いの場?でもあればと思ったんだけど…迷惑だったかな?」
憩いの場…、つまり私の居場所は本邸にはないと。つまりそう言いたいのですね。私のムカムカメーターが急上昇していく。
すると、今まで黙って旦那様の腕にしがみ付いていたアリアナ様が開いてる手を挙げてこう言った。
「だったら、アリアナがもらってもいいかしらっ!だって、マドレアさんは要らないのでしょうこの温室。だったらアリアナが貰った方がいいと思うの!ふふっ」
ふふっ。じゃないわよ。
え、この子アホの子よ。貴方の愛しのアリアナ様は私の唯一の憩いの場となる居場所だと聞いた上で奪い取ろうとしてるんですけど、目の前で。
しかも何で私”さん”なのよ、様付けは基本でしょ。いや、子爵家だったら、格上の伯爵家の私は名前で呼ぶ許可とかまずはクライス様呼びからだからね普通っ。
同じ15歳でもこれはあまりに幼さすぎるというか、礼儀がなってないわ。…旦那様の両親が認めないのも納得だもの。だってアリアナ様は今まで努力する時間が十分にあったはずにもかかわらず今の状態のままなのでしょう?
サラ。睨みすぎよ。とりあえずそのスカートの下に忍ばせてる暗器に伸ばしている右手をどうにかしてちょうだい。
さすがにセバスチャン含め公爵家の使用人達も眉をしかめている。
「アリアナ様も…ピアノを?」
私は穏便に済ませたい。だから、あくまで”共有の場所”ということで折れてやろうと微笑む。
「いいえ!触ったこともないわっ。でもこんなにも素敵な場所アリアナだって欲しいもの!」
ほう。
つまりはピアノが弾けないと。弾けないのに、触ったことすらないのにここが素敵だから欲しいと。
ふふふふふっ。面白いことを。
私が扇で口元を隠しながら肩を揺らし笑っていると、さすがに旦那様が口を挟む。
「アリアナ!その…私は君にはずっと本邸で私のそばにいて欲しいな。だから、こんな温室なんかにいないで私の横で笑っていてくれたら嬉しいな」
へぇ、うまいこと言うわね。
「アラン…もう、アランったら。しょうがないわね!確かにアリアナもアランと離れたいわけじゃないわ、だからここはマドレアさんに譲ってあげるわっ」
あのね?ここはあくまで公爵家の敷地内なの。だから、離れるってほどの距離じゃないわよ2人とも。それに譲るも何もここはもうすでに私のものですの。ふざけないでいただきたいわ。…と言いたいのをグッと抑え私は微笑む。
もうお互いしか視野に入ってないのか2人は最近できたお店のドレスがどーのと話しながら出て行った。
「セバスチャン、この温室って防音なのかしら?」
「もちろんでございます」
いい笑顔ねセバスチャン。そしてナイス旦那様。
「サラ、扉閉めて、窓もよ。それと少しサラと2人きりになりたいの。申し訳ないけど5分ほど温室から皆さん退出を」
「かしこまりました」
サラ含めて皆が頭を下げて命令通りに動く。
扉が閉まった瞬間。
私はベッドにだいぶした。
そして枕に顔を埋める。
「ん”ーーーーーーーー!!」
あーーーイライラするっっっ。
足をバタバタさせてこの鬱憤を晴らす。
「お嬢様、さすがに今日は私も目をつぶります。私も危うくあいつにこの磨きたてのホヤホヤのナイフを投げつけるところでしたもの」
サラちゃん。その黒い笑顔私は好きよ。
完全な密閉空間で私たち2人は目を合わせ、ふっふっふっと黒い笑みを浮かべたのであった。