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アラン・マイルズ様との婚約話が成立後、マイルズ様はさっそく次の日に我が家にやってきた。赤い薔薇の花束を抱えてね。
「クライス嬢、いや…婚約するにあたってクライス嬢と呼ぶのも変か。よし、ではこれからはマドレアと呼んでもいいかな?」
…そのためにわざわざ私の邸まで来たの?ってそんなわけないかぁ。めんどくさいなぁ。
「どうぞご自由に」
「では君も私の両親や周りの人に変に思われないためにもアランと呼んでくれてかまわないよ」
やぁよ。アランなんて呼んだ日にはきっとアリアナ様に変に勘違いされてギスギスしちゃいそうだもん。…男ってなんでこう頭回らないのかしら。
「結構です、私は旦那様と呼ばせて頂きますので。それよりも、それだけのためにわざわざお忙しい公爵様が足を運んでくれたとか言いませんわよね」
私はあいもかわらずストレートの球を投げます。オブラートに包んだりなんてこともうしません。…前もして無かったかもだけどっ。
「ふっ、相変わらず手厳しいね。そうだね、実はこういう…なんて言うだろう偽装?契約、…結婚。うん、契約結婚は予めお互いの求める条件を明確にしておきたいと思ってさ」
「なるほど…私も確かにいくつか気になっていたことがありますの」
ふむ、この頭お花畑の旦那様は意外とまじめみたいね。そーゆー考えは嫌いじゃないわ。
「私が君に求めるのは、先日も伝えたが私に愛を求めないこと。そして、屋敷にはアリアナも住んでいるが必要以上に彼女に…私達にかかわらないでくれ」
あらま、彼女に〜から”私達”ってわざわざ言い直したわね。私ったら信用ゼロじゃない。ま、いいけどね。
「では、私からも」
旦那様の動きが止まる。
「?」
何そのポカーンとした顔。っ!まさか…。
「…まさかと思いますけど、私の要望は聞き入れてもらえないのかしら。ふふっ、おかしな話ですわね旦那様。それでは私には全くもって、今のところこの結婚にメリットがありませんわよね?」
結婚後の自由っていうすっばらしく、どでかいメリットがあるがここはあえて強気に出る。
契約ってそんなものでしょ?遠慮したら負けよ!とは言え望むことは本当に1つだけなのだけれどね。
「メリット…ですか。普通なら公爵家に嫁げるってだけでもだいぶメリットを感じられると思うけど」
「そんなことメリットもなんでもないですわよ?旦那様はご存知ありません?私の両親がいかに権力に興味がないということを。今回のお話だって危うく水に流されるところだったくらいですもの」
私がクスクス面白いと言ったふうに話すのを聞いた旦那様は口を開けたまま信じられないと言った顔をしている。
ま、普通ならどんなことをしてでも公爵家との縁を持ちたがるものね。気持ちはわかるわ。
旦那様はハッとなり緊張したお顔で私に問いかける。
「わかった、では君の望むことってのは一体?」
まー、そんな構えないでくださいな旦那様。
私はにっこり笑顔を作りさも当たり前だろと言った風に伝える。
「ピアノです。邸のどこかにピアノを置いて頂きたいのです。私が望むのはそれだけです」