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「お前の力も意志も、これくらいでなければ測れないと信じているよ」

「――タダで渡してやる訳にはいかぬな。示してみせろ、その力と意志を」


 強烈な輝きの中で、風が吹く。竜の翼が風を巻き上げたのだ。


「アンタのその姿を見るのは久しぶりだ」

「なに、小娘どもと戯れるにはこれくらいがちょうどいいだろう? シルフィ」


 ――巨大だった翼竜の姿は既にない。

 俺たちの前には、黄金の竜人が立っていた。

 頭は竜のそれが小さくなったもの。皮膚は鱗に覆われていて人族とは異なる。


 ……自分よりも頭ひとつ分も背が高い相手を見るのは初めてかもしれない。

 独特の威圧感がある。

 そして、人のサイズになったというのに、感じる圧力はなんら衰えていない。


「シルフィーナ、貴様は審判だ。有無は言わせん」


 そう告げた瞬間、洞窟だったはずの場所が変わる。

 赤い空と、秋に染められた一面の草原へと。

 ……なんだ、いったいどうしてこんなだだっ広い場所に。


「相変わらずとんでもない魔導書を持っているな、アウル」

「ああ、驚いてくれているのはそこの勇者くんだけのようだが」


 リタとシルフィは知っているのか。

 そして、いつの間にか持っていたあの本がこの現象を引き起こしている。

 ……いったいなんだっていうんだ、これは。


「まぁ、私が知ってるってことは、シルフィはもっと前から知ってるんでしょ?」

「そうだね。ここはいつも変わらない景色だ」

「……いったいなんなんだ、ここは?」


 俺の言葉を聞いてアウルが笑う。

 竜人が、その大きな口を開き、げたげたと笑うのだ。


「新鮮な反応で良いな。ここは、この本によって切り取られた世界。

 いくら壊しても頁をめくれば元通りの場所だ」

「……つまりこの場所なら好きなだけ戦えるという訳か」


 こちらに頷くアウル。


「今の俺は本来の力の100分の1もない。こんなに小さくなってしまってはな。

 お前たち2人でも勝ち目がないわけじゃないぞ」


 つらつらと喋りながら、竜人は虚空から剣を引き抜く。

 まったくもって人智を越えた動きだ。

 加速思考を発動したが原理がさっぱり分からない。魔法としか言いようがない。


「――この粗末な剣を折ることができたのなら、貴様らの望みをかなえてやろう。

 金剛の魔宝石をくれてやる。この世界が蓄えた最上の富の1つだ」


 アウルはそう告げた瞬間、粗末だった鈍色の剣を黄金に変えた。

 自らの魔力を通して強化したのだ。


「っ……楽に折れると思ったんだけど、そう来るか」

「ふふっ、これくらいでなければ“力と意志”は示せまい。

 お前の力も意志も、これくらいでなければ測れないと信じているよ、リタ」


 そうアウルが挑発してから、リタとの距離を詰めるのは一瞬だった。

 ――このままでは甲冑の展開も間に合わない。

 加速思考でそれが分かっていたからこそ、まず俺が先に出た。


「ほう、それが帝国の“光線銃”か」


 インテグレイトを引き抜き、奴の身体に浴びせた。

 無論それで止まらないことに備えて、近接戦闘に入る覚悟をしながら。

 しかし、意外にも奴は動きを止めてくれた。


「――力としては、人間の神、あの光の力に近いが、出力が弱いか。

 なるほど、小娘の甲冑に苦戦するわけだな。

 だが、人間を殺すのに効率は良い。趣味の悪い武器だ」


 帝国の光線銃への評価をつらつらと喋り、アウルがその剣を振り上げる。

 ッ――?!

 間合いは取っていたはずだった。一足では詰められない場所にいた。


 なのに、どうして竜人は目の前にいる?!

 これでは直撃は免れない。インテグレイトは実体剣を受け止められないのだ。


「っ――やらせるわけないだろう? 私の客人を」

「ほう? 中身のない巨大な腕……ドワーフの弱みを補って余りあるな。

 それがお前の発明か。動力はなんだ? お前の魔力か?」


 リタの発明、虚肢剛腕がアウルの刃を掴んで受け止めていた。

 ……黄金竜と魔導甲冑の間、全くもってとんでもない所に立っているものだ。

 場違いなんじゃないだろうか。俺は。


「言ってる場合かな? このままへし折ってみせよう――」

「……ふふ、やれるものならやってみせろ、リタ・シュミットハンマー!!」


 剣の魔力を流し込むアウル。黄金の刃がその輝きを増していく。

 普通に考えれば、この剛腕をもってすれば剣だって折れるはずだ。

 そうなっていないのは、アウルが魔力を流し込んでいるから。


 ――つまり、奴の魔力を止めれば、勝てる。


「ッ、光が剣になった……?!」


 ビームブレードで斬りつける。非殺傷設定だ。だから切断には至らないだろう。

 しかし、その腕が麻痺し、黄金の剣を手放すはずだ。そう思っていた。

 そう思って、加速思考の中、最適の太刀筋を見つけたのだ。


「人間と同じようには、行かないか……」

「――面白い武器を持っているな。帝国でも発明されたばかりだろう?

 聞いたことがない。まさか神秘に頼らず、そこまでのものを造り上げるとは」


 リタの剛腕から逃れたアウルがゲタゲタと笑いながら、剣を構え直す。

 ……こいつ、新しい武器を見るたびに感想をべらべらと喋ってくれるのは良いんだが、その隙を突けないくらいに実力差があるのが恐ろしい。


 下手に怒らせて本気を出されては負けるというのが分かり切っている。

 肌で感じるのだ。まだ力を戯れ程度にしか発揮していないと。

 いったい、力の底がどこにあるのか。見当もつかない。


「……行けるか? ジョン」

「ああ、もちろん。これからだろ、リタ」


 自らの背丈以上にある巨大な腕を構えるリタ・ローゼン・シュミットハンマー。

 俺も同時にインテグレイトのビームブレードを構える。


「ふふ、よかろう。仕切り直しだ――」


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