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「貴女の行う偉大な戦いの力になりたい。かつての祖父のように」

「――なるほど、虚肢複腕か」


 魔力に反応し、白銀色に輝く甲冑。

 そして、その背からは6本の腕が生えてきている。

 剛腕と違って細く流麗な腕。ともすれば刃にもなりそうだ。


「射出もできるよ。貴女の戦い方に相応しいかなって」

「うむ、面白い。気に入ったよ、流石はリタだ」


 言いながらシルフィが甲冑を収納する。

 ……魔女が、オーダーメイドの魔導甲冑を纏うか。

 いったい今の彼女の実力は、どれだけあるんだろうな。


「支払いは済ませているんだってね。このまま行っちゃうのかい?」

「……それも良いとは思うが、祭りを見てからでも良い」


 シルフィの回答にリタが笑みを浮かべる。

 何か思惑があるように見えるな、リタの方に。


「そいつは良い。今年の花火は凄いぞ」

「へぇ、何か知っているのかい?」

「祖父さんが“金剛花火”を打ち上げるのさ」


 金剛花火、聞き慣れない単語だが、凄そうだな。

 ダイヤモンドのような花火ということなのだろうか。


「……魔宝石はどうする? まさかアウルから手に入れるつもりか」

「ああ、ちょうど良いだろう? 虚肢剛腕を試すのに」

「危ないぞ、奴の機嫌を損ねると」


 アウル、これまた聞き慣れない単語だ。

 ドワーフの国には分からないことばかりだな。


「じゃあ、シルフィも着いてきてよ。知り合いなんでしょ?」

「……私は、その、考えておく」


 珍しくシルフィの奴が話を濁している。

 割と初めて見たかもしれない。彼女のこんなところ。


「いったい何者なんだ? そのアウルってのは」

「――黄金竜、ドラコ・アウルム。

 ドラッヘンベルクがドラッヘンと呼ばれる理由だよ」


 リタが簡単に答えてくれる。

 竜の山・ドラッヘンベルクという割には、竜にまつわるものを見ないと思っていたが、まさかいるのか。竜そのものが。


「いるのか? この都市の中に」

「いや、住んでいるのは近くの別の山だ。割と長い共生関係でね」

「シルフィも顔見知りだと」


 リタの言葉に打ち返しつつ、同時にシルフィに水を向ける。


「……ジョン、分かった。説明しよう。

 あいつには500年前に、勇者の剣を借りたんだ。魔王を倒すためにな。

 でも結局、返せなかった。だから会いたくないのさ」


 シルフィにとって頭の上がらない相手って訳か、珍しいな。


「アンタより長生きみたいだな? アウルってのは」

「もちろん。有史以前から生きているらしい。竜の寿命は永いからな」

「へぇ、見てみたいな。シルフィが年長者を前に、どんな風に話すのか」


 俺の近くに着たシルフィが、俺の肩をバシンと叩く。


「会いたくないって言ってるのに、意地悪を言うな、ジョン」

「しかし500年も詫びを入れないのもどうかと思うぞ?」

「入れた! 戦いの後すぐに。100年後も。でも、会うたびに嫌味ばかりで」


 ……あ、これ大丈夫な奴だな。

 竜となると強いは強いんだろうが、シルフィにとっては旧知の仲だ。

 そこまで険悪そうにも見えない。


「それでリタ、いつ行くんだ? 俺も同行しよう」

「ジョン! それでこそ勇者だ。歓迎するぞ」

「――おい、お前ら、人の話を聞く気はないのか?!」


 そう言ってるけど、これは俺たちが行けばついてきてくれるな。

 いや、なんかこうシルフィの人の良さに漬け込む感じでちょっとアレだが。


「そう嫌がらないで欲しいな、シルフィ。

 私を手伝ってくれれば、私も貴女を手伝うよ。欲しいだろ? 私の力は」

「ッ……どこまで?」


 “機械皇帝を殺すまで”とリタはさらりと言ってみせた。


「その話はしていないはずだが」

「考えれば分かることさ。旧魔王領に行くとなれば、力の奪還が目的だろう?

 そして貴女が置いてきた力を求める理由を、私はひとつしか知らない」


 シルフィが考え込み始めるのが分かる。


「……ルドルフの孫を、巻き込みたくはない」

「でも私の力は欲しいだろ?」

「欲しい。だが、それとこれとは別だよ、リタ」


 リタの実力は認めたうえで断ろうとしている。

 俺が参加した時も、クロエ先生の時も、皇帝暗殺まで手伝う必要はないというスタンスだもんな、シルフィは。


「――私の父は、帝国に足をやられたんだ。理由としては充分だろ?

 それに、機械皇帝は誰かが殺さなければいけない。あれは魔王と同じだ。

 他者を隷属させる力を確立させつつある。14年戦争でよく分かった」


 ……魔族化の術式を使うことが、それまでのオークの王と魔王の違いだった。

 そして機械皇帝は、俺や剣聖のことを洗脳している。

 確定ではないにせよ、その可能性が高い。それが魔王と同質の力だと。


「シルフィ、私はもう貴女に守られる子供じゃない。

 貴女の行う偉大な戦いの力になりたい。かつての祖父のように」


 リタが本気であることに、疑う余地はなかった。

 復讐心、正義感、名誉、その全てからしてシルフィの力になりたいと。


「……リタ、私の戦いはそのような誉れ高いものではない。

 しかし、君がそこまで考えて力を貸してくれるというのなら……。

 それを断るだけの余力を、持ち合わせていないのも事実だ」


 苦渋の決断をしているのが分かる。

 これがリタという100年に近い人生を積んだ女でなければ、シルフィを納得させることはできなかったのだろう。流石の話術だ。


「――決まりだな。私が貴女の力になる。

 そして、その前借として付き合って欲しい。黄金竜に会いに行くのに」

「分かったよ。お前がそこまで言うのなら仕方ない」



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