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「――リタ・ローゼン・シュミットハンマーだったか。会いに行くのは」

「……塩漬けの魚って、こんなにおいしいのか」

「戻し水のスープがまた塩辛くてありがたいですね」


 クロエ先生の言う通りだ。

 人間の国を離れてからドワーフの国近くのここに辿り着くまで。料理屋もなく、味の薄いパンばかり食べていたから、しょっぱいだけでありがたい。


「ふふっ、単純な保存食だが、おいしいだろう?

 これから山越えだからな。しっかり食べて力をつけようじゃないか」


 ドワーフの国は、この山を越えた先にある山にあるらしい。

 どうも、山の中をくり抜いた地下都市に住んでいるのだそうだ。

 ……正直、スケールが大きすぎて全く想像がつかないが。


「ジョンは記憶喪失だろうが、クロエ先生は初めてかい? ドワーフの国は」

「ええ、人間の国以外に行くこと自体が初めてです。

 ただ背の低いドワーフに合わせて造られているから大変だという噂は」


 ドワーフの身長が低いというのは、俺の知識の中にも入っている。

 成長を終えても、人間の腰くらいの背丈にしかならないのだと。

 そんな彼らが山を掘りぬいて生活圏を造っているのだ。先生の心配も当然。


「まぁ、少々の不便はあるが頭を天井にこすり続けるようなことはないさ。

 それにあの場所は一種の芸術品だ。ドワーフの職人気質がよく表れている」


 楽しそうに語るシルフィの顔を見ていると、この先にワクワクしてくる。


「シルフィさんがそう語るということは、楽しい場所のようですね」

「うむ、とてもいい場所だよ。あの場所でしか見られないものだらけだ――」


 そんなシルフィの笑顔に期待を膨らませ、俺たちは歩き始めた。

 山を越えて次の山“ドラッヘンベルク”にドワーフの国はあるらしい。

 まぁ、他の山にも同様の都市はあるらしいのだがドラッヘンが最大なのだと。


「――リタ・ローゼン・シュミットハンマーだったか。会いに行くのは」


 少し前にシルフィに聞いた話を確認する。

 魔導甲冑を造る鍛冶師。

 それも14年戦争において、甲冑の量産化に最も貢献した女性だそうだ。


「そうだ。魔導甲冑の母とも呼ばれるドワーフさ。

 彼女ほどの技師は、500年生きてきた私も知らん」

「何歳くらいの方なんですか? リタさんって」


 100歳には、なっていなかったはずだなと答えるシルフィ。

 ……流石はドワーフだ。

 寿命は500年程度と知ってはいるが、人間の尺度で考えると驚いてしまう。


「子供の頃はよく遊んでやったもんだ。本当にかわいい子でな。

 まさかあんな天才に化けるとは思っていなかったが」


 懐かしそうに語るシルフィ。

 彼女と接していると子供好きなのだとは分かる。

 そうでなければ、俺のような人間を手厚く扱ってはくれまい。


「親と知り合いなのか? 子供の頃に遊んであげたってことは」

「うむ。親と言うより祖父だな。500年前の戦友でね――」


 ……魔王を討伐した勇者ジョージの仲間。

 その1人ということか。

 待てよ、ドワーフの寿命が500年程度ということは……。


「ちょっと不躾な質問になるが、その戦友は存命なのか?」

「まだくたばったとは聞いていない。といっても、歳が歳だ。

 もしかしたらこれが最後になるかもしれん」


 さらりと言ってのけているけれど、彼女の声に宿る寂しさは伝わってくる。

 500年の時を生きるエルフだ、シルフィが10代前半の時に戦った仲間たちも人間やオークならば既にこの世を去っているだろう。


「……500年前の戦いにアンタ以外のエルフは?」

「いない。人間とドワーフ、そしてオークだけだった」

「なるほどな。少し、ゆっくりしていこうか。ドワーフの国では」


 こちらの言葉に薄い笑みを浮かべるシルフィ。

 クロエ先生も頷いてくれている。


「ふん、一人前に気を遣いやがって。ありがとう、ジョン」

「……別に、先を急ぐ旅でもないからな」

「少しくらいゆっくりした方が兄さんも追いついてくるでしょうし」


 クロエ先生の言葉に、少し笑いが零れる。


「――さて、見えてきたな。あれが竜の山“ドラッヘンベルク”だ」


 今いる山とは異なり、草木がなく、赤い土がむき出しになった巨大な山。

 なるほど、遠目でも異質な場所だと分かる。

 それに、三角形と言うよりも台形に近いような山だ。


「あの地下に、ドワーフの国が」

「ああ、首都ドラッヘンベルクがあるのさ。山の名前がそのまま都市の名前だ。

 もちろん他にもドワーフの都市はあるけれど、あれが最大の都市と言える」


 そこら辺は以前にも説明を受けた通りだな。

 しかし、こうやって現物を見るとまた違う感覚になる。

 あんな巨大な土の塊の中に、都市があるなんて。


「この距離ですと、今日中には着けそうですかね?」

「ああ、予定通りだ。昼過ぎには首都に入れるはずさ」


 クロエ先生とシルフィの会話を眺めながら、この先に待つ全く未知の土地に、俺は心を躍らせていた。

 きっと、記憶喪失になる前も行ったことがないのだろうな、ドワーフの国には。


「――楽しみか? ジョン」

「分かるか、シルフィ」


 こちらの言葉に頷くシルフィ。


「――きっと、その期待を裏切らない場所だと思う。ドラッヘンベルクは」

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