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「機械帝国の力量を見たい。全力で掛かって来い、ジョナサン――」

「いかにも私は魔王の信徒、復権派と言えば分かるかね?」


 クロエ先生の声で紡がれる言葉を前に、少佐は前に出た。

 2人いることさえも見抜かれていたのだ。

 隠れていても意味がないという判断だろう。


「話程度は知っている。500年前の魔王復活を望むオークの一派だと。

 だが、君はオークには見えないな。どういうことだい?」


 クロエ先生を見たウォーレス少佐の動きが一瞬止まったように見えた。

 ……いや、見間違えか。彼はインテグレイトを構えられる姿勢になっている。


「ふふっ、魔術師だからね。見た目など好きに変えられる」

「――嘘を吐くな。操っているんだろう? 先生を」


 このまま放っておくと少佐は恐らくクロエ先生を攻撃しようとしていただろう。

 殺傷設定で。それはダメだ。しかし、細かく説明している暇はない。


「なぜ、そう思うのですか? ジョナサン」

「――それだよ。先生は俺の本名を知っているんだ。先生ならな」

「ッ……ジョナサンじゃないのか、お前」


 尻尾を出したな、黒幕め。

 話し方が変わったことで分かった。こいつ、先生の身体を遠隔操作している。

 恐らく、やっているのが魔術師マルロだ。


「そういうことだ。言い逃れはできないぞ、マルロ」

「フン、見抜いたからなんだ? お前にはこの女を殺せまい――ッ!!」


 瞬間、複数の魔族がこちらに襲い掛かってくる。


「勇者殿、ここは私が受け持った――」

「……おい、少佐」

「鈍いじゃないか。助けてきなよ、君のお姫様を」


 眼前に立ちはだかった魔族どもを撃ち抜く少佐。

 彼の言葉に頷き、一気に駆け抜け、クロエ先生との距離を詰める。


『――彼女を助けたいのなら、まず非殺傷設定に戻せ、ジョン』


 思考通信、その声に従い設定を変更する。

 そしてまずは遠距離から1発。


「――フン、これが帝国の新兵器か」


 なんだ? 透明な壁のようなもので弾丸が打ち消されたような。


『魔力障壁だな。まずはあれを突破する必要がある』

(分かるのか? シルフィ)

『もちろん。小童の使う魔法など手に取るように分かるわ』


 少佐から数えて2度目の思考通信、その声はシルフィのものだった。

 受信側としては少佐からの通信と何も変わらないように感じるが、いったいどういう芸当なのか。


『意識を奪えば、彼女への操作も続かなくなる魔法と見た。試してみろ』

(術者が誰か分かるか? 俺には見つけられない)

『すぐには分からん。だが、時間をかけて良いのなら』


 シルフィの回答に頼むとだけ答えて、加速思考を発動する。


 ――非殺傷設定の弾丸は魔力障壁に阻まれてしまった。

 あのオークの腕に対し、弾丸が効かなかったのと同じ理由だろう。

 殺傷設定ならば恐らく殺せる。障壁さえ貫ければ。


 だが、それでは意味がない。クロエ先生は操られているのだ。

 彼女は助けなければいけない。

 弾丸で魔力障壁を貫けないのならば、次に試すべきはビームブレードだ。


「――先に謝っておきます、先生」


 ビームブレードを展開する俺を前にして、両腕を構える先生。

 先生自身の趣味というよりも、術者の趣味だろうか。

 かなり独特な構え方だ。銃を防いだ時とは違う。


「機械帝国の力量を見たい。全力で掛かって来い、ジョナサン――」


 敵は魔術師だ。腕がオークだったあの男と連絡を取っていたのは間違いない。

 つまり、こいつを相手に戦えば、俺の戦い方が露見する可能性がある。

 魔術師本人に知られるのはともかく、そいつが更に仲間に伝える可能性もある。


 しかし、そんなことは二の次だ。

 クロエ先生さえ取り戻せればそれで良い。


「ッ――なるほど、非実体剣の量産か」


 振り抜こうとしたビームブレードは、先生の片腕に弾かれてしまう。

 弾いた右腕の周囲、その大気が歪んで見える。


『魔力障壁を両腕に纏わせているな。おそらく濃度の調整をしているはずだ。

 全身に全力で展開することは困難なうえに消耗も激しい、つまり――』

(――相手が障壁を展開してない場所に当てろってことだな?)


 弾丸にせよ、剣にせよ、どちらでも先に読まれていれば防がれてしまう。

 不意打ちを決めなければ効果がないことは2度の攻撃で理解した。


 しかし、厄介だな。僅かな近接戦闘で理解したが、相当の実力者だ。 

 ――先生を操る術者の格闘術も、それを問題なくこなすクロエ先生の肉体も。


「やはり、復権後に最大の障害になるのは機械帝国で間違いないな」


 スッと蹴り出してくるクロエ先生。

 その動きを回避しながら、彼女の足を掴む。

 加速思考を発動することで最適な防御を取ることができた。


「っ――!!」

「どこまで続く? その障壁!!」


 片足を完全にホールドしたまま、先生の腹部にビームブレードを突き立てる。

 魔力障壁に弾かれそうになるけれど、それでも離さない。

 この壁を突き破れれば、彼女の身体を麻痺させられる。

 そうなれば、もはや外から操ることはできない。


「ッ……舐めるな!!」


 残る足を浮かせて全身を回転させて来る先生。

 くそ、他人の身体だと思ってめちゃくちゃやりやがる。

 ……インテグレイトまで吹き飛ぶかと思ったが、ギリギリどうにかなったか。


 ――加速思考を発動し、時を止める。

 今、俺も先生も、地面を転がっている。

 恐らく立ち上がるのは同時になる。どんなに頑張っても先手は取れない。


 俺が立ち上がった時には、相手も立ち上がっている。

 だから、連続で行く。弾丸はまだ使わない。

 ――斬りかかり、弾き返されても、斬りかかる。


「ッ――!!」


 加速思考の解除、その瞬間から俺の身体は走り出していた。

 振り下ろすインテグレイト。

 それは魔力障壁で弾き飛ばされるが、それは予想通り。


 ――弾かれた反発力を押さえつけるのではなく、逃がし、再び振るう。

 その連続だ。通るまでやる。こいつの障壁をぶち抜くまで刃を振るい続ける。


「めちゃくちゃを……ッ!」


 先生の拳を避け、蹴りを避け、それでも距離は取らない。

 ブレードが届く位置に居続ける。

 ……通す、通す、この攻撃は必ず通す。先生は必ず取り戻す!


「っ――待て! 止まれ、さもな……ッ!!!」


 何か話そうとした一瞬の隙を突いて、足元にインテグレイトの弾丸を放つ。

 非殺傷設定だが、剣を防ぐために足元の障壁が薄くなっていると見た。

 そして、この読みは正解だ。先生の動きは止まったのだから。


「――返してもらうぞ、クロエ先生を!!」

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