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「14年戦争の続きをやる。今度は終わらせない」

 ――オースティン先生。


 紛れていた反帝国派から、俺を助けてくれた男はそう呼ばれた。

 片足ではあるが、確かな技術を持つ医学神官。

 勤務表的には、今、ここに居る医学神官は彼とクロエだけらしい。


「そうか。見張りに送った連中が帰ってこないって話は聞いたが」

「ええ、私たちが倒しましたから。

 それでオースティン先生、反帝国派の中に魔術師は居ませんでしたか?」


 拷問で吐かせた情報。魔術師マルロの存在。

 マルロに魔法を解除させない限り俺たちは外に出ることができない。

 今の今まで皇国軍による助けがないのも同じ理由だろう。


「居たよ、魔術師。つい先ほど、ワックの社長のところに向かった」


 ここに居た反帝国派は20人弱。

 残り10人強で向かっていると考えるべきだろうか。

 いいや、教会病院内の警戒に出ている可能性もあるな。


「――どうする? クロエ先生」


 2人で行った方が恐らく確実にマルロという魔術師とは戦えるだろう。

 しかし、ここに居るのは病人ばかりだ。

 無理に動かした影響で息も苦しそうなのが見て取れる。


「私は……」

「君にはここに居てもらいたいな、クロエ」


 まぁ、オースティン先生がそう言うのも当然だ。


「反帝国派で見回りに言っている連中もいる。

 戻ってきたとき、仲間が全員倒れていたとなれば戦闘は避けられない。

 それに病人を無理に動かす羽目になったからね、神官の手は欲しい」


 クロエ先生がこちらを見つめている。


「――心配するな、俺がちょいと倒してくるよ。それで万事解決だろ?」

「いえ、ジョナサン。貴方もここに居た方が」


 全員倒したというのにまだ偽名を使うか。

 まぁ、それはともかくとして彼女の心配に乗るわけにはいかない。


「いいや、ここで魔法使いとの戦闘は避けたいな」


 クロエ先生が心配してくれるのはよく分かる。

 しかし、ここで2度も戦って被害者を出さずに済む自信はない。

 特に敵が魔術師ならば尚のことだ。


「……それはそうですが、危険ですよ」

「治癒前提で突っ込む先生よりは安全だろうさ」


 クロエ先生が俺の言葉に頷いてくれる。


「止めても無駄なようですね。それに、私としてもあなたのような実力者に頼って終わるのならば、頼りたい。苦労を掛けてしまいますが」


 先生の言葉に首を横に振る。


「今ごろシルフィの奴が外で怒っているだろうからな。早くケリをつけたい」


 あいつのことだ。状況を知れば術式を強行突破しようとしかねない。

 それよりも早く決着をつける。


「それでは、場所を教えます」


 わっくわくバーガーグループ社長の病室を教えられる。

 病室には、社長個人が雇った護衛がいるはずだからすぐに制圧されていることはないはずと言っていた。それでも敵がここを出て10分以上が過ぎている。


「……持ちこたえているかどうか」


 最上階である3階、そこの個室に社長の病室がある。

 教えられたとおりの場所、その目前までは誰もいなかった。

 扉の眼前、かっちりとした服を着た男が2人、倒れているのが分かる。


 ――不用意に近づく前に加速思考を発動し、周囲に敵がいないかを視認する。

 目視で確認する限りの範囲にはいない。すでに病室の中と見るべきだろう。

 倒れている男たちは、眠っているようだ。


 ……この状況で、ただ呑気に寝ているはずもない。

 魔法で眠らされたんだ。

 つまり、この病室の向こう側に魔術師マルロがいる。


「……何者だ、君たちは」


 扉の近くで聞き耳を立てる。

 中の状況は分からないが、こちらに気づいた素振りはない。

 この老人の声は、ワックグループ社長だろうか。


「――“反帝国派”ですよ。

 名乗ったでしょう? 貴方の店にも何度かお邪魔しましたかね」

「……ただのデモ集団が、私の護衛を眠らせ、このような仕掛けをするなど」


 この状況でも恐れていないように聞こえる社長の声は流石だな。


「それに、帝国の拳銃を使い“反帝国”とはな」

「フン、仲間には帝国の機械技術を敵視している者も多いが、私は違う。

 私が憎いのは機械帝国の人間だ。同じ技術を使って殺せるのなら、充分」


 銃声が聞こえる。ここで飛び込もうかと思った。


「……敢えて外したな?」

「ああ、すぐに殺すつもりはない。アンタの身柄の使い道はいくらでもある」

「何が目的だ……? こんなことをしてタダで済むと」


 銃で狙われたというのに本当に肝の据わった男だ。

 社長の椅子に座っているだけの男ではないな。


「――14年戦争の続きをやる。今度は終わらせない。

 帝国のクソ野郎どもを皆殺しにするまで。

 なぁ、そうだろう? カラクリ野郎……ッ!!」


 銃声が響く。直感だったが、間違いなく敵は俺の存在に気付いている。

 そう思って扉から身体を逃がす。

 ……案の定だ。扉を撃ち抜いて弾丸が床に当たった。


 どういう仕掛けだ? 明らかに途中までは気付いていなかったのに、急に。

 探知するための魔法でも使ったのか? 

 それとも、思考通信と同じような魔法で情報を得た……? まさかな。


「お前ら、気合い入れて戦えよ? こいつが大ホールの連中を全滅させた男だ!」

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