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「つまり脳みそごとナノマシンぶっ壊すけど、すぐ治すから大丈夫ってことか」

「おまたせしました、ジョン――」


 診察室に戻ってきたクロエ先生と向かい合う。

 服も着直して落ち着いた。

 別に恥ずかしいわけでもないが、密室でとなると少しあれだった。


「それで、先生。どうなんだ? 俺は」

「――ええ。基本的にはシルフィーナさんと同じ見立てになります」


 つまり帝国軍に洗脳された皇国軍の捕虜というわけか。

 まぁ、実際その可能性が高いんだろうな。

 記憶を奪って偽りの任務を与えたことから考えれば。


「ただひとつだけ、そうとは言い切れない可能性が」

「と、言うと?」

「通常なら、あの光で失う前の記憶が見られるんです。ぼやけてても多少なら」


 水の中に入れられていたあの診察で、記憶が見られるはずだと。


「まぁ、見られたとしても程度差がありますし、失われている記憶の内容まで分かるかは別です。ただ、そういう記憶があるということの確証は取れる」


 ……おいおい、こう言ってくるってことは、まさか。


「――できれば、シルフィーナさんにも同席してほしかったのですが、貴方には伝えます。自己決定権を害することもできませんしね」

「……随分と焦らしてくれるな。そんなにヤバいのか?」


 こちらの言葉に首を横に振るクロエ先生。


「いえ、ヤバいかどうかはまだ分かりません。

 先ほどの診察で、貴方の記憶が見られなかったこと。

 それが何を意味しているかの断言はできない」


 ッ――その前の記憶がない、だと?

 あの意味不明な任務を与えられる前の記憶が、そもそも存在していない?

 だとすれば、俺はなんなんだ。この身体、最低でも10代後半のはずだぞ。


「――帝国も愚かではない。

 我々はあの14年戦争で洗脳の解除法を確立しています。

 つまり、それに対する対抗策を用意している可能性は高い」


 14年戦争において成立した敵兵への洗脳技術。

 神官によるそれへの対抗策、に対して用意された新たな技術。


「つまりナノマシンが進化していると?」

「ええ、その可能性は高い。講和が行われて2年経ちます。

 表向き全ての捕虜が返還されたとなっていますから尚のこと」


 ……戦争状態の時よりもなお、巧妙にやらなければいけないというわけか。


「しかし、私はナノマシンについては専門外です。

 確実な診断にはなりません」

「……なるほど。今のこの国の医学では、治せないってことか」


 こちらの言葉に頷くクロエ先生。


「臨床実験を終えていない仮説段階の方法で良ければ、方法はありますが」

「……え? どういう方法を?」

「強制的に体内ナノマシンを停止させ、その時の傷を治癒の加護で治す」


 もっともこの方法は、14年戦争時に考案されたものの危険性の高さから正式採用されなかった方法になりますが。と続けるクロエ先生。


「つまり脳みそごとナノマシンぶっ壊すけど、すぐ治すから大丈夫ってことか」

「簡単に言えばそうですね。ですので今回は使えない」


 優しそうな先生から聞くにしては随分とグロテスクな治療法だ。

 正式採用されていないとはいえ、戦時中は試したんだろうな、それ。

 ……肝が冷えるぜ。


「とりあえず、今日の診察としてはここまでになります。

 ナノマシンが止まるか、ナノマシンの専門家がいればもう少し深く診察できますが、現状では難しいかなとは」


 ……手詰まり、か。


「先生はいつまでここに?」

「今日まで。ジョンさんも診終えましたので、一応これで自由の身です」

「……残念だな、アンタになら安心して診てもらえると思ったのに」


 医者というものや神官というものに対する情報が多いわけではないが、なんとなく分かる。このクロエ・サージェントという医学神官は本物だ。歳こそ違うがシルフィの持つような風格を感じるのだ。


「ふふっ、兄を探す旅先でも医者をやるつもりなので、追ってきます?」

「――いや、俺の方も旅の途中でね。これからドワーフの国だ」

「なるほど。シルフィーナさんは一か所に留まらないという話は本当でしたか」


 そう言いながらクロエ先生がオレンジジュースを出してくれる。


「どうせ今日の患者さんはジョンさんだけですし、どうです? ご一緒に」

「……良いのかい?」

「ええ。シルフィーナさんはここに迎えに来ますか?」


 クロエ先生の問いに頷く。一応その予定だ。

 野暮用というのが何なのかは知らないが。


「――でしたら、私も彼女に会ってみたいんです。伝説のエルフですからね」

「魔王を倒した勇者の仲間だったな……」


 こちらの言葉に頷くクロエ。


「もちろん彼女の活躍はそれだけではありませんが。

 ただ、どの功績を例にしても偉大な先人です、会えることなら一度くらいは」

「先生の方に時間があれば大丈夫なはずだ。待ってれば来る」


 そう答え、オレンジジュースを貰う。

 よく冷えていて美味しい。


「ふふっ、これでこのジュースも飲み切れます」

「いつも飲んでた奴なのかな?」

「ええ、医者の仕事は疲れますから。甘いものが欲しくなって」


 退職までに飲み切りたかったということか。


「そうか。無理な頼みだったが、少しは先生の役に立てて光栄だ」

「――これも神のお導きでしょうかね」


 優しく微笑むクロエ先生の表情を見ていると神に感謝する気になる。

 そんな温かな気持ちになっていた頃だ。


『――この教会病院は、我々が占拠した! 

 抵抗は考えるな。大ホールに来い。

 10分を越えて隠れていた者、抵抗した者は容赦なく殺す!』


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