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「どう考えてもヤバいな、この国の未来――」

「……なるほど、人造(artificial)(god)(dess)計画か」


 シルフィに司令から聞いていた話を一通り伝えた。

 ここからどうしていくかを考えるのに必要だったからだ。

 帝国軍はまだここに踏み込んできてはいない。では、こちらはどうするか。

 それを考えなければいけなかった。


「ナノマシンを使った民意の抽出の時点でとんでもないことをやると思っていた。

 だが、そうか。信仰を造り出すことで神を造るとはな――」

「可能だと思うか? シルフィは」


 司令はやる気だったが、俺にはどうもそれが成功するものなのかどうか判断がつかなかった。仮に司令の思惑通りに全てが終わっていたとして、神は本当に生み出されていたのか。


「……正直なところ分からん。

 理屈は通っているとは思うが、実際に成功するかまではやってみなければな。

 しかし人工(artificial)霊魂(ghost)が復讐を企ててるか」


 ”つくづく私たちは、命を弄んでいたのかもしれんな”


「でも、そのおかげで俺がここに居る」

「……うむ、それについては感謝しているよ、本当に。

 それでジョン。外で戦っている連中がいたと言ったんだな? 司令は」


 シルフィの確認に頷く。


「そいつらが人造(artificial)(god)(dess)計画を止めてくれたと」

「……確かに今、攻撃は止まっているようだな」


 メガネ型のデバイスを使い、ネットワークを確認するシルフィ。

 流石はシルフィだ、よく分かっているらしい。


「――ウォルターあたりかな? アガサは議会を止めるために彼を選んだと」

「そこにクロエ先生が無事に合流していれば、あり得るな。

 少し連絡を取ってみる。ちょっと待っててくれ」


 スッと念話を始めるシルフィ。

 見ているだけの俺は彼女が何を話しているのか分からない。

 けれど無事に念話は繋がったことくらいは見て取れる。

 そしてシルフィが大きく驚いた表情をしてから、優しげな表情に変わっていくのを見て、温かい気分になった。


「……先生に怒られてしまったよ、連絡がつかなかったから心配したってね」

 

 そう語るシルフィの顔が、本当に嬉しそうで、こちらも同じ気持ちになる。

 ……そうだよな、神官同士は念話ができる。

 重要な局面だ。シルフィと連絡を取ろうとしていてもおかしくはない。

 ちょうどその時に意識を失っていたのだから。


「良かったじゃないか、クロエ先生に無事を伝えられて」

「……ああ、姉さんには感謝しないとな」

「それでリタの方は大丈夫なのか? 俺たちのために時間稼ぎに」


 俺の問いに頷くシルフィ。


「どうも先生と合流してるらしい。

 一緒にバカみたいに強い戦車と戦ったって言ってたな。

 ナノマシン投与者が全滅してたから、先生の位置が分かったんだとさ」


 そして先生の元にはウォルター率いる剣聖部隊も居たそうだ。

 まぁ、そこは予想通りだな。

 先生が無事にお兄さんと合流できてよかったと言うべきだろう。


「じゃあ、俺たちだけ敵の本命と戦い損ねたって訳か」

「ふふっ、かもな。だが、お前が倒した奴こそが本命と言えるかもしれん」


 なんて言うシルフィと2人、静かに笑い合った。


「ここの遺体を置いて行くのも忍びないが、一旦あちらと合流しようか。

 起きた事態が事態だ。まとまっておかないと何が起きるか分からん」

「ナノマシンへの攻撃も終わったし、帝国軍も動き出すって訳だよな?」


 こちらの問いに頷くシルフィ。


「――市民たちもな。謎のナノマシンへの攻撃を受けたんだ。

 こちらを敵と判断するか味方と判断するか。

 とりあえず監察官ウォルターの近くにいるのが一番安全だろうってさ」


 なるほどな。確かにそれが正解だと思う。

 アガサはこれを見越していてウォルターを選んだような、そんな気さえ。


「クロエ先生ごと身分を保証してくれるってか?」

「らしい。それにこれだけの混乱だ。システムの復旧には私の手が必要だろう」

「……へぇ、貸してやるのか? 手を」


 シルフィが静かにアガサの遺体を見つめる。


「私の権限を、残していたんだろう?

 帝国民が嫌だと言うのなら私は去るが、そうでなければ手を貸すさ。

 それが私の義務……」


 言葉を止めて、静かにアガサへと礼を尽くすシルフィ。


「――いや、親友への弔いであると思う。良き為政者であろうとしたアガサへの」


 俺はその言葉に静かに頷くことしかできない。

 シルフィが、自らの親友であるアガサと、共に興した機械帝国に何を思うのか。


 ……自由になったと思っていたけれど、果たさなければならないことは続いていくものだな。それでも、誰かの命を奪わなければいけないような事柄じゃない。戦いは終わったのだ。願わくは無駄な混乱が起きないように。


「……行こう。シルフィ」

「うむ、そうだな――」


 スッと自らの襟を正すシルフィ。


「――また来るよ、アガサ。それまで少し待っていてくれ」


 こちらを向き、静かに歩き出す。

 皇帝宮殿の地下に用意されていた研究室を後にする。


 ……全くもって数奇な場所だ。

 いったいどんなメリットがあってここを選んだのだろうか。

 何かあったんだろうが、もはや聞き出す相手もいない。


「外はどうなってるんだろうな?」


 インテグレイトを拾い上げてシルフィに問いかける。

 司令との戦いには不要なものとなったが、外もそうだとは限らない。

 しかしカートリッジの予備はない。またウォルターに貰おうか。


「さっきの通信では静寂を極めていると言っていたな。

 全ての帝国民が洗脳を仕掛けられたようなものだ。すぐには動けないと」


 存在しない神を信仰するように洗脳して、その信仰から神を造り出す。

 それが司令の計画だったものな。


「となるとウォルターへの洗脳とかも人造女神のための技術だったんだろうな」

「おそらく技術としては同根だろう。そこら辺を紐解くのも大変だろうが」


 機械皇帝は死に、帝国議会もその内の2つが離反したことは明るみに出る。

 ……いや、それよりも重大なのは人間ではないことを伏せられなくなるだろう。

 元々は民意が選んだこととアガサは言っていたが、もう戻るまい。

 ここまでの大きな事件が起きてしまえば、戻せないはずだ。


「どう考えてもヤバいな、この国の未来――」

「……ああ、立て直しには途方もない労力が必要になる。

 追い出されない限り、私はそれを果たそうと思っている」


 シルフィがこちらを向く。


「だから、もう少し頼めるか? ジョン」

「言われなくても。500年前の因縁から解放する、それが俺の願いだ」


 ここが旅の終着点であることは変わらない。

 それでも、もうしばらくは続けなければいけないようだ。

 そんなことが少し、嬉しかった。


「ありがとう。苦労を掛けるだろうが、またよろしく頼むよ、ジョン――」

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