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「――来いよ、後輩ども」

 ――漆黒の外骨格に身を包む機械皇帝・アガサ。

 それに向き合うのは、白銀の魔導甲冑を纏うシルフィ。

 500年前、共に魔王討伐戦に参加した2人。


 のちに機械帝国へと化ける旧勇者領を興した創始者。

 勇者ジョージを蘇らせるために手を尽くした研究者。

 そして、今でも友人同士だった2人だ。


 ……俺は、一撃で終わらせることができなかった。

 シルフィの力を借りず、俺が皇帝にトドメを刺すことができなかった。

 できることならシルフィに親友を殺めるなんて真似、させたくなかったのに。


 既に皇帝を守るためにシステムは動き出した。

 無数の柱に入れられていた人造兵士たちが解き放たれようとしている。

 そして皇帝自身は動いていないが、こちらの攻撃を防御するだろう。

 彼女を包む外骨格が自動的に彼女を守るはずだ。


 ――自らの生み出した機械とシステムに閉ざされた女。

 俺たちはそれを解放しなければいけない。いや、この認識は美化か。

 シルフィが天橋を昇るエルフを自殺だと言ったのと同じように。


 それでも、そうとでも思わなければ、やり切れるものではない。


「ッ――対魔法障壁か」

『議会の連中め、随分と大掛かりな仕掛けを……』


 魔導甲冑を展開し、自らの魔力を練り上げたシルフィ。

 そんな彼女が放った一撃を、床から展開された障壁が防ぎ切る。

 皇帝自身はなんら動いていないのに、彼女の命は守られる。


『ここを選んだのは失敗、いや、この選択すらもネットワークに影響されたか』


 自我を疑うアガサを前に、言葉を失う。

 ……一刻も早く、終わらせてやらなければいけない。

 そう感じてしまう。


「チッ……!!」


 サングイスで障壁を破壊しようとした、まさにその瞬間だった。

 こちらに、インテグレイトの光線が放たれてきたのは。

 ……研究室のように見せかけておいて武器まで用意されているなんて。


 確かにこれはお膳立てが良すぎる。

 議会の代理人は、ここまで見越していたのか。

 人造兵士用のインテグレイトが潤沢に用意されているのだから。


「伏せろ、ジョン――」


 シルフィの言葉に従う。

 次の瞬間、彼女の虚肢複腕が放たれた。


 ――想像以上に避けられていないな、人造兵士たちは。

 てっきり俺と同じような加速思考を持っていると思っていたが。

 それとも目覚めたばかりだからだろうか。


「ッ……!!」


 遠距離攻撃を掛けたからといって、それで全員が倒せるわけじゃない。

 だから、こちらとの距離を詰めてきた人造兵士を斬り倒した。

 自分と同じ人間もどきを、斬り裂いたのだ。


 ――瞬間、サングイスから力が流れ込んでくるのが分かる。

 俺の血でさえ、力を増すのだ。

 分かっていたこととはいえ、吸血剣は人造兵士(俺たち)を人間だと判断している。


 無垢な赤子として生まれ育ったわけではない俺たちを。

 最初からこう設計されて、素材から組み上げられただけの俺たちを。

 サングイスのようなアーティファクトでさえ騙す人間もどきが人造兵士(俺たち)か。


『……まるでジョージと同じだな、ジョン』


 シルフィの放つ魔法を受け流している機械皇帝が、俺を見て呟く。

 いや、受け流しているのは、この部屋にある仕掛けの方か。

 シルフィは、段階的に出力を上げているようだが、決定打ではない。


「っ……ジョン、こいつらをお前に任せる」


 そう呟いたシルフィが、動かぬ機械皇帝へと視線を合わせる。

 今までのような全方位の戦いではなく、アガサだけに集中していく。

 俺は、彼女をアガサと戦わせたくなくて、叫ぼうとして、やめた。


 ――加速思考を発動しながら、シルフィの作戦について考える。

 まず、俺は初手で機械皇帝を殺めることができなかった。

 自らの血を捧げた状態でも。だから今、戦いを挑んでも同じ結果になる。


 少なくともシルフィは今の俺より遥かに強いだろう。

 その時点で彼女がアガサを狙うのは、作戦としては当然だ。

 更に、俺が使う武器はサングイス、血を吸うことによって力を増す刃。

 こうして多勢に囲まれているのは都合がいい。


 そこまで見越したからシルフィはこの作戦に出た。

 だから俺に頼んだ時、あれほど辛そうな顔をしていたのだ。

 この俺に同族殺しを強いるから――


「――来いよ、後輩ども」


 振り下ろされるインテグレイトを避けながら、サングイスを突き出す。

 血を吸ったサングイスは、人造兵士の腹を貫き、そのまま骨さえも切断する。

 そして、更に斬り終えた相手の血を吸い取っていく。


 あっけない。あまりにも呆気なさすぎる。

 加速思考を発動するまでもなく、相手の動きが読めてしまう。


 ――ビームブレードは実体剣で防ぐことはできない。

 すり抜けて身体を斬り裂いてくる。

 だが、そもそも避けられる一撃だし、そうでなくとも。


「っ……?!」


 驚くだけの知能はあるのか。

 てっきりナノマシンで操られているだけの木偶の坊かと思ったが。

 ――そうだ、俺の武器はサングイスだけじゃない。

 インテグレイトは、インテグレイトで防ぐことができる。


「おっと――」


 斬り殺した死体を盾に、遠距離からの狙撃を防ぐ。

 そして、そのままこちらもインテグレイトの弾丸を放つ。

 非殺傷設定ではない。確実に殺すつもりで。


 ……思えば、最初から殺すつもりで戦うのは、魔族を相手にしたとき以来か。

 あの時と違うのは、相手は俺と同じ存在だということ。

 そして何より見た目と構造は、人間そのものだという点だ。


 人を殺すつもりで殺すということは、こんなにも悍ましい感覚なのか。

 あのテオバルドを殺した時よりも遥かに開く実力差が、自制心を呼び起こす。

 こんなにも殺し易い相手を、殺し続けて本当に良いのか?と。


 ――下らない感傷だ。

 目の前にいるこいつらは、アガサを取り込んでいるシステムの内部にいる。

 俺程度の人格さえ与えられていない状態だ。


 そこまで考えながら、自分のことを想ってしまう。

 もし、シルフィと初めて出会った時、彼女が俺を殺すつもりだったのなら。

 きっと俺は、今のこいつらと同じようになっていたのだろう。


「ッ――ぁあああ!!!」


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