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「その役目、この俺が引き受けよう――機械皇帝」

『――全てを理解した後、君は私を殺すはずだ。そのために来たんだろう?』


 旧友から事情を聞いた後のシルフィは、彼女を殺すことをやめると思った。

 帝国議会の方を潰せば、それで事は収まる。

 そう判断するのだろうと。俺も別にそれで良いと思っていた。


 アガサの語る言葉に特別嘘が混ざっているようには思えなかったし、シルフィ自身だって旧友を殺めるのは重荷のはずだ。当人の外に原因があるのならば、それを正せばいい。何も命を奪う必要はない。そう、考えていたのに。


「……元々はそのつもりだった。

 14年戦争も、捕虜への洗脳も、ジョンをこうしたのもお前の判断だと思っていたからな。しかし、そうではないと言うのなら」


 シルフィの言葉にアガサは首を振る。


『相変わらず優しいね、シルフィ――』


 その声色に、機械皇帝となる前の彼女を見た。


『――代理人を1つ潰してもダメだった。

 そして、私自身もネットワークの中にいる。

 ここまで説明したんだ。君なら分かっているはずだよ、シルフィ』


 ッ……彼女の言葉を前に、俺は沈黙することしかできなかった。

 機械皇帝自身が、止めようとして止められなかったのだ。

 その果てに、俺は今、ここにいる。


「っ、じゃあ、どうして貴女はウォルターを送り込んだ!!

 解決できると思っているからじゃないのか?!」


 すがるようなシルフィの声が、耳に残る。

 けれど、違うのだろう。

 彼女の望む答えは、返ってこない。


『違うな、ウォルターを送り込んだのは帝国議会を潰させるため。

 そして君たちが私を殺すことで、歪んだ統治システムからこの国は解放される。

 全てはこのための計画だったんだよ、シルフィーナ』


 ”既にシステムの一部である私は、自死を選ぶことさえできないから”


「その役目、この俺が引き受けよう――機械皇帝」


 ミルフィーユに貰った布袋から、サングイスを引き抜く。

 そして、そのまま、それを本来のサイズにまで戻した。


『勇者、いや、ジョンだったね。因果なものだ。

 議会が用意した君が、この私を葬ってくれようとは。

 それも、ジョージを殺したその剣で』


 サングイスの刃に指先を重ねる。

 動きに支障が出ない程度に傷をつけて、自らの血を捧げる。

 一撃だ。一撃でケリをつけなければいけない。


「っ――やはり、こうなるか」

『すまないね、ジョン。

 こうなってしまうこと、予想していなかったわけじゃないんだけど』


 こちらの刃は、皇帝の右腕によって防がれる。

 まさか、腕に光線剣を仕込んでいるとは。

 そしてこの場全体にアラートが鳴り始めた。

 ……これで、彼女1人との戦いでは済まなくなるのだろう。


「アンタ自身がシステムの一部だってことの証拠か」

『そうだ。そして防御反射は始まってしまった』


 ――加速思考を発動する。

 鳴り響くアラームに合わせて、用意されていた俺の同類たちに動きがあった。

 彼らが収められている柱、それを満たす液体の水位が下がり始めたのだ。


 ……これは、来るな。

 俺は俺の同類を相手にしなければいけなくなる。

 帝国民が心を痛めないために用意した人造兵士を相手に、立ち回らなければ。


『シルフィ、私は今からあの魔王と同じ存在に成り果てる。

 捕らえた人間を洗脳し、自らのしもべを造り続けるだろう。

 私は喜んで世界を征服するはずだ。殺せるのは今のうちだぞ――?』


 それが精いっぱいの悪人ぶった振る舞いだということは感じ取れた。

 ……俺には、彼女が自らの築いた機械に囚われた哀れな人間にしか見えない。

 だから終わらせてやらなければいけない。彼女の友人ではない俺こそが。


「ッ――相変わらず下手な演技だ。それで、悪人ぶったつもりか?」

『ぶっているんじゃない、既に悪人なんだよ、シルフィ』

「……最後の最後まで、手のかかる女だ」


 シルフィの腕輪が銀色に輝く。彼女の魔導甲冑が起動していく。


「私は、貴女に殺されるものだと思っていた。

 ジョージを身代わりに生き残ったあの日から、ずっと。

 なのに、貴女が私に殺してくれなんて……本当に、冗談じゃない……ッ!」


 ――知らない方が良かったのだろうか。

 アガサが自らの事情を語っていない方が、こんな気分で戦わずに済んだのか。

 それでも、彼女は全てを打ち明けた。


 知っていて欲しかったのだろう。

 自らの想いを。そして、知ってもなお、この役目を果たしてくれると。

 シルフィのことを信じているのだ。古い友として。


 だが、させるものか。シルフィにアガサを殺させるものか。

 彼女を殺すのはこの俺だ。

 もうこれ以上シルフィに辛い経験をさせたくない。


『……死ぬ前に言っておく。

 ジョージのことで君を恨んでいないと言えば嘘になる。

 けど、君の身代わりになるような男だったから、あいつは私を見つけてくれた』


 どこまでも優しい声色だった。今までに聞いたことのないような。


『そこまで分かってしまうから私は君を恨めないんだ。

 君を見殺しにして得た勝利をジョージと迎えていても、幸せになんてなれない。

 ……ごめんね、シルフィ。あの日、君を巻き込んでしまって』


 のちに機械帝国となる領土、勇者領の設立。

 ジョージという死人を蘇らせるために行った数々の研究。

 ……それに巻き込んでしまったことを、謝罪するというのか。


「っ、アガサ――私は、確かに悔やんでいる。

 貴女とこの国を始めてしまったこと、貴女を止められなかったことを。

 でも、後悔だけじゃない。貴女と過ごした日々は楽しかったんだよ、アガサ」


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