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交換

作者: N(えぬ)

 人間と猫の立場が交換されて久しく時間が経った。

「人間は増えすぎた」また「人間は罪深いことを多くした」ためだろうか、人はほんの小さい、「元の人間なら手のひらで掴んで余る程度」の大きさになった。対して猫はかつての人間ほどの大きさになった。

 小さくなっても人は人。人間はその住む場所の為に空き地を見つけては平らに慣らして家を建てた。人間たちの家が建ち並ぶ様は、大きかった頃の人間が見たら「おもちゃの国のよう」で、得も言われぬときめきを感じさせただろう。「ここに本当に人が住んでいたらおもしろいのに」と、見る人に思わせただろう。今は実際に、小さくなった人が住んでいるわけで、彼らが彼ら自身を見て「おもしろそう」などと感じたりはしないのだった。


 人間は地球のそこら中に生息していた。繁殖力もあり寿命も長く、病気もケガも自ら治し、食料も調達する。よさそうな場所を見つけるとすぐに住み始める。放っておくと、そこら中どこもかしこも人の住処であふれてしまう。だがそんなところに、猫様が通りかかる。大人の猫ならまだマシで、まだ幼い猫はおもしろがって人を見つけて小突き回したり、咥えて振り回してみたりした。人どもが建てた家も、

「うぁぁぁ」と言う声と共に前足でひと掻きふた掻きすると、人の家は脆くも砕け散ってバラバラに成った。そうすると人は、慌ててパニックになり走り回り、やがて落ち着くと飛散した家財を集めて回り、また同じように家を建て始める。彼らはそんな時、何か言っているようだが、「ミーミー」「ミョーミョー」っているだけでよくわからない。そうやって人が鳴くと、また猫がやって来る。だから覚えのよい人間は、猫が近寄ると声を静めてジッとして、猫が行き過ぎるのを待つ。小便を掛けられる程度で済めばありがたいのだ。


 小さくなった人間は、カラスやネズミにも襲われるようになり、いかに人の繁殖力が強くともその数を減らして行った。

 その中で、知性ある猫の住居の周りは比較的安全だった。猫は人を食料にしなかった。その代わりに、かつて人が猫にしていた様なことはする。進路にいると意味も無く蹴りつけたり、石を投げつけて見たりすることはあった。そんなことがあると人は、

「ああ、やれやれ」

 そう言う以外には無かった。

 そんな猫と人の関係だったが、やはりどうも人が辺りに彼らの好き勝手に家を建てて暮らし始めると近隣の猫方が「邪魔だ」「衛生上よくない」「うるさい」「食い物を盗みに家に入られた」など苦情も多かった。

 それとは反対に人に食料を与えて餌付けする猫もいた。家の中で人を飼う者もいた。

『ヒトに餌を与えないでください』という張り紙もあった。


 増えすぎた人は今まで行政により処分されて来た。けれど、

「野良ヒトが増えないようにしよう」「処分ではなく、共生しよう」

 猫たちの間で意見が交わされた。人を捕らえて「処分」してしまうのは手っ取り早いが、かわいそうだと言うことで「不妊・去勢手術」が施されて行った。一部の「美しい・可愛いヒト」は種として繁殖の機会があったが、その他は、特に「野良ヒト」は徹底して手術が施された。

「猫とヒト。互いの幸福せの為に」と言われた。

 手術を受けたヒトは腕に印が付けられた。もはや繁殖能力を失った彼らヒトは、これから地域の中で「余生を過ごす」事になる。

 もう野良ヒトが増えていくことは無い。それだけでも、少し猫は人に優しくなった。食べ物を皿に載せてヒトの集落のそばに置いてくれる人も増えた。



 長年野良で、ヒトとして生き抜いて来た老人は、もう自分の周りの者たちが、全て手術を受け、今いる孫の代で途絶することを思いながら、夏の夕暮れにむかしを思い出すのだった。


 と、日暮れた道に堂々と座り込み、横を通りすぎるわたしを僅かに警戒し見る、黒と白の毛の猫を見ながら、こんなことを思った。

「お前は、どういう気持ちだい」




タイトル「交換」

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