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ぽつぽつと落とされる言葉は、しかし未だ見ぬ幼子への慈愛で満ちていた。
「君に似て、きっと」
続きを言おうとして、サミュエルは真っ赤になって口を噤んだ。自分は何を言おうとしているのだ。しかもいつ生まれてくるかも解らない赤子のために、何を真剣になっている。
その時、彼女の隣に居るのは、きっと自分では無いと言うのに。
暗く澱んだ思いが、静かにチリリと胸を灼いた。
「サミュエル、最高よ!」
そんな澱んだ想いとは裏腹に、満面の笑みを湛えたディアナが目をキラキラと輝かせていて、それだけでサミュエルは沼の底から引き上げられるような気がした。彼女が笑うだけで、幸せを感じる。傍に居てくれるだけで、呼吸が楽になる。
もう少し、このままで。そう、思ってしまう。
「私、決めたわ。将来子供が産まれたら、絶対に女の子にはレティシア、男の子にはフェリックスって名前をつけるの!サミュエルは名付け親ね」
そう微笑う彼女に、まあ名付け親のポジションに甘んじるのも悪くはない、そんな事を考えている自分がいる。
「わかった」
頷きを返し、小さな紙片に『Letitia・Felix』と丁寧に記すと『リコレクション・ローズ』の記されたページに挟んでディアナに手渡した。今、この日、この瞬間がいずれ産まれてくる幼子の記念日になるのだと、そう信じながら。
「どうか、その子を愛してあげてね。守ってあげてね。名付け親さん」
「ああ、約束だ」
ディアナは大事そうにその本を胸に抱き、幸せに満ちた顔で微笑った。
それが、僕の世界の全てだった




