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降り立った先で、視界は緩やかに揺れていた。二一年前の世界で、全ての証言者は今でも変わらずそこに咲く、記憶の薔薇であることを知った。
窓ガラスの向こう屋敷の中、厳しい顔つきで議論している様子だったロレーヌの者達がにわかに騒然として立ち上がる。次の瞬間、部屋に顔を隠しもしていない男たちが雪崩込んできて、大した狙いも付けずに銃を打った。今思えば、魔法で改造されていたのだろう。どれも過たずに頭へと銃弾は吸い込まれて、ほとんどの者が一瞬で絶命した。
残った者達が必死に防御陣を敷くが、ものの数秒で打ち破られ、それで全てが終わった。
脳に焼き付くほど繰り返し見た、あの拳銃。
男たちの胸に光る、私と同じ銀色の蜘蛛が、たった一つの『答え』だった。
「知って、いたのか」
「……そうだよ」
「また、私だけが道化だったと。そういうことか」
「サミュエル?」
「いや、いい。私には、行くべきところがある。ここにいろ……どのみち、その身体では付いて来れまい」
「待って、どこに」
「幸せに、なれ」
「サミュエルっ!」
呼び止める声を無視して、後ろ手にドアを閉めた。長年通い詰めた、ケルベロス本部までの道を駆けていく。この道を通るのも、今日で最後になるのだろう。エントランスにそのまま駆け込むと、誰もが息を呑んで振り返ったが、構わず局長室まで一直線に駆け上がる。その部屋に、初めてノックもなしに飛び込んで、音を立てて施錠した。
人間の武器を、あの銃を、目の前の男に突き付ける。慣れない武器に震える銃身が、自分の脆弱さを突きつけているように感じて。
「遅かったな、サミュエル」
銃を突きつけられている眼の前の状況が見えていないかのように、いつもの調子で書類から顔を上げて、のんびりした口調で言い放つ。
「懐かしい銃だ」
「っ、本当に、あなただったのか……」
「それを確信して来たのではないのかね、サミュエル。お前は思い込みで動くような、浅薄で考えなしの男じゃない」
眼の前で微笑むこの男が、長年仕え、尊敬し続けてきた師匠だなどと信じられなかった。信じたく、なかった。
「奴隷取引も、違法の武器製造も」
「もう一つ言えば、武器の方も『取引』だ。どちらも金になるんでね」
「金、だと?」
「曲がりなりにも、ケルベロスに籍を置くんだ。金の恐ろしさは、よく知っているだろう?人間を動かすのは、愛でも権力でも武力でもない。金だけだ。どれだけ無能な魔法使いが、個々のちっぽけな魔力と魔法の技能を磨いたところで、人間の数には勝てない。それに人間が気付く日は近いだろうな。その日が、魔法使い終焉の日だ」
「貴方は、戦争を起こす気なのか」
「それはあまり頭の良くない質問だな、サミュエル。何のために武器があると思っている?魔法で結ばれた、誰もが自由で平等な統一国家など、虚構の平和に築かれた砂の城だ。この平和ボケした連合国から一歩外に出れば、魔法と銃弾の飛び交う紛争地帯が連綿と続く。身分差がある限り人間の不満は燻り、身分差が無ければ魔法使いが怒る。最終的には、魔法使いか人間、どちらかが滅ぶまで永遠に殺し合うだけだよ」
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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