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師匠。ジャン・ドルレアック。稀代の魔法使いにして、法と裁きを司るケルベロスの局長。
嘘、だろう。
いや、師匠の門下生は強力な魔法使いばかりで、貴族界の中でもかなりの影響力を持っている。だから、5人とも師匠の弟子であったことは何かの偶然かもしれないし、師匠はこの犯罪とは何の関係もなくて、この5人が師匠の弟子という立場を利用して好き勝手やっているだけなのかもしれない。
そう考えようとして、それでも結局は一つの結論に辿り着くのだ。師匠が、あの局長が、鼻先で行われている犯罪に気付かないはずがないのだ。それはつまり、仮に直接的に加担していなかったとしても、犯罪行為を黙認していたということに他ならない。
震える手で、拠点のビルやアパルトメントの監視映像にアクセスする。ログに残された時間、訪れた業者の顔に、いくつも自分の同輩や後輩の顔を見付け、呼吸ができなくなる。
「フェリックス」
「どうしたの?」
「この案件、保留にしろ」
私の言葉に、帳簿から顔を挙げたフェリックスが、訝しげにこちらを見遣る。
「どうして」
「理由は、訊くな」
「……それって、俺の安全のため?」
どうなのだろう。すぐには、そうだと即答できなかった自分に戸惑った。そんな私の反応に不安を覚えたのか、近寄ってきたフェリックスが、心配そうに言葉を落とす。
「大丈夫?何かあった?」
全てを見透かしてしまいそうな美しい瞳には、疲れ果てて青褪めた、見すぼらしい男が映っていた。思わず目を背ければ、自分が正真正銘に汚い男であるように思えて、ひたすらに情けなかった。
「いずれ、話す。今は、頼むから、何も訊くな」
みっともなく掠れる声に、それでも明確な拒絶が混じることは避けられなかった。フェリックスは、私に伸ばしかけた手をハッとしたように引っ込めて、困ったような泣きそうな笑顔を浮かべた。
「……帰ろうか」
彼の声に私はただ頷いて、来た時は音もなく開けたドアを、振り返ることなく閉めた。冷たく響いた施錠音が、お前は無力だと嘲笑われているようで、ひたすらに虚しかった。
*
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