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何でもデジタル端末でやり取りしてしまう今、手書きで何かを残したり管理しようとする人間なんていない。だからその存在を考えもしないで、有りもしないデジタルの取引記録を探して途方に暮れる。
「地味ではあるが、お手柄だ」
「やった。それじゃ、手分けして証拠写真を残していこうか。帳簿の中身は、決定的っぽいところだけ」
「後は他の組織に繋がりそうな点や、組織の内部構造に関わりそうな書類、それから人名・住所といったところか」
「了解。後は追々」
「ああ」
明らかに一番古そうな帳簿を手に取れば、タイトルは『No.1/統一暦三二九年』となっている。今が三五八年なので、違法組織にしては珍しく三十年近くも営業している老舗ということになる。今まで無名で全く尻尾を掴ませなかったというのが、信じがたい程の業績を挙げていた。
そもそもこの組織が見付かったのは全くの偶然だった。見つけたのはやはりと言うべきかフェリックスで、別件である魔道具の違法取引現場を押さえた帰りに、そこの港で不意に足を止めた彼が『人の気配が沢山する』と言い始めたのだ。そこは基本的に貨物を取り扱う港であったため、不法移民か何かかもしれんということで咄嗟の判断の元に突入すれば、怯えた顔の子供が大量に詰め込まれていた、という訳だ。
そこからは本当に時間との戦いで、相手側に対策を講じられる前にと、その日のうちに局員総出で一斉検挙。それこそ息吐く暇もなかった。その奴隷取引組織は国内のかなり深いところまで根を張っていて、今も全ての拠点の精査にかかりきりな状況だ。
そこまでの大規模犯罪組織が、どうして今まで存在すら知られていなかったのか。今この瞬間まで保留にしていた問題が、頭の中で警鐘を鳴らしている。明らかに、おかしい。これだけ大規模ならば、奴隷取引以外にも手を出していそうなものなのに、他に繋がりそうな組織が一件も出て来ない。一斉検挙の際、他に取り押さえた構成員や拠点もそうだった。
「あっ」
小さく、思わず零れたような声が、狭い室内に響く。
「どうした」
何か見つけたのかと期待してフェリックスを振り返れば、彼は苦笑して首を振った。
「ううん、ごめん。俺の見間違いだったみたい」
驚かせるな、と小さく息を吐き出しながら、逆にそんなに早く証拠が見つかれば苦労はしないとも思う。この組織には、まだ何かがある。それも奴隷取引よりも、ずっと重要な何かが。取引の開始した三二九年から八年間は、ほぼ同じ分厚さの帳簿が並んでいるが、三三七年から唐突に取引量が増加し始める。三四三年からは更にその増加が顕著になる。
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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