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「見つけた……ここを、光る魔力の糸が続いてる。元は、こっち」
トン、とフェリックスが壁の一点を指で突けば、私にでも分かる魔力波がゆらりと広がった。「何か、気持ち悪いね。歪な感じ……あっ、文字が書かれてる」
壁をすっとなぞる指を思わず目で追うが、当然私に見えるはずもない。
「何語か分かるか」
「多分、ラテン語かな……文法がグチャグチャで。裏には共通大陸語でソースコードみたいなのが透けてるんだけど、近年稀に見る長さ」
「現代の光魔法を応用した認識阻害魔法と、古式魔術による封印を組み合わせた、良くあるスタイルだな。裏書きが長いのは、魔法の編み上げが下手くそな証拠だ。素人が見様見真似で組んだんだろう。文法がグチャグチャな文がヒントになっていて、それさえ解ければ誰でも押し入れる甘いセキュリティだ。とっくに時代遅れのスタイルだな」
「今、ヒント文を投影するから」
その言葉と同時に、ぱっと柔らかな光が部屋の壁に走る。想像していたよりもずっと短い文で、ざっと読むだけでも内容が特定できそうだった。
「隣人、恨み、仇、愛する……また宗教か」
この手のパスワードには、趣味の悪い皮肉として『人間』の宗教の文言が使われる事がよくあった。間違いなく、今回もそうだった。
「旧約聖書の、レビ記十九章」
呟くように検索ソフトに告げれば、目的の文言が現れる。それに沿うように元の散らばった単語を並び替えて行けば、分かりやすく最後の単語が欠けていた。
「私は汝らの主である……主をラテン語で、いや、大陸共通語だ。光魔法でLORD」
裏書きが大陸共通語であったということは、その可能性の方が高い。検索サイトからそれっぽい文言を引っ張ってきて、意味も良く分からずに切り貼りしただけの代物だろう。パスワードは外部の者にとって特定しにくくて、内部の者にとって覚えやすいものが最適だ。
少し丸みを帯びたフェリックスの楷書体の横に、私の神経質に細い筆記体が並ぶ。フェリックスはそのまま壁にシンプルな解除コードであるそれを撃ち込んだ。すぅと溶けていく文字に心拍数が跳ね上がるのを感じたが、音もなく現れた扉に胸を撫で下ろす。
扉を開けて中に入れば、部屋の壁にはびっしりと帳簿が詰まっており、そのどれもが印刷物ではなく手書きの帳簿だった。
「いまどき、手書きって……」
「いや、今時だからだろうな。完全にオフラインな端末なんて有り得ないし、絶対に安全なオンラインなんて有り得ない。手書きなら、帳簿が流出しない限りは安全だ。ある意味、警察の盲点を突いているのかも知れん」
最後まで楽しんでお付き合い頂ければ幸いです。
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