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今になって思えば、何かの医学書に全色盲の人間は光に過敏だと、書いてあったような気がしなくもない。それから暗闇の方が目も利くらしい。
「明度はね、良く感じ取れるんだ……例えば、サミュエル。貴方には、この部屋がどんな風に見えてる?」
「黒一色の、暗い部屋だな」
「一色だけ?……そっか。俺には綺麗なグラデーションで、整えられた部屋に見えるよ。壁は少し褪せてるけど、丁寧に人の手で塗られて、あったかい感じがする。手で触るとほんの少しだけ、刷毛の通った跡が感じられない?」
促されて何の変哲もない壁をなぞれば、確かに指先が僅かな凹凸を感じさせる。見た目では全く分からないのだから、それだけ丁寧な仕事だったということなのだろう。
「この本棚は、ニスが何度も重ね塗りされてるのかな。薄い何重ものベールの向こうに、ふわって美しい木目が見えるんだ。シンプルだから粗が目立ちそうなのに、ムラもないし、誤魔化しがなくてお洒落だよね」
目を近付けて見れば、確かに複雑な文様みたいな木目が、厚く塗られたニスの向こう側で、透かし彫りのように揺らめいていた。
「そこの本棚からね、テーブル、ベッドにかけてなんだけど、ちょっとずつ明るくなっていくんだ。色で例えるなら、本棚は貴方の髪の色で、テーブルはオブシディアン……黒曜石の色、ベッドは星が明るい夜の空みたいな感じ」
どう見ても唯の黒にしか見えない部屋を、彼の言葉に従ってもう一度見直してみても、やはりそこまで大した違いは分からなかったが、そこが今までよりずっと意味と密度を増した空間になった事だけは確かだった。
「……そこまで違いが分かるなら、色も少しずつ覚えれば良いだろう」
「そうしたいのは山々だけど、一個一個教えてくれるような親切な人、いないよ」
また、あの諦めたような、私を何故か苛立たせる寂しい笑みを見せる彼に、黙って手を差し出す。
「どうしたの?」
「感覚共有だ。ディアナの息子なら、できるだろう」
フェリックスは、絶句して私を見上げた。
「でも、本当に良いの?」
「……私の気が変わらないうちに」
「っ……お願い」
私の手に、恐る恐る手を重ね、覚悟を決めたように目を閉じた。瞬間、温かな魔力が押し寄せてきて、私のそれと繋がるのを感じた。
「窓の、ところまで」
「ああ」




