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第9回ネット小説大賞 1次選考通過しました
まだ太陽も眠りに就いている頃、静寂の中で目を覚ます。浅く息を吐き出して、疲れの抜けない身体に鞭打って起き上がれば、狙いすましたように郵便受けから新聞が落とされる。明らかに不要な大量のダイレクトメールを、寝起きの不機嫌と共に火魔法で消し炭にし、いっそのことこの紙クズが届かないようになる魔法があれば良いものをと呟く。
霞む目を押さえながら、機械的に手を動かしてコーヒーを淹れる。これで『あの男』が起きていれば、魔法でちょちょいと美味いのを淹れてくれるのだろうが、あれがこんな時間に起きていた試しなどない。コーヒーを淹れるというのは、意外と細かい魔力の調整に気を遣わなければならず、私程度の凡人が寝起きにそんな高等技術をこなすことが出来るはずもない。残念ながら、それが現実だ。まあ良い……目覚ましにもなる。
ガリガリとミルで挽いた豆が香り高く鼻腔を突いて、飢えと渇きを刺激する。気が逸るのを抑えながら、ドリッパーにトントンと粉を落として、薄く湯気の昇るお湯をそっと乗せる。その瞬間に花の蕾が解けるような、フワリと立ち上る香りに目を細めた。
最適なタイミングで回し入れたお湯が、完全に沈み切る前にドリッパーを退けて、温めておいたカップに琥珀色したそれを注ぐ。先とは少しだけ異なり、どこか甘やかな香りを漂わせるカップに、ささやかな朝の贅沢を感じる。ゆったりと肘掛椅子に腰掛け、足を組んでリラックスしている自分を感じながら香りを味わう。
新聞をめくりながら一口含めば、硬水に引き出された苦味で寝惚けた脳味噌が完全に叩き起こされるのを感じる。直後に舌へと広がる豊かなナッツの風味で、自然と口元が綻ぶ。そうしてコーヒーを楽しんでいるうちに、小さな窓から朝焼けのオレンジが柔らかく部屋を照らし始め、新聞を読むのに必要な光を提供してくる。この時間が、一番好きだ。
別に新聞を読むのが好きな訳ではないが、惰性のように字面を追う。仕事柄、大抵の事件は把握しておく必要がある。若い『魔法使い』による魔法の暴走事故、死者2名、重傷6名。珍しく『人間』による通り魔事件、死者1名、重傷4名。一大奴隷取引組織が検挙されたが、奴隷にされていた民間人の社会復帰が絶望的だとか。全くもってロクな話がない。
文芸/ヒューマンドラマ 日間 18位 ありがとうございます!
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