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レコードによると Another Side  作者: 朝倉春彦
Chapter2 空想世界のエンターテイナー
37/63

1.夢の世界の姉妹 -5-

「…紀子?どうしてここに?というか、その恰好は?」


そう言ったレナは私の姿を見て驚きを隠さない。

随分と珍しい彼女の表情を見れたものだと、何処か他人事のように感じながら、私は彼女に一歩近づいた。


「忘れ物を返して貰いに来たの。持ってたりしない?私のレコードと手帳…」


私はそう言って2人を交互に見比べる。

レナは銃口をこちらに向けたまま、暫く口を開かなかった。


「ねぇ?レナ?…私のレコードが何処にあるか…知らないの?」


私はもう一度レナに問いかけると、彼女は小さく首を横に振った。


「多分…君は間違った答えを出したと思うな…君が平岸レナ?」


レナの反応の直後、蓮水さんが口を開く。

私は蓮水さんの方に顔を向けると、彼女はレナ達2人を見比べた。


「君が"平岸"レナ?そっちは妹の"永浦"レミで合ってる?」

「え…ええ」

「合ってますけど…どうしてお姉ちゃんと苗字が違うことを?」


蓮水さんの問いかけに戸惑う2人。

妹の方はポテンシャルキーパーだから…レナの本来の苗字である"永浦"を名乗っている。

彼女にとってはそれを当てられたことが少し驚きだったのだろうか?それとも…何か地雷でも踏むような事だったのだろうか?

ほんの少しだけ敵意を表に出した妹の方を見て、蓮水さんは苦笑いを浮かべながら両手を上げて私の横にやってくる。


「ホテルで浴衣姿少女に会っただろう?君達は随分と酷い閉じ込め方をしたようだが…」


そして、さっき私の身に起きていた事を話し出すと、急に2人は表情を消した。


「それがこの子なんだ。いや、言いたいことは分かる。彼女なら平岸レナのことは良く知ってるはずだから気づかないはずは無い。ちょっと訳ありだから…その誤解は解かせてほしい」


蓮水さんは気にせずに説明を続けて…最後は小さく頭を下げて見せる。

レナ達は頭が追い付かないのか、蓮水さんにつられて頭を下げた後で顔を見合わせた。


「いえ…その…色々と聞きたいことがありますが…その前に、貴女は?」


そして、レナが口を開く。

そう言えば彼女にとっては蓮水さんは初対面だった。

そんな人が知り合いを連れて現れ…行き成り蓮水さんが居なかった時のことを言って…誤解だなんて言って頭を下げるのも、状況を掴むことすらできないだろう。


「僕は時任蓮水…元パラレルキーパーでね。今はこうして世界を漂流している身なんだ」

「え!?」


蓮水さんが自己紹介して見せると、妹の方がレナによく似た驚き顔を見せてくれた。


「君はポテンシャルキーパーだからね。驚くのも無理は無いだろうが…兎に角落ち着いて聞いて。僕は君達をどうにかしようだなんて思っていない」


蓮水さんがそう言うにつれて、さっき消えかけた敵意が即座に戻ってきそうな妹さん。

レナがそっと手で制してくれたおかげでそれは収まったようだが…見る限りポテンシャルキーパーとして2周目の世界のレナと組む前から喧嘩っ早いのは間違いなさそうだ。


「端的に言えば、僕と彼女はレコードの管理人から"外れた"存在なんだ。僕達の持つレコードの色は抜け落ちて白くなり…僕達は何処かの世界を漂流する事しかできなくなった」


蓮水さんはそれを気にする気配もなく話を進める。

私は彼女の横で何時妹の方が爆発するのか少し冷や冷やしながらも黙って彼女の話を聞いていた。


「それは…何となく聞いたことがあります。そうなった人が居るって…芹沢さんから」


レナは妹を一歩後ろに置いたまま、冷静に話を進めてくれる。

2人ともポテンシャルキーパーだったとしたら、今頃私達はどうなっていたことだろう?


「ああ。彼は僕のことを良く知ってると思うよ…同期の部下だった。いい仕事をする男だ」

「そうなんですか…」

「そう…話を元に戻すと…ある日突然レコードの管理下から外れた僕達は、レコードを持ちながらも、レコードの管理をせずに…何処かの世界を訪れては去るのを繰り返してる。こうなった理由を探してるんだ」


蓮水さんは話をグイグイ進めていくと、私の横を通り過ぎて小屋の外に出て行って、煙草を一本取り出した。


「そんな漂流中にちょっとした事件に巻き込まれてしまってね。彼女とはぐれたんだけど…その間に何かがあったんだろう。さっきホテルで再会した時には記憶が無くて…見た目も少し変わってた」


取り出した煙草は咥えずに、蓮水さんは淡々と話を進めていく。

進む同時に、レナとレミの表情は少しずつ驚いた表情に変わっていった。


「さっき記憶を戻させた。まぁ…簡単に言えばそう言うこと。そしてその時に抜き取られたであろうレコードと手帳を返し伺ったわけさ。君達は優秀だと聞いてるから…どんな手でも消し去れなかった彼女を"処置"するのを諦めて…この世界諸共消すように"生きたまま"彼女を巻いてあの場に放置したんだろう。そしてレコードや手帳は永浦レミ経由で芹沢俊哲にとか考えてなかった?」


蓮水さんはそう言い切った後で、改めて2人の顔を交互に見比べる。

そして、確信めいたような表情を浮かべた。


「図星かな」

「はい……」


蓮水さんの確認にレナが小さな声で答えると、彼女は笑ってガッツポーズを取った。

随分と珍しい仕草もするものだと、私は呆然とした表情で蓮水さんの方を見る。


「それなら…話は早いはずだ。彼らは…ポテンシャルキーパーは既に僕のレコードと手帳を調べてる。何なら連絡だって付く間柄だからね。意味は無いんだ」

「え?」

「本当さ。俊哲に聞けばいい…まぁ、ここでは無理だろうけれど」


蓮水さんはそう言うと、手にしていた煙草を咥えて火を付けた。

私は少し驚いて蓮水さんの元へ行くと、肩を掴んでレナの方を見る。

レナの表情は煙草の煙を見て少し嫌そうな表情を浮かべていた。


「蓮水さん。レナ、煙草嫌いだから…」

「おっと…そうみたい。消すよ」


私が蓮水さんにそう言うと、蓮水さんは少し驚いて直ぐに煙草を消してくれる。

そして2人そろってレナの方へと顔を向けた。


「お姉ちゃん。どうする…?」


妹…レミの方もレナに決断を任せたようだ。

私と蓮水さんは何も言わずに決断を待っていた。


「んー…返しても良いかなって思ってきたんだけど、レミはどう思った?」

「お姉ちゃんが良いって言うなら…それで…」


レミはそう言うと、私のレコードと手帳を取り出して蓮水さんの方を見る。

反応から察するにレナが持っていないことは何となくわかっていた。


「ただ、一つだけ確かめたいことがあるんだけど」


妹は蓮水さんに渡す前に一つ尋ねてくる。


「何かな?」


蓮水さんは何時もの口調で彼女の質問を待った。


「貴方達は可能性世界に影響を及ぼさない?危険じゃないの?」

「ああ。元管理人…世界にどんな影響を及ぼすのかは分かってる。安心してよ。僕が居た可能性世界はちゃんと無事に終わりを迎えられるんだ」


蓮水さんはそう言って手を伸ばす。

少し時間を置いて、レミが彼女の手にレコードと手帳を渡してくれた。


「ありがとう。君ならそうしてくれると信じてた」

「信じてた?」

「そのうち分かるよ」


蓮水さんはそう言って笑って見せると、レコードと手帳を私に寄越す。

それからレナの方に顔を向けて、彼女を手招いた。


「?」


私はレナにだけの用事なのだろうか?と思って一歩後ろに下がると、蓮水さんは一瞬こちらに笑いかけて…それからレナに耳打ちをする。


「……」


何を言ったのかは分からなかったが、耳打ちをした後で直ぐに私の方を見たので、きっと私にも後で何か言われるのだろう。

蓮水さんは私の元までやってくると、2人の方へと振り返った。


「それじゃぁ、あと半日…無事に元の世界に戻れるように祈ってるよ。僕達は先にこの世界から消えるとするさ」

「あの…一体どうやって?」

「企業秘密。ま、付いてきても君達の目からは僕達が忽然と姿を消したようにしか見えないんだ」


蓮水さんはそう言うと、私の手を引いて歩き出す。

私は2人から離れていく直前、レナとレミの方へと振り返るが気の利いたことも何も言えず…結局、手だけを振って別れることになった。


 ・

 ・


「上手くいったね」


電話ボックスまで戻って来ると、蓮水さんはそう言って煙草を一本取り出すと、私にそれを寄越してくれた。

私はそれを受け取って咥えると、蓮水さんがジッポーで火を付けてくれる。

ふーっと煙を吐き出すと、私は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「助かりました。レミの方が大人しい子で」

「途中は大分焦ったけど。案外、あの子姉が居なくても力ずくの手に出ることが多いんじゃないかな」

「ポテンシャルキーパーとは言え前田さんの部下なのに?」

「千尋は人の上に立つのには向いてないから」


そう言った蓮水さんも煙草を取り出して咥えると、手にしていたジッポーで火を付ける。

電話ボックスに入る前に…私達は運ばなければならないものを車のトランクに積んでいた。


「さて…重いけれど運んでしまおう」

「…家で縛ってきて正解でしたね」


ハッチを開けて中を覗き込んだ私は少々疲れたような声で言った。

実家から持ち出したアルバムは…結局合計で32冊にもなったからだ。

それをビニール紐で縛ったは良いが…結局6束ずつ縛るのが私達の筋力の精一杯といった所。

電話ボックスまで幾つか往復しながらアルバムを運び終えただけで、少し腕が疲れてきた。


「こういう時には千尋とかが羨ましくなる。僕はあんなサイボーグみたいな人じゃないから」


運び終えた後。

電話ボックスに寄り掛かった蓮水さんがそう言うと、私は小さく笑って彼女の横に並んだ。


「世界を越えてもこれは持ち続けるんですよ?」

「大丈夫。次の世界は少し長居できるはずだから…そこで終わりにするよ」

「そうなんですか?もうポテンシャルキーパーからは終われていないんです?」

「まぁね。君もほぼ振り切ったじゃないか。それに、君の創った世界は殆ど崩壊させてしまったわけだし…彼らにとってはそこまで大きな障害でも無くなったんだろう」


蓮水さんはそう言ってから煙草の灰を落として煙を吐き出すと、再び煙草を咥えて表情を歪めた。


「で、彼らは自分たちの動きのおかげで世界を消せたと思ってるはずさ。裏で僕達が動いていたとしても、それは"邪魔だった"とか言ってね」


彼女はそう毒づくように言って口元をニヤつかせる。

私は久しぶりに見た少々黒い表情を浮かべる蓮水さんの横画をじっと見つめたまま…彼女の表情が素に戻るのを待った。


「……」


そして、彼女の表情が元に戻った時。

私は何気なくこれからの行き先を尋ねて、驚くことになる。


「それで…この先はどうするんです?」

「3軸の世界に行って、そこである場所に行こうと思ってる。アップルスターっていう喫茶店にね」


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