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レコードによると Another Side  作者: 朝倉春彦
Chapter2 空想世界のエンターテイナー
34/63

1.夢の世界の姉妹 -2-

目を開けると、僕は何処かの地べたに倒れているようだった。

ゴツゴツした地面にどれ程の間倒れていたのかは知らないが…兎に角全身が痛い。

頭を摩りながら起き上がると、僕の少し奥で倒れている蓮水さんが目に入った。


「蓮水さん!」


僕は慌てて彼女の元へと駆け寄って、彼女を揺する。

そうしている間に、さっきここで何があったかを段々と思い出してきた。


「ん…ああ…君か」


蓮水さんは目を開けて僕に気が付くと、少しだけ眠たそうな瞼を半分程開けて僕の顔を見つめる。


「蓮水さん。さっきの2人…」

「え…?…2人…?」

「撃たれたじゃないですか。覚えてないです?」

「あー…一杯食わされた所だったっけ。世界はまだ終わってない?」

「恐らく…どこか別の世界に飛ばされていなければ」

「ああ。飛んでない。行こう…彼女たちを探すんだ」


徐々に頭が覚醒してきた蓮水さんは起き上がると同時に行動を開始する。

レコードを取り出して、あっという間に幾つかの事を書き込んでレコードを仕舞う…その後で、煙草の箱を取り出して一本咥えた。


「君は?持ってたっけ?」

「いえ…今は何も」

「そう。なら一本」

「どうも…」


僕も一本貰うと、彼女が持っていたジッポーライターで火を付けてもらう。

ふーっと、煙を吐き出して一息つくと、少し遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。


「車は呼び出せるみたいだ。あの2人を追おう」


そう言った蓮水さんの後について行くと、建物の敷地を出たところに見えるショッピングモール?のような建物の駐車場に1台の車が止まっていた。

やけにクラシカルで…どこかで見覚えがあるような車。

鼻先の長い、2ドアのスポーツカーだ。


「見覚えは?」

「何処かで見たような…」

「君も乗ってたのに。まぁ良いや。追いつくまでに思い出させてあげる」


彼女はそう言って車ドアを開ける。

僕は助手席のドアを開けて中に入ると、室内をざっと見まわしてから蓮水さんの方を見た。


「思い出す前に…どうやって追いかけるんです?」

「彼女たちを追いかけてるのは僕達だけじゃない。追いかけてる誰かさんを探るんだ…丁度この辺りは、元の世界で言うところのレコードキーパー・平岸レナのテリトリー…顔なじみが2人を追ってるとみていいだろう」


僕の問いに、蓮水さんは少し得意げにこたえると、レコードを開いて僕に見せてくれる。

開かれたページには、知らない名前が幾つか並んでいて…彼らの現在地が刻々と移り変わっていく様が見えた。


「3軸のレコードキーパー達。日向の方に向かってる…何かあれば日向だろうと思ってたけど…彼ら、他に行く当てが無いのかな?」


蓮水さんはそう言って口元をニヤつかせると、レコードを僕に預けて車のギアを入れた。

サイドブレーキも降ろして、ゆっくりと車を発進させる。


「日向までなら、丁度いい時間。君には記憶を取り戻してもらうよ?」


道に出て、森の中を進むようになると、蓮水さんはそう言って僕に注射器を寄越してくる。

僕はそれを受け取ると、首を傾げて彼女の方を見た。


「自分に打って。少し微睡むと思うけど…それくらいが記憶を掘り起こすには丁度いいから」


僕は彼女の言葉を聞いたのち、自分の手首に注射器を突き立てる。

中身を全て取り込むと、直ぐに効果が出てきた。

頭がボーっとする訳でも無かったが…体全体が心地よい怠さを訴え…何とも言えない気持ちよさが体中を駆け巡る。


「効いたみたい。それじゃ、おさらいしようか…白川紀子さん?」


蓮水さんはシートにもたれかかった僕にそう告げる。

白川紀子…その名前を聞くと、頭の中の靄が少しだけ晴れた。


「君は元々3軸に居た人間なんだ。そこでレコード違反を犯してレコードキーパーになった」


彼女はトロンとした目を何処にも焦点を合わせずにいる僕に話し続ける。


「そこまでなら、普通の人間と言えたかもしれない。でも、君の場合は出生が特殊でね…第3軸の人間と可能性世界の人間を掛け合わせて出来たの。つまりは…レコード上絶対に存在し得ない人間」


「それが分かったのは何時かは知らないけれど、可能性世界の人間がそういう歪な存在に感づいて第3軸に存在するそう言った存在を手当たり次第に消し始めた…当然だけどね。そのおかげで3軸をベースにする可能性世界が次々と不具合を起こしてたから…」


「だけど、貴女は特殊で…一般人ならまだしも、レコードキーパーになっていた。今追ってる2人の内の1人…永浦レミが貴女を見つけて処置したはいいけれど、レコードを持っていたせいで存在は消えず…レコードキーパーから外されて…僕と同じようなレコードを持つだけの存在に変わったの」


蓮水さんは明かりの無い峠道を走らせながら、ゆっくりとした落ち着いた口調で説明してくれる。

彼女の言葉が耳から入ってくるたびに、次から次へと思い出せなかった記憶が晴れていくのが手を取るように感じられた。


「君はそうやって、レコードの範囲外へと出てきた…そしてもう一つ…君が異常値を持つ人間だったからかどうかは知らないけれど…君は世界を創り出せてしまう」


「空想の世界…存在しているとやがては可能性世界を…そして軸の世界を覆い包んでしまう世界を創れてしまう…僕と出会ってからはそういった世界を壊して回る事が当面の僕達の任務だった」


「そうでもしないと、ただでさえレコードから外れた僕達を危険に晒すだけだったから…ポテンシャルキーパーは良いとしても、パラレルキーパーは相手にしたくないからね」


蓮水さんはそう言い続けて、ふと僕の方に顔を向ける。

目を半分ほど開けて彼女の方に目を向けると…彼女はフッと小さく笑った。


「短く言えばこんな感じ…思い出した?」

「あー…あと少しで全部…」

「そこからは自分で思い出せる。さて…」

「?」

「君の一人称は何だっけ?」

「え?私ですけど」

「今追ってる2人は?」

「3軸のレナと…あれはポテンシャルキーパーのレミですか?」

「ほら、戻った。さっきの君はあの2人を見ても何も思い出さなかったのに」


蓮水さんは私の反応を見ると、少し安心したように溜息を一つ付く。

私は目を丸くして彼女の横顔を見つめていると、彼女はシフトレバーに置いた手を私の頬に当てて顔を前に向きなおさせた。


「さて…あと2つ。仕事道具は取り戻さないと」

「……どういう事なんです?戻ったって」

「さっきまでの記憶はある?」

「はい…ホテルで撃たれたんですよね?」

「その時の君は自分の事"僕"だなんて言ってたけど」

「え?嘘!」

「この世界に来る前のことは?」

「ちゃんと…私の創った世界を壊して回って…蓮水さんを探してました」

「…人格だけ、か」

「あの…一体私に何が起きてたんです?」


私がそう尋ねると、蓮水さんは短くなった煙草を灰皿に捨てた。


「レコードを持つ人間が偶になる病気みたいなものだよ」

「病気?」

「そう。人格分裂?と言えば良いのかな…人が変わったみたいになるの。君の場合、僕とはぐれることになった世界の最期のあたりから症状は出てた」

「ええ…」

「この症状、普通は君に起こりえないはずなんだけどね」

「どうしてです?」

「分裂先の人格は、同じ"ナンバー"を持つ者に限られるから…例えば、良く知ってる前田千尋を例にとってみよう。彼女と同じナンバーを持つのは僕だったり、この世界に居る中森琴だったりする…そうやって同じ番号を持つ人間の人格に一時的になってしまうの。無自覚なうちにね」

「記憶が無くなったのはそのせいですか…?」

「そう。自分の事が思い出せなくなるだけで…他はちゃんとしてるんだけどね。オマケに、管理番号が同じなら本質はそう変わらないから…自分にとっては記憶喪失になったかな?程度しか思えてないはず」


蓮水さんはそう言いながら私に渡したレコードを指さした。


「君の場合、存在してはいけない人間だったのだから、振られたナンバーも唯一無二のはずなんだけどね」

「つまり…何処かに同じ番号を持つ人が居ると?」

「ええ。この世界かどうかは分からないけれど…」


私はレコードを開いて、自分の情報を表示させる。

だが、管理番号になりそうなものは一切出てこなかった。


「でも、番号何て出てきませんよ…?」

「当然。僕だって出ないさ。もうレコードに無いんだから」

「そっか…」

「ま、そのことは後にするとして…日向に逃げた2人の動向を追いましょう?何か進展あるか調べられる?」


蓮水さんに言われた通り、私はレコードに出た自分の情報を消して、適当に調べ事を書いた。

確か…この付近のレコードキーパーを追えば良いんだっけ…?

蓮水さんが言うところの、人格が変わっていた頃の私の記憶を辿って、レコードに文字を書き込んでいく。


2人…レナとレミを追いかけるこの世界のレコードキーパー達…

ふと思えば、随分と奇妙な世界だ。


さっき遭遇したレナはレコードキーパー、レミはポテンシャルキーパーで…何故あの2人が組んでレコードキーパーから逃げているのだろう?

……確か、この世界って3軸をベースにした可能性世界だったっけ?

それなら…レミは居てもレナが居る理由が分からない…?分からない?いや、さっきの私は調べていたはずだ…ああ、思い出した。


「この世界ってレナの夢の中ですか?」

「そう。それを妹が感知して助けに来た。レコードキーパーの夢の中の世界っていうのは、滅多に無い事だから」

「通りで、レナがあれだけ慕ってた人から逃げてるわけだ」


私は書き込んだ文字を飲み込み、文章を返してきたレコードを見て呟く。


「まだ小樽みたいです。レコードキーパー2人が随分な勢いでレナを追いかけてます」

「追いかけてる?」

「はい…人目のない所を選ぶあたりは互いにレコードキーパーって所ですね。山の方の道です」

「ああ…大体何処か分かった…じゃぁ」

「あ!死んだ!」

「え?」

「2人…今追いかけてた2人が…道脇に落ちて死んだと…」

「詳細は出せる?」

「はい…」


私は速度を上げだした車の助手席で、少し苦労しながらもレコードに文字を走らせる。

そして出てきた文面を見て目を丸くした。


「カーチェイスをしてたみたいです。ここら辺からずっと…高速を辿って付いた先があの山道で…最後はレミが撃った弾が車に当たって…そのはずみで落ちた。と…」

「相変わらず派手な事をしたがる姉妹か…レコードキーパーの方は大人しい方だと思ってたんだけどね…その後、2人は?」

「そのまま真っ直ぐ進んでいったと…レナが良く言ってました。日向に行くときにメイン通りを通っていくと混むから、何時もこの道だって…」


蓮水さんは私の報告を聞いて、少し苦笑いを浮かべてそう言うと、直ぐに煙草を灰皿に置いて私の方に顔を向けた。


「予想通り。……それなら、時間もあるし、ちょっと寄り道しましょうか」

「寄り道…?」

「そう。ここは3軸の写しみたいな世界なのだから…丁度よかったでしょう?」


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