0.プロローグ
同時に4つ、シリーズ系統の小説を更新したので良ければそちらもどうぞ
これだけ一番更新していない期間が多いのに、何故か偶にアクセスがあるんですよね…
https://ncode.syosetu.com/s2011e/
さて、こういう状況になった時に僕は何をすればよいのだろう?
手足どころか体中を縛られて、何処か収納棚の中に押し込められた時に、何が出来るというのだろうか?
オマケに、この世界が後1日も経たない内に消えるのだとしたら…?
僕は頭の中に湧いて出てきた疑問を一通り並べると、身動きがとれぬ中で小さく笑った。
笑ったといえど、顔も粘着テープで縛られているから、少しだけ動いた程度に過ぎないが…
笑うほかないだろう…不用意に出てしまった僕が悪いのだから…
今の状況は幾つもの世界を壊しては別の世界に移動していた僕の油断に過ぎない。
油断した自分が悪い…それは、重々承知だ。
この世界のことは、何処かの世界で聞いていた。
軸の世界…僕が壊して回った可能性世界の"元"となる重要な世界だ…と。
つまり…この世界では僕は何もすべきではない…自分の足元が地面であって欲しいのなら、何も手を出さずに通り過ぎるだけの世界であるべきだ…と。
いざ来てみると"軸の世界"だったはずの世界はおかしかった。
出てすぐに分かる…"嗅覚"がこの世界のおかしさを伝えてくる。
即座にレコードを開いてみてみると、この世界はレコードキーパーが主となった夢の世界の中だった。
それだけを知って動き出した僕は、偶々近くに居たこの世界の主とその妹に見つかり…尋問され、拘束されて…こんな目に遭うに至っている。
…所詮、彼女達から見た僕はレコードの管理から外れたのけ者ということだ。
色々な世界を巡って、世界を壊して回るうちに自分の記憶は遠くに掠れていくのが手に取るように分かっていた。
自分が何者かが徐々に分からなくなる感覚…それを分かっていても、記憶は時間が経つにつれて僕から僕を掻き消していく。
世界を壊して回る行為も、最初は何か目的があってやっていたような気がする…
世界を壊して回る…レコードを持つ者であれば誰しもが目の敵にしてしまうであろう禁じられた行為…だが、僕にはそれをやらねばならない目的があったはずなのだ。
それを思い出すには記憶が必要なのだが…気が付けば過去の何を思い出そうにも、靄の中…深い霧の中に包まれたかの如く思い出せなかった。
記憶の中に残ったのは、僕を導いてくれた少女の存在だけ…
そんな彼女もどこかで離れ離れになってから、影も形も見えたためしがなかった。
私は世界を巡り巡って、漂流しては破壊して…彼女の影を追い求めて回っているというのに、手掛かりすら掴めない。
「……、……、……」
暗闇に包まれた中で、僕は今まで行き詰った時と同じように、これまでを振り返ろうと目を閉じた。
睡眠は人の記憶を整理してくれる…そう聞いたことがあったから、この靄がかかった頭の中を整理したくって目を閉じるのだ。
だが、僕という体は僕を中々眠りに落としてくれない。
せいぜい数時間…夢も見れない程度の時間しか眠れない。
僕は何度眠ろうとしても眠れず、目の前に迫った危機…世界の崩壊を誘って、それから別の世界へと漂流していくのだ。
今回だけはそうならない…
僕は眠れぬまま、動くことも出来ず…死んで蘇ることも出来ずに世界の崩壊に巻き込まれるのだと…今の状況が僕にそう言い続けているようだった。
「……、……、……!?」
「やっと見つけた………」
半ば諦めて、このまま世界の崩壊に巻き込まれてみるのも良いのかもしれないと思っていた僕の耳に、誰かの声が聞こえてくる。
そして、その直後…消音器付きの拳銃の銃声が僕の耳を震わせて、僕は一時的に意識を失った。
「……お目覚め?」
意識が戻って来た時。
僕は椅子に座らされていた。
周囲を見回すと、そこが先程まで尋問を受けていたホテルのレストランだという事にすぐ気づく。
違いは、目の前に居る人物だけだった。
「蓮水…さん?」
僕は未だに働きが鈍い頭を動かしながら言った。
目の前の…純白の髪と真っ赤な瞳を持つ浴衣姿の少女は小さく口元を笑わせると、小さく頷く。
「ごめんなさい。君の存在に気づいていたのだけれど…探すのに手間取っちゃって」
「いえ…大丈夫です…」
「感動の再会を楽しむ前に、この世界は少し事情が違うらしい…直ぐに別の世界に跳ぼうか」
「はい…いえ。その前に…2人…追いかけないといけない人がいます」
「どういう事?」
「持ち物を一つ残らず奪われたんです。多分、僕の存在が異質だったから」
「……そういう事」
蓮水さんはそう言うと、手にしていたレコードを開いてこの世界の情報を表示させる。
そして、驚いた顔を浮かべて見せると、そのまま僕の方を見た。
「どうかしました?」
「いや…もしかして…だけど、記憶…残ってない?」
「記憶…何時からのです?」
「僕と別れてからの…はぐれてからの記憶」
「ああ…それは…思い出せないんです」
「思い出せない…?」
蓮水さんは驚いた顔のまま、目を見開いて僕を見つめてくる。
それから、彼女は視線を外して、少し考える素振りを見せると、少し経ってから小さく頷いた。
「とりあえず…分かった。なんで僕のことを覚えてたかは?」
「分からないんです。何故か、ずっと蓮水さんだけは残ってました」
「僕がそこまで記憶に残るような人間だったとは…でも、その前に君の持ち物を返してもらおう」




