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レコードによると Another Side  作者: 朝倉春彦
Chapter1 空想世界のニューフェイス
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5.空想世界からの訪問者 -Last-

来週からは別の小説を投稿していきます。

"終末世界の片隅で"

世界観は全く同じです。

主人公はこれまでの登場人物の誰かです。

少しの間だけ目を閉じて、じっと待つこと数十秒。


僕はゆっくりと目を開ける。

周囲に見えたのは、外の光景ではなく、どこかの建物の中だった。


「なるほど……」


平成の世でよく見かけた電話ボックスの中から這い出た僕は、周囲の光景を見て納得する。

ここは日向にある僕達の家そのものだ。

そこの2階…僕と香苗の部屋だった場所。


窓の外は真夏のピーカン晴れの青空と、少し遠くに見えた山の緑色しか映していない。

部屋の中は、ここがどういった世界なのかは知らないが、僕の記憶にあるままだった。

学習机と箪笥とベッドが2人分置かれた真四角の広い部屋。


ぐっしょりと濡れた靴を脱ぎ捨てて、帯も浴衣も取っ払って床に捨てる。

下着姿になった僕は、浴衣から濡れた装備類を自分の机の上に置いて、濡れた浴衣と靴は部屋の隅に放り投げた。


「……全く」


僕は机の上に置いた品物の中から、完全にふやけてダメになった煙草の箱を3つ、ゴミ箱に捨てると、残った物はそのまま放置して、箪笥を開けた。


中身は見事なまでに、僕が知っていた当時のまま。

私服など、数えるほどしかもっていなかったせいで、真面な衣服がセーラー服の夏服しかない。


それを見た僕は小さく苦笑いを浮かべると、セーラー服と替えの下着とバスタオルを持って部屋を出た。

ずぶ濡れになって気分が悪いし、シャワーの一つや二つ浴びたところで、大した時間じゃない。


念には念を入れて、誰もいない家じゅうを回って鍵を掛けておく。

都会だと下着でそんな真似はしたくもないが、ここは田舎だ。誰も通らない。


鍵をかけまわってから、1階の端っこにある洗面所にタオルと着替え類を置いて、着ていた物は適当に脱ぎ捨てて、風呂場の扉を開けた。


本当に、雨に濡れた身体を洗い流すだけ。

それだけのつもりで風呂場に入った僕は、早速ガラスに映った自分の姿に絶句した。

鏡に映る自分の姿が、まるで自分じゃない。


背格好、顔、髪型…そこまでだった。

髪の色は真っ白に染まり切り、肌は病的なまでに白い。

僕はそんな豹変した自分を見て、ほんの少しだけ笑えて来た。


今更、私から僕に変わったところで分かり切っていたじゃないか。


そう思って、気にせずにシャワーの蛇口を捻る。

さっと身体を洗い流して、頭も身体も洗うのを程々に…


直ぐにやることを済ませて、風呂場から洗面所に出た。

ずぶ濡れだった身体を拭き上げて、着替えを身に着ける。


ひざ丈まであるスカートを履いて、半袖の夏服姿になる。

もうすっかり身体は乾いていたが、肩まで伸びる髪が中々乾かない。


だが、僕は気にせずに、タオルでわしゃわしゃと髪をかき回すと、手櫛で適当に梳かした後で、洗面器の周囲にあった髪留めで、邪魔な前髪を留めると、洗面所を後にする。


もう一度だけ自分の部屋に戻っていき、自分の荷物を纏めて行く。


拳銃2丁に予備弾倉が合計6つ。

拳銃は両腿にホルスターを括り付けて、予備弾倉はスカートのベルトに通した弾倉入れに挿し込んでいく。


レコードに、レコード持ちが持っているクレジットカード…それに身分証代わりにもなる"手帳”……

文庫本程度の大きさのレコードはスカートのポケットに…それ以外は、普段生徒手帳を入れていた胸ポケットに入れる。


全ての道具を揃えて、準備が整った僕は薄っすら笑みを浮かべて部屋を立ち去った。

ポケットのレコードを開き、そこに書かれた人の名前を見て小さく頷く。


レコードを仕舞って、急な階段を降りていく。

ゆっくりと、一段一段降りて行き…玄関の引き戸を開ける。

赤いスニーカーを履いて、玄関扉を開けた。


「……」


誰にも会わない。

誰もいない。


僕はポケットに手を突っ込んで、家の前の砂利道を歩き出した。

30秒も歩けば、町唯一のコンビニに行き当たる。

何も知らない素振りで中に入ると、すぐ真横にあったレジに向かった。


煙草の並ぶ陳列棚から、お目当ての青い色をしたパッケージの煙草を3つ掴み取ると、100円ライターと共にレジに置く。

店員は、セーラー服姿の小柄な少女が煙草を求めていることを意に介することもなく、渡されたクレジットカードを使って清算した。


難なく煙草を手に入れた僕は、出てすぐに1つ包装を解いて一本口に咥える。

火の付きづらい100円ライターに苦労しながらも、煙草に火を付けて、一吸いしてから煙を吐き出す。


コンビニを出てすぐ…目的地に向かう方向のすぐ先に、目を見開いてこちらを見つめる人間と目が合った。


僕はそれを意に介さず、自然体を装ったまま歩き出す。

ゆっくりと、ゆっくりと歩き出す。


「性に合わない事をしている」


コンビニ前の道路の交差点で、信号につかまった。

視界の奥にいる、僕をじっと見ていた人間は、直ぐにこちら側に駆け寄ってくる。

僕は、ゆっくりとポケットに両手を突っ込んだ。


「時任…蓮水じゃない……?君は……?」


駆け寄って来た影は、前田千尋だった。

その横にいるのは、元川由紀子という名の相棒。


「誰だろうね」


僕は、日の当たるこの時間、日向の中心部だということを意に介さずに両手に持った拳銃を抜き出す。


「!?」


呆気にとられる2人。

でも、もう遅い。


僕は躊躇なく、消音器のついていない拳銃の引き金を引いて、前田千尋をハチの巣にして見せた。


9mm口径の銃弾が彼女を貫いて絶命させ…蘇るころには僕の足で彼女を足払いできる距離になる。


「え…え?白川…紀子…?その恰好って…」


もう一人、反抗される心配もしていなかった人間…元川由紀子に目を映した僕は、邪魔にならないように麻酔銃の側を彼女に向けると、驚いて何が何だか分かっていない様子の彼女を撃ち抜いた。


銃を抜いて終わらせるまで数秒間。

その間に放たれた銃弾の数だけ、周囲の人間のレコードが破られる。


「この…君は…」


僕の足元に蠢く人間が息絶えになりながら言った。

僕の左足は、彼女の胸元を押し付けており、足掻く力が伝わって来た。


「白川…紀子です。記憶が正しければ、ね」


彼女を冷徹に見下ろしてから、ゆっくりと額に銃口を合わせて引き金を引く。


パァン!という乾いた音と共に、真っ赤な血がアスファルトに散っていき…直ぐに彼女の元に戻って行った。


そして、彼女は目をパッチリと開く。

その刹那、僕は右手に持った麻酔銃の引き金をゆっくりと絞った。


「これから壊れていく世界の船頭取りは頼みましたよ」


眠りに落ちた2人にそう声を掛けて歩き出す。

僕の周囲の人間は、既にレコードから外れてしまっていたが…銃を2丁持った人間に襲い掛かるつもりはないのか、誰も僕の目の前に現れてこなかった。


真っ直ぐ道を行く。

コンビニ前の道を真っ直ぐ…町の出口に向かって歩いていくと、やがて路肩の花壇は背の高い向日葵に覆われる。


子供の頃に見上げていた向日葵も、今では同じ目線に咲いていた。


田舎町の喧騒なんてものはなく、銃を放った中心地から少し来てみれば直ぐに閑静な空間になる。


僕はこの町の玄関口にあたる、ロータリーの付近まで歩いてきていた。


「さて……幾つ壊せば蓮水さんに出会える事やら……」


そう言って、ロータリーのある道の脇に立つ、一軒の酒屋に入っていく。

ここに来るまでに、すっかり短くなった1本目の煙草は、店の前に捨ててもみ消した。


「ごめんください……店主さんはお出ででしょうか?」


自動ドアでもない、引き戸の店の扉を開けて言う。

すると、奥から出てきた奥さんらしい女性が大声で奥の方に声を掛けてくれた。


「はい、なんでしょ」


そんなにタイムラグがなく、直ぐ奥から鉢巻を巻いた中年男性が出てくる。

僕はそれを見て、女性の方に一礼すると、男性の方に近づいていった。


「すいません、急に……」


そう言って近づいていった僕は、後ろ手に持っていた実弾入りの拳銃を素早く男の首元に突きつけると、容赦なく引き金を引いた。


「夢から醒めてもらわないと、僕が困るのでね……」


パァン!


家の中だから、銃声は良く響く。

真面に首筋に9㎜弾を食らった男は、後頭部から血を吹き出しながら倒れていく。

僕はにこやかな笑顔でそれを見送ると、何も言わずに外に出た。


外に出ると、既に15分を切った世界は大きく揺れていた。

僕は新しい煙草を一本口に咥えると、日差しを手で遮りながら、日陰を目指して駆けだした。


1世界30分。

このペースで壊していけば、遅かれ早かれ蓮水さんのいる世界に合流できる。


拳銃を仕舞い、町のロータリーから一本小路に入って港の方に折れる。

すると、直ぐに見えてくるのは大海原…ではない。

満天のひまわり畑だ。


僕は気にすることなくひまわり畑の中に入っていく。

脱出用の電話ボックスが何処にあるのか、何処からこの世界を出入りできるのか…

何となくだけど、蓮水さん達パラレルキーパーが作りそうな抜け道の置き場は想像が出来てきた。


ひまわり畑のど真ん中にたどり着く。

そこには、誰にも使われない小屋が立ててあった。

小さなころや、昭和の時代では、子供たちが集まって入っていき、秘密基地になったり、休憩小屋になる場所だ。


僕はその小屋の扉を躊躇なく開く。


そして、目当ての電話ボックスを見つけると、急いでその扉を開いて中に入った。


ポケットからレコードを取り出して、中に書いてある番号に電話を掛ける。


直ぐに電話のベルの音が電話ボックス中に鳴り響いた。


「……なるほど」


僕は誰も聞いていない中で口を開く。


「そういうこと…か」


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