sweet,bitter sweet
京子さんは少し緊張しました。
久々に降り立ったふるさとの駅には、立派なドーム型の屋根が付き、エスカレーター
が備えられ、ロータリーのところまで降りて来ると、以前とはまるで違う異国のような
町並みが広がっていたのです。
大きなショッピングモールが建ち、お洒落な街灯が並び、歩道はレンガ調に整えてあ
ります。お気に入りだった国道沿いに並ぶ映画の看板はすっかり無くなり、代わりにお
洒落なインポートものの洋服屋さんが並んでいました。
京子さんは国道から入ってくる車がすぐに見つけられるように、ロータリーの真ん中
に立てられた大きなクリスマスツリーの正面に立っていました。土曜日の午後とあって、
駅から出てきた人たちが何人か、側で同じように立っています。京子さんは寒さに足を
交互に動かしながら、きらきらと派手にデコレーションされたツリーを見上げました。
首筋に海から流れてくる冷たい潮風が吹き込みます。京子さんはぐっとコートの襟を高
くして顔を覆いました。
「お姉ちゃん」
携帯を取り出そうとバッグに手を入れたところで、京子さんを呼ぶ声がしました。静
香さんです。桃色のミニバンから顔を出して手を振っています。その顔は、以前よりず
っと太っていました。
「お帰り」
「ただいま」
京子さんが助手席に乗り込むと、姉妹はにっこり笑って挨拶を交わしました。暖房の
効いた車内にはベビーシートが取り付けてあります。何かのおまけで付いていたような
プラスチック製のおもちゃが後部座席に転がっていました。
「お姉ちゃんの帰ってくると待っとったぁ」
「そう?」
「うん、いっちょん帰ってきてくれんっちゃもん」
そう言って静香さんは車を走らせると、近況をべらべらと話し出しました。子どもの
ことや旦那さんのことや、幼稚園でのお付き合いのことです。それは京子さんの家族の
独特の話し方でした。とても早口で鋭く、登場人物が次々と変わり、ちょっとした会話
や台詞もそのまま再現するやり方です。初めは聞き手に回っていた京子さんも、いつの
間にかその懐かしい会話の歯車に引き込まれ、訛りの感覚が戻ってくると、緊張はすっ
かりとけてしまいました。
そうしてしばらく家の方へ走っていくと、記憶の奥にある変わらない道々が現れてき
ました。駅前こそ変わってしまっていましたが、たくさんお店の詰まったアーケード、
よく通ったレコード屋さん、米軍基地の側を通ると見える大きな川の壁画は、今もちゃ
んと健在でした。
変わっていないものを見ると、温かな感情が京子さんの胸に広がります。このところ、
少しも休まらなかった京子さんにふるさとの景色は、思いのほか大きな安堵を与えてく
れたのです。
京子さんにある辛い出来事が起こったのは、今から一ヶ月ほど前のことでした。
二年間、一緒に暮していた恋人の優也くんが突然いなくなったのです。
その日は今年初めての雪が降った寒い日で、京子さんはすき焼きの材料を買って帰っ
て来ていました。玄関を入ってすぐ、部屋がいつもと違うことに気がつきました。寒く
て冷たい空気が、冬のそれとはまるで違ったのです。真っ暗なリビングに浮き立つよう
にある真っ白な二人の本棚が隙間だらけになって、取り残された京子さんの本がぺたん
と段々に倒れていました。一緒に暮らすことになったその日、優也くんが買ってきたポ
トスの植木鉢も消えています。何が起きたのか全くわかりませんでした。
とりあえずキッチンに食材の入った袋を置きに行こうと振り返ったところに、ぽつん
と家の鍵が置かれていました。そこでやっと状況を理解した京子さんは、優也くんに電
話を掛けてみましたが、呼び出し音すら鳴ることはなかったのです。
優也くんは画家志望の学生で、京子さんより五つ年下でした。二人は、同じマンショ
ンのフロアに住んでいて、何度か顔を合わせるうちに、するりと恋に落ちました。歳こ
そ違っていましたが、二人は似た部分が多く、趣味も共通していました。京子さんが好
きな本は、優也くんも好きでした。優也くんが苦手な歌手は、京子さんも苦手でした。
どんなことにも共感できる二人でしたから、日々のほんの些細なこともすぐに報告し
たくなりました。会話はいつも尽きることなく、夜中まで話していたって物足りないほ
どでした。二人が二人でいることこそが自然で、空気にも味が付いていたら同じ味が好
きだったと思うほどでした。
ですから、付き合って半年ほどでお互いの部屋を引き払い、近くの広いマンションに
引っ越したのです。3LDKだったそのマンションを二人は、一つを寝室に、一つを京
子さんの仕事部屋に、そしてもう一つを優也くんのアトリエにしました。
優也くんのアトリエにしたその部屋は、ちょうど川に面していて、優也くんが作品に
取り掛かっていると、リビングにはいつも、油絵の具と透き通るような緑の匂いが立ち
込めました。
京子さんは、ふるさとを離れ都会に出てきて初めて手に入れたその静かな日々をとて
も愛おしく思っていました。優也くんとの深く優しく光る燦然とした絆は、永遠のよう
にさえ感じられていたのです。
しかし、終わりはやってきました。それも突然、思いがけなくやってきてしまったの
です。
一人になると、京子さんは夜がとても恐ろしくなりました。それは捕らえられたら最
後、二度と抜け出せないのではないかと思うほど、深く暗い口を開けて襲って来ます。
それまで、布団の中で飽きるほど二人で話していたことも、抱き合って眠っていたこと
も、全てが幻のように思えました。たまらず、外に飛び出して行って、二人でよく行っ
たお店やコンビニ、優也くんの学校にだって行ってみましたが、再び優也くんに会える
ことはありませんでした。
終わりも別れも、決して初めての経験ではなかったはずなのに、毎日を優しく温かく
包んでいたベールのような幸せが忽然と姿を消したことに、京子さんの心は深く傷つけ
られました。思い返してみても、優也くんが出て行く原因になるようなことは、京子さ
んにはひとつも浮かびませんでしたし、そんな素振りもなかったとしか思えませんでし
た。
何より、誰にもこの悲しい出来事を打ち明けることができないのは、ひどく辛いもの
でした。というのも、二人という満ち足りた世界にそれ以上のものは必要なく、共通の
友達を作ることも、ましてや五つも年下の優也くんの友達と京子さんが遊ぶようなこと
もなく、出会いから終わりまで、いつも二人だけがそこに存在していたからでした。
そうして二週間ばかり過ぎた頃、会社から帰ってくると電話が鳴りました。相手は、
静香さんでした。電話が鳴る度にどきっと反応していた京子さんは、少しがっかりした
気持ちでその電話を受けました。
「はい?」
「お姉ちゃん? 久しぶり。ねぇ、帰ってこん?」
静香さんはすっかりおばさんっぽくなった明るい声で言いました。
京子さんはその声を聞き、家族だけが持つ特別なテレパシーのような力を感じました。
めったにそんな風に誘ってこない静香さんからの電話が、すっかり弱っていた心と体に
とても良く響いたのです。
カレンダーはめくるのも忘れていましたが、もう12月になっていました。
京子さんは、帰ろうと素直に決めることが出来ました。年末の一番騒々しい時期を、
広くて寒々しいこの都会のマンションで過ごしたら、本当に立ち直ることが出来なくな
るかもしれないという危機感が急に募ったのです。
「じゃあ、帰ろうかな」
「ほんと!」
そう言うと、静香さんはとても喜びました。自分が帰るというだけで喜んでくれるよう
な存在がまだいたことが、京子さんには不思議でもあり、くすぐったくもあり、それま
でギスギスしていた心が少しだけ丸く暖まったような気がしました。
車は、いよいよ家までの急な坂道を登っていました。小さな保育園の側を通り過ぎる
と、瓦の屋根の小さな二階建ての家が見えてきます。
「着いたよ」
静香さんがサイドブレーキを引くと、玄関の引き戸を思い切り開ける音と同時に、小
さな女の子が飛び出して来ました。
「お母さんお帰りー! おばちゃんもお帰りー! 」
静香さんの娘さんのニコちゃんです。京子さんが大きくなったニコちゃんと会うのは
初めてでした。前回会ったときは、まだおしゃべりもままならなかったのです。そのあ
まりの大声に京子さんの体はびくんと一瞬跳ね上がりました。
「ただいまー」
静香さんがニコちゃんを抱き上げます。ニコちゃんは満足そうに笑顔を顔一杯に広げ
ました。
「大きくなったねー、ニコ」
「そうやろー? びっくりしたやろー?」
京子さんが近寄って頭を撫でると、ニコちゃんはさも得意気に胸をぐいっと張って見
せました。
「おかえりなさい」
振り返ると、お母さんと静香さんの旦那さんの亮介さんが立っていました。
「ただいま」
京子さんが笑顔でそう返すと、小さなお母さんが見上げた大きな瞳にはうっすらと涙
が浮かんでいました。
「もう、帰ってきたぐらいで泣かんでよ」
「嬉しかとよ」
お母さんは、そう言って掛けていたエプロンにこすりつけるようにして涙を拭きまし
た。京子さんは何とも言い難い熱い波が心に押し寄せてくるのを感じお母さんの手を握
ると、お母さんは恥ずかしそうに少し舌を出して笑いました。
その笑顔に、京子さんもつられて頬を緩めます。
家の中へと入っていくと、懐かしい匂いがふんわりと鼻をかすめました。畳の井草で
しょうか、庭の椿でしょうか、温かい日差しとかすかな緑と、お台所の何かを炊いてい
る匂いが混じったような、どこにもない、ここにしかない匂いです。
京子さんはまっすぐお座敷に向かいました。そして仏壇の前に座ると、もう一度ただ
いまと言いました。京子さんのお父さんは六年前に亡くなっています。癌でした。元来
お父さん子だった京子さんは、それからあまり家に寄り付かなくなっていたような気が
します。それでもこうして手を合わせていると、大好きなお父さんまで遠ざけていたこ
とを知り、京子さんは胸が痛くなりました。
お線香の煙が立ち始めると、隣の部屋にお母さんが料理を運んできました。お刺身、
煮しめ、混ぜご飯、どれも小さい頃によく食べていたものばかりです。静香さんたちも
やってきて五人で卓を囲み、いただきますと合掌すると一斉に食べ始めました。色とり
どりの皿の上をお箸が何度も行き交います。ニコちゃんも短い手を伸ばして、もりもり
ご飯を口に運びます。冬のお昼の優しい日差しが、静かに食卓へ差し込んでいました。
話題はニコちゃんが明日に控えたクリスマスのお遊戯の話が主でした。静香さんは、
お遊戯の衣装作りが面倒臭かったと愚痴をこぼします。するとすかさずニコちゃんが大
人さながらの突っ込みを入れます。それを諭すような口調で今度は亮介さんがボケてみ
せます。食卓にどっと笑いが起きます。京子さんは、お腹が痛くなるほど笑いました。
これほど賑やかな食事は本当に久しぶりでした。
今夜はよく眠れそう。
京子さんは思いました。久しぶりの長旅で体もちょうど疲れています。何より、あの
都会の小さな箱のような部屋にひとりぼっちではないのです。それがどれだけ今の京子
さんにとって心強いことか。
再び鼻の奥で思い出したように広がる熱い感情を飲み込むように、京子さんはお腹一
杯ご飯を食べました。
それから夜までは、ニコちゃんの遊び相手としてすっかり引っ張りまわされました。
小さな家の中で鬼ごっこにかくれんぼ、おままごとにお絵かきとめいっぱい遊びました。
最後に二人でお風呂に入って、寝る前に絵本を読んであげると、ニコちゃんはすんなり
眠りに付きました。その健やかな寝顔は、何者も寄せ付けない純粋さを放っていて、京
子さんには眩しくさえ思えました。
体と頭と心を少しも無駄にせずに、ただただその日の命を思い切り使って、電池が切
れたらすとんと寝る。小さい頃には当たり前のように出来ていたことなのに、大人にな
ってその姿をまざまざと見せられると、それはとてつもなくすごいことのように思えま
す。
ニコちゃんを寝かしつけて下へ降りてくると、床の間には京子さんのために布団が敷
かれ、ストーブが焚かれていました。
「もう寝る?」
静香さんにそう聞かれて、時計に目をやると11時をちょっと回った頃でした。お母
さんと亮介さんはもう布団に入ってしまったようです。
「もし寝んなら、面白いもんがあるんやけど」
「何?」
そう言うと静香さんはにやにやと笑いながら、奥の部屋から箱を取り出してきました。
「覚えてる?」
蓋を開けて、中を覗き込むとそこには何冊ものノートが入っていました。
「これって……」
「交換日記。ふたりでやってたやつ!」
「うそ〜、残ってたの?」
「この間、偶然出てきたっちゃん」
京子さんは一番上になっていた水玉模様のノートを手に取りました。表紙にはナン
バー4と書かれています。それは交換日記ブームの時、姉妹でも始めようと言ってやり
始めたものでした。友達同士のものは、あっという間に廃れてしまったのに反して、二
人の間では五年間ほどやり取りが続いたのです。
「なつかしい〜」
「でしょ? ま、眠たくなるまで読んでみ? 私も読んだけど、かなり恥ずかしい大作
になってるよ」
「え〜? うわ、何か嫌だな」
「でも、なかなかいいもんでもあるよ。今見ると」
「ほんと?」
「たぶん」
静香さんはそう言うと、口にあてていたパジャマの袖から少し笑い声を漏らしました。
「じゃあ、読んでみる」
「うん、そうしてみ。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
京子さんはそう言って静香さんに手を振ると、ふすまを閉めて抱えていた日記帳の箱
と共にどさっと布団へ座り込みました。
そして、そのまま寝転んで日記を初めから順番に読んでみることにしました。初めは
二人で交互に漫画を描き合っていたり、友達に何を言われたとか、あの歌がいいとか、
明日のアニメが楽しみだとかいう内容で、くだらなくて幼稚で、純粋なものでした。後
半に入って二人とも年頃になると、そこには青い青い恋の悩みがこれでもかと綴られて
いて、京子さんは一人でいるのに顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなって、途中何度も
声を上げて叫びたくなるほどでした。
すっかり夢中になってそうしていると、時刻は真夜中をとうに過ぎていました。京子
さんはまだ何だかそうしていたくて、コーヒーを淹れてもうちょっとこの日記を読み耽
ろうと、起き上がりました。すると一枚の紙切れが箱の底に残っていたのが目に入りま
した。拾い上げるとそれは、ノートの切れ端のようで、二つに折りたたまれてありまし
た。開くと何か書いてあります。少し目を通したところで、京子さんの深い記憶が蘇り、
鼓動が一気に加速度を上げました。
僕は今日、向日葵を見ました。
向日葵はそこにあるだけで、笑っているように見えます。
まるで君のようだと思いました。
あの向日葵が枯れる頃、僕らはきっと離れ離れ。
だけど、絶対忘れません。
君のことと、君の笑顔を。
だから、君も忘れないでいて下さい。
僕のことと、僕が好きな君の笑顔を。
未来は不安だらけで、
明日のことも分からない
だけど、どうかgood luck
僕はいつも願っています。
「ださっ」
京子さんはそう言って吹き出して笑いました。思わず足をばたばたさせると、全身を
熱い何かが走り抜けます。さっきよりも数万倍、顔が熱くなったような気がしました。
それはまだ京子さんが中学生の頃、仲の良かったある男の子がくれたものでした。そ
の男の子とは、付き合っていたわけではなかったけど、お互い好き同士であることは知
っていました。一緒に下校したり、夜に何度か電話を掛け合ったりしました。ただ二人
は志望校が別々で、そのことでひどく悩んでいました。今となれば、ほんのわずかな距
離なのですが、あの頃は学校が別々になるということが、まるで世界の果てと果てへ連
れて行かれることのように思えたのです。
これはそんな最中、夏期講習の帰り道に渡されて、でもどうしようもなくただ大事に
しまっておこうと決めたものでした。
京子さんは、ぱたぱたと手をうちわにして仰ぎそんなことを思い出しながら、熱の引
くのを待つと、もう一度それに目を向けました。
いくつかの言葉がさっきよりも、胸の隙間にまっすぐ飛んできます。
「グッド……ラック」
京子さんは、最後の方に書かれたその言葉を呟きました。すると、一粒の涙がぽろっ
と頬を落ちました。そしてそれは後から後から続きます。ぽろぽろぽろぽろ、落ちてい
きます。さっきまで笑っていたのに今度は涙が止まらなくなって、京子さんは自分がお
かしくなったのかと思いました。でもどうすることもできません。京子さんには止める
ことのできない涙だとすぐにわかりました。
なぜなら、頭の中で繰り返し繰り返し、優也くんのことばかりが蘇ってきていたから
です。
悲しかったこと悔しかったこと、驚いたこと寂しかったこと、何も出来なかったこと。
俯いていた顔をあげると、京子さんは、ぐっちゃりと濡れた顔をティッシュで拭き、
握り締めていたその手紙を元通りにきれいに折りたたみました。そして深い新呼吸をし
て、
「わたし、お別れが言いたかった」と力を込めて言い放ちました。
それは、まるでとても悪い毒を抜くかのような言い方でした。
「でも、もう言えない。優也くんはいないから。私たちは終わってしまったから。こん
な風に終わるなんて思ってもみなくてとても苦しかったけど、もういいの、もういいと
思う。私たちは大人になって出会ったから、乗り越え方も知っているし、乗り越えてい
けると思う。何も分からなくてただ明日を怯えていた頃とは違うから。だけど、やっぱ
りこのままじゃ、あまりにも宙ぶらりんでどうにもならない」
一気にまくし立てるようにそこまで言うと、京子さんはすっと立ち上がりました。
「優也くん、ばいばい」
そうして両手を広げて手を振ったのです。ストーブと橙の照明に照らされたその陰は、
ふすまに大きく揺れました。
「ばいばい! ばいばい! ばいばい! 優也くん!」
京子さんは何度もそう繰り返しました。大声を張り上げたわけではなかったけど、何
度もそう言うことで体中を縛っていた悪くて重くて辛いかたまりが、するするとほどけ
て無くなっていくのがわかりました。
やがて、心地よい疲労感に体が包まれ、京子さんはそのまま眠りに落ちていきました。
それはとても健やかで深い眠りでした。
翌朝目が覚めて台所に出て行くと、先に起きていたみんなが、京子さんの顔を見て一
斉に吹き出しました。慌てて鏡で確認すると目も顔もひどく腫れて、フランケンのよう
になっていました。
「お姉ちゃん、どうしたん? 昨日のアレのせい?」
「うん、そうみたい」
そう言うと、京子さんも自分の可笑しさがたまらなくなって笑い声を漏らしました。
「顔洗ってきなよ」
「うん」
「お姉ちゃん、何か落ちたよ……何? これ?」
「え?」
振り返ると、そこには一枚の葉っぱが落ちていました。
「これ……ポトスだ……」
私は、京子さんのことが大好きでした。あの寒い夜が来る少し前、私は、優也くんが
ある決心を固めていたことを知りました。優也くんは私たちも一緒に連れて行くからと
言ったんです。
だけど、私はどうしても京子さんのことが心配で、一人仲間を離れ残ったのでした。
おかげでポトスの葉として生まれてきた私には、大冒険になりました。だけど、やっぱ
り付いてきて良かった。大好きな京子さんの笑顔を最後に見届けることができました。
これからまた辛いこともあるでしょう。だけど、きっと大丈夫ですね。
本当にありがとう。
どうか、お元気で。
good luck!