主人公はまだ喋らない
技術の進歩で与えられた生きやすさや娯楽、それは人間を大きく包み込むかのように世界に蔓延した。
今の時代なんていうのは特にその進歩が凄まじいせいで昔を忘れたような感覚に陥る。
例えば、スマホがない時にどう過ごしたかなんて曖昧な記憶しか残ってないのと同じだ。テレビを垂れ流していたのだろうか?
記憶に尋ねてもはっきりとしたイメージが湧いてこない。
この記憶の忘却に、ある人は後ろを見ないテクノロジーに時間を盗まれたと嘆き、またある人は昔より鮮明で目新しい今に高揚感を焼き付けていた。
ヒューマノイドが普及したこの世界で
高校生である新原昇はまさに後者に値する人間だ。
普段は寮生活であるがこの時期は新学期が始まるまでの休校期間だったので実家へと帰省し家事もしないでゴロゴロ生活していた。
昔はバイトによって小金を稼ぐ最高のタイミングらしいがほとんどがヒューマノイドに代替されてしまったのだ。
昇は精密機械を1台の購入額より人件費の方が高くなるというのも恐ろしい時代だと感じブルリっと寒気を感じながらも上着を羽織った。実は今日久々の外出をするのだ。
玄関から射し込む眩しい光に少し圧倒されながらも扉を開いた