-10『抜け目ない商魂』
翌日、私はロロをつれて朝一番に商工会を訪れた。
絶対に提携を得られるように、何を言われても立ち退かずに食い下がってやるぞ、と意気込んで臨んだ二度目の面会だったが、
「……わかった。許可しよう」
商工会代表のジョシュアからの返事はいともあっさりしたものだった。
その拍子抜けぶりに、隣にいたロロの頬をつねってしまったくらいだ。痛い痛いと涙目を浮かべたロロを見て、聞き間違いではなかったのだと再確認する。いや、再確認にはなってないけれど。
私達にそう言ったジョシュアは、眉間にしわを寄せ、渋々と困った風な顔を浮かべていた。
「えっと……いいの?」
「ああ。いいと言っている」
悩ましげに眉間に手を当て、嘆息をつきながら彼はやはりそう答える。
どうしていきなり、と思っていると、私達のいた応接室に一人の老人が現れた。
ジュノスだ。
「うむ。商談事は無事に決まったようじゃの」
突然やって来た彼は満足そうにそう言い、口許をにこやかにゆるませていた。
事態の把握ができていない私とロロを余所に、ジョシュアが彼にまで嘆息を投げかける。
「先生。あまり無理を言われては困ります」
「無理じゃあなかろう。彼らのおかげであの行商人達は無事だったんじゃ。いましがた商工会との取引も無事におこなわれた。それに関してお主にも恩義はあろう?」
「それはそうですが……」
ジョシュアがかしこまったように身を小さくさせる。この前に会った時とは大違いだ。その物腰にはいっさいの強さが見受けられない。
「先生?」とロロが小首を傾げると、ジョシュアは頷いた。
「この方は商工会の前代表だ。私の先代にあたる人だよ」
「ええっ?!」
私とロロが二人して驚きの声を上げた。
ただの竜馬を育てている農家のおじいさん、くらいにしか思ってなかった。まさかそれほどの影響力を持っていたとは。
「先生から打診があったんだ。キミ達をぜひともよろしく、と」
「そうじゃ」
いえい、とジュノスが茶目っ気を見せてピースしてくる。
「そ、それは予想外だったわ……」
「うん、そうだね」
まさかそんな方向から上手く話が進むなんて。
「ありがたい話だけど、いいのかしら。前代表がそんな公私混同のような意見を口だして」
「なに、問題はありはせん。わしは決して混同などしておらんよ。昨晩も多くの行商人を宿に泊め、満足させて帰らせておった。この町の店として、歩幅を同じくして歩む仲間である要素は十分じゃと判断したのじゃよ。そして、簡単には我々を裏切らんという心の強さも、な」
しわ垂れて細まったジュノスの瞳がかっと見開く。年老いながらもその眼光の鋭さには力があった。
しかしそれもすぐにふっと柔らかく垂れ下がり、元の優しそうなおじいちゃんに戻る。
「ほっほっほっ。それになにより、あの行商人やここの連中にも、わしの子らの有用性がよく伝わったことじゃろう。恩も売れたな。それに竜馬の具合も調べられた。繊細な荷物の運搬には向かぬかもしれんが、人の輸送には使えそうじゃな」
「まさか私達で竜馬を試したんじゃないでしょうね」
「さあ、どうじゃろうか。じゃが、お主らも竜馬のおかげで色々助かったじゃろう?」
愛馬の宣伝と善意ばかりで動いていたかと思えば、どこまでも抜け目のない商売人だ。生粋の性分なのだろう。けれどそれで助かったのも事実だし、まんまと情を売られたわけだ。
商売は強情と恩情。
なるほど、自分の思惑を貫き通した人間こそ強いというわけだ。
となると、私があの状況で竜馬を使わせてほしいと頼むことすら算段の内だったのかもしれない。でなければ、どうせ彼は行商人に恩を売るために真っ先に独断で竜馬を走らせていただろうから。
「ただ者じゃなかったわけね、このおじいさん」
「ぬっはっはっ」
心地よく高笑いするジュノスを前に、私はむしろ清々しいまでの商魂を感じていた。




