第5話 特訓だぜ!妹よ!
すみません。2ヶ月以上経っちゃいました。
今後は1ヶ月以内には投稿するようにします。
申し訳ありません。
「オワッ!...いってぇ」
魔法師団養成学院への入学試験を受けることが決まり、昼は訓練で体術はアンナさん、魔法はジークさん担当。夜はアンナさんの家で(豪邸だった)ペーパーテストの勉強。そのまま寝泊まり。と言う特訓生活を続けていた。
で、今日も朝からアンナさんに剣術の指導を受けている。ちなみにジークさんは広場の端でボロッボロにやられる俺を見てニヤニヤしてる。腹立つなあの人。
「ほら、こんなことで剣を落とすな!軽いコテだぞ!少しは我慢しろ!」
アンナさんの指導は厳しく、本人は軽いと言っているが実際はかなり重く、普通に斬撃を受けたような痛みだ。冗談抜きで痛てぇ。
「そう言われましても...アンナさんそれホントに軽きですか?手の甲砕けるかと思いましたよ?」
「軽きだ。そもそも私はまだ1度も強く打ち込んではいないぞ?君は男の子なのだから少しは耐えろ。」
うん。無理すんごい痛い。
「いてててて...あぁもう赤く腫れ上がってるよ...」
「弱音を吐くな!さっさと剣をとれ!妹の誠奈はもう上級魔法と言われる第7位階魔法まで使えるのだぞ!」
(んなこと言われても...)
魔法師団養成学院への受験が決まった日から数日後、誠奈が目を覚ました。
目覚めたあとの誠奈は受験することなどを聞いたあと早速訓練をすると言いジークさんの指導の下、まずは魔法を撃ってみることになり、いざ誠奈が魔法を撃つと...これがなんと初級魔法の中では最高の第3位階魔法を撃って見せたのだ。
魔法には初級、中級、上級とありそれぞれ下から1〜3位階が初級。4〜6位階魔法が中級。7〜9位階魔法が上級魔法と言われる。
魔法を学び始めた者が第3位階魔法を撃つなと不可能らしい。
(それが初っ端から出来る誠奈さすが!いいぞいいぞもっとやれー我が妹よ!)
とか思ってたけど俺は未だに第3位階魔法止まり、誠奈は既に第7位階魔法。なんなのこの差。
魔法はあまり伸びないと見たジークさんは俺をアンナさん指導に丸投げし、今こうしてアンナさんに指導を受けているということだ。
アンナさんの訓練はジークさんが言っていた通り鬼レベル。これじゃあ骨がいくつあっても足りないんじゃねーの?
手の痛みを我慢して、落っことした木刀を手にヨロヨロと立ち上がる。
「よし!その意気だ!ではもう一本行くぞ!」
アンナさんは右足を踏み込み、その地面の1部が砕けるほど強く蹴り俺に正面から突っ込んでくる。
「っはぁ!」
「っく!」
アンナさんの突きを木刀で弾いて逸らし、懐に入ってから剣の持ち手の先で刺突する。
「んっ!」
「ふっ!」
それをアンナさんは背面反りで躱しバック転を切って距離をとる。
「チッ...当たらねーか」
「今のはなかなかいい反応速度だったぞ。私の突きを弾き、そこから私の突進の勢いを利用したカウンターの刺突はなかなか鋭かった。」
とか言いながら...アンナさんの身体能力の方がずば抜けている。あのカウンターを躱すなんて普通はできん。俺ならモロに食らっている。
「次は俺から行きます。」
右手に持つ木刀を頭の高さまであげて後に引く、右足も後に引き、左手は前に出し左足も前に、木刀の先をアンナさんに向けて腰を落とす。
「......」
「......」
互いに睨み合い沈黙が流れる。
俺は、風が吹くのを待つ、一際大きい一陣の風を。
......ヒュッ
今だ!
一気に駆け出しアンナさんの喉笛目掛けて突きを放つ。
「くっ」
アンナさんはさっきの風で目を一瞬瞑っている。一瞬だ。
だが、その一瞬でいい。一瞬でケリをつける。
「ッラァ!」
俺の剣とアンナさんの距離は一気に縮み、残り3cm...2cm...1cm...
もらった...!
「っ!」
「な!?」
あと数ミリのところでアンナさんは目を見開き。
ガギィンンッ!と鈍い音が出て俺の剣は右腕ごと上に弾かれ体制を崩してしまう。
なんて威力だ...かなりの斬撃で手から腕にまで振動が伝わるぞ。
「はぁぁぁぁぁぁあああ!!」
アンナさんは体制を崩した俺めがけて軽い突きを連打で放ってくる。
1秒で13回も突かれた俺は木刀の模擬戦だと言うのに喀血する。
「ゴハッ」
喀血しながらも右への薙ぎ払いを出すが所詮苦し紛れの斬撃。
アンナさんはそれを左に回転して躱し。回転した際に左足で回し蹴りのハイキックをかましてくる。
「くっ...アガっ」
それをモロに食らった俺は真横に5mほど飛ばされ石造りの壁に激突し顔面からぶっ倒れる。
「マコトくん、君は剣の間合いをうまく利用できていない。さっきの突進もかなり早かった。あの時槍を持っていたら私は討たれていただろう。」
確かに俺は槍が十八番だ。
でも女に負けるって言うのはなかなか精神的にきついな。
「さすがヴァルキリー騎士団副団長ですね。無駄な動きがない。」
「お世辞はいいよ、さてそろそろ互いに自分の得物を使おうか?」
アンナさんの提案に俺はちらりと横の石壁に立てかけている先日貰ったグリード産の名槍を見やる。
「そうですね。俺もそろそろコイツでやりたかったところですし。」
槍を取りながら話し、剣舞ならぬ槍舞で軽く腕に慣らす。
「君は槍が得意と言っていたな。その実力この目で確かめさせてもらうぞ。」
俺は先の剣の構えと同様足を開き、腰を落として槍の矛先をアンナさんに向ける。
「...槍なら負ける気しません。」
「ほう?随分と大口を叩くな。だがいいのか?それは模擬戦用のただの棒ではない。人の命を奪う『刃』があるのだぞ?」
「少しは緊張感がないと訓練になりませんよ。アンナさんも真剣出してください。」
俺の言葉を聞いたアンナさんは数秒考えるような顔をし、頷いた。
「いいだろう。確かに君の言い分も一理ある。」
アンナさんも自分の得物を出す。―ー真剣だ。
アンナさんも構えを取り俺を見据える。
俺は1度大きく深呼吸しアンナさんを見据え返す。
集中だ。集中しろ。
「......」
「......」
敵。アンナさんの瞳をじっと見つめる。
敵の心拍数、呼吸を互いに読み取る。
―まだだ...
―まだ...
......今!
ダッ!っとお互い同時に飛び出し俺は槍のリーチの長さを利用し、アンナさんの攻撃圏外から突きを放つ。
「フッ!」
「ンッ!」
アンナさんの心臓を狙った俺の刺突は簡単に交わされ、アンナさんの左脇と左腕のあいだをすり抜ける。
すり抜けた槍を掴んだアンナさんはそれを遠心力で振り回し、奪い取ろうとするがアンナさんも女。力じゃ男の俺には叶わない。
「チッ!」
アンナさんは短く舌打ちし、槍を掴むのをやめてバックステップで距離をとる。
だがギリギリ俺の槍の攻撃圏内だ。罠か?
まぁいい。罠だろうがなんだろうが...
「ぶっ潰すっ!」
アンナさんめがけて右への薙ぎ払いを出す。
アンナさんはそれをしゃがんで躱して俺に急接近してくる。
まずい。近すぎて槍が振るえない。
「!...くっ」
ガッ
「!?」
アンナさんから距離を取ろうと後に下がると小さい小石に足がかかってバランスを崩す。
(チッ!...これが狙いか!)
接近してきたアンナさんはそのまま俺の胴体をぶった斬ろうとするが、なんとか顔面めがけて右足の膝蹴りをかます。
だがそれを身をよじるように躱したアンナさんはよじって仰向けになった体制から地面を蹴り、オーバーヘッドキックで俺の顔面を襲う。
「がっ」
鼻っ柱に喰らった俺はふらつき、何歩が下がる。
アンナさんは蹴りを放ったあとバック転で体制を整える。
「らァ!」
右に回転して薙ぎ払いを仕掛ける。
が、アンナさんはそれを剣を用いてガードする。
「んっ!......はぁ!」
ガードしたアンナさんは右に回転し、薙ぎ払いを仕掛けてくる。
首を狙ってきた剣をしゃがんで躱す。
が、もう1回回転し、一撃目より遠心力を使ってスピードが上がった薙ぎ払いがしゃがんだ俺の首を襲う。
「おっ!?」
まさか2回連続で同じ攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった俺は一瞬反応が遅れた。
戦闘の集中力でハイパースローに見える視界の中、アンナさんの剣をが徐々に近ずいてくる。
まずいぞ...どーする!?
左に飛ぶか?
ダメだ。これは薙ぎ払い、左じゃ攻撃圏内から出られない。
なら右か?
馬鹿か、剣に迫ってどうする。
下か?
これもダメ。今は既にしゃがんでいる。
なら上か?
これもダメだ。飛んで躱したとしても交わした先は空中、身動きが取れず、そこを狙われる。
詰んだ...
負ける...
このまま...
この俺が?...
いや...諦めるな...
「ッ!...」
1つ思いついた。だがこれはやっと事がねぇ...
成功確率は五分五分。
俺に出来るか?...
.........何悩んでんだ?
やりゃなきゃ負けなんだぞ?
だったら...
「...やってやる!」
俺は矛先を地面に突きつけ、棒高跳びのように飛び上がる。
「っ!?」
アンナさんが驚愕に目を見開き、本来俺を真っ二つにするはずだった剣は俺の槍に当たる。
俺は剣がぶつかった衝撃を利用して槍を抜き、真上からアンナさんの脳天めがけて振り下ろす。
「くっ!」
アンナさんは手を剣に添えて両腕でガードするが空中故の俺の全体重+筋力の衝撃で耐えることができず、槍を剣に滑らせながら受け流し、バックステップで下がる。
が、下がったところで俺の槍の攻撃圏内からは出られない。行ける!
シュバッ!と突きを放ち喉元で寸止めする。
「.........」
「.........」
二人の間に沈黙が流れ、木々が風で靡き、擦れ合う音が響き渡る。
先にこの沈黙を破ったのはアンナさんだった。
「...はぁ...私の負けだ」
カラン...と剣を落とし両手をあげて降参を示す。
「んー、どうやら勝負あったみたいだね」
気楽な声と共に俺たちの模擬戦を眺めていたジークさんが出てくる。
「まさか勝っちゃうだなんて思ってもみなかったよ。」
「お世辞はいいですよ、ジークさん。それより誠奈はどうしてるんですか?」
アンナさんから受け取ったタオルで汗を拭きながら聞く。
「誠奈ちゃんは射撃場で練習してるよ。」
「何!?貴様どう言うつもりだ!監督役の貴様が目を離してどうする!ただでさえ誠奈は火力が凄いんだ!もしやりすぎて強力な魔法を撃ってしまったらと考えなかったのか!」
ジークさんの発言にアンナさんが怒鳴る。まぁたしかに一理ある。
「だ、大丈夫だよ。射撃場は僕の魔法で強化しといたからちょっとやそっとの威力じゃ何とも「ドガァァンッッ!」......ないはずだったんだけどなぁー。」
音の方角を見ると黒煙が上っている。あそこは確か射撃場があったところだ。まさか...
「ほら見ろ!言わんこっちゃない!早く行くぞ!」
(やっぱり誠奈の仕業だよねー。あいつ何したんだろ)
3人急いで射撃場へ向かうとそこは瓦礫の山どころか本来あったはずの射撃場が消し飛んでいた。地面が抉れてクレーターが出来ている。おい何したんだ。あとはポカーンと口を開けたままつっ立っている誠奈。なにやってんの。
「何があった誠奈!これはどういうことだ!」
アンナさんが怒鳴りながらいうと...
「え、ええと、ジークさんが言っていた魔法を使ってみたらこんなことに...」
あわあわと口をパクパクしながら答える誠奈。おいジークさん。あんたうちの妹に何吹き込んだ?
「おいジーク!何を言ったんだ!答えろ!」
アンナさんに両手で胸倉を捕まれ頭をシェイクされるジークさんは...
「ちょっと上級魔法の事を話してみたんだ。」
「上級の何を!」
「...ヴォルケイノを...」
ヴォルケイノ?なんだそれ?
一方アンナさんはと言うと...
「上級魔法でも最高クラスじゃないかー!!第9位階魔法だぞ!馬鹿なのか貴様は!」
ま、マジか...遂に誠奈のやつ人類が使える最高位までやってのけやがったぞ。
「だって教えた事スポンジみたいに修得するからどれほど成長するか知りたかったんだもん」
先程より激しくなったシェイクをされながら答えるジークさん。気持ち悪くならないのかな?
「何が「だもん」だ!!」
あ、また激しくなった。
そんなこんなで特訓の日々が続き、遂に試験当日の早朝。
俺は忘れ物がないかチェックをしていた。
「忘れ物はないか?槍は持ったか?受験票は?」
「双剣は持ったかい?誠奈ちゃん。」
玄関ではアンナさんとジークさんが見送りに来てくれていた。
「はい。ちゃんとあります。」
「頑張ります!」
「会場では気をつけるのだぞ?少し出来るからと言って調子に乗っている荒くれ者なども居るからな?」
「はい。ご忠告ありがとうございます。気をつけます。」
「じゃあ頑張ってね、帰りは僕が馬車で迎えにいくから」
「はい。よろしくお願いします。」
玄関を出て門の前に停まっている馬車(これもまた豪華)に乗り込み、行き先を告げる。
「あ、待って、...貴方に神のご加護があらんことを...」
アンナさんは自分の胸の前で十字を切りながら言った。呪文?あ、お祈りか。
(意外と優しいとこあるじゃん。アンナさん。)
「それとこれも...」
ジークさんが近ずいて誠奈に首飾りをかけてくれている。
銀色の翼の首飾りだ。
「合格祈願だよ。誠君にも...」
「あ、ありがとうござい「3人組の襲撃者に気をつけておいて。」...え?」
ジークさんが首飾りをかけてくれる際、俺にしか聞こえないように小声で言ってきた。襲撃者?どういうことだ?
「さぁ、行ってきな、他の連中なんて蹴散らしてやれ!」
そんなこと無かったかのように振る舞うジークさん。どういうことなのだろう。一応、忠告通り気をつけておこう。
「はい。行ってきます。」
ジークさんに合わせて何も無かったかのように振る舞う。他の2人に気づかれないように。
「頑張ってきます!」
馬車が走り出す。2人がどんどん小さくなっていく中、横の誠奈が問いかけてくる。
「受験、大丈夫かな?お兄ちゃん」
と言うと誠奈は少し心配なようだ。ここは兄として頼れる兄のような振る舞いを...
「大丈夫さ、なんせあの2人に鍛えられたんだ。きっと大丈夫さ。」
俺の言葉に俯いていた誠奈は顔を上げ...
「そ、そうだよね!きっと大丈夫だよね!」
と、これまた向日葵かと思うほどの笑顔。
(くぅーー我が妹ながら可愛すぎる!)
「ああ、大丈夫さ。」
「...大丈夫かな、2人とも...」
先程誠君達を見送り、屋敷に戻ろうとするとアンナのそんな呟きが聞こえてきた。
「大丈夫さ、なんせ君が鍛えたんだろ?なら大丈夫さ。」
「............」
アンナは誠君達が乗った馬車が見えなくなってもずっと馬車が消えた方を心配そうに見つめている。
「...アンナってさ、案外優しいとこあるよね。」
「はッ!?ど、どどどうして?」
アンナは僕の言葉に赤面して答える。こーゆーとこは可愛いんだけどなぁ。普段の凛々しい姿もいいけど。
「だって訓練では厳しかったけど、さっきの玄関でだって忘れ物がないか入念に聞いてたし、馬車でもお祈りしてたじゃん。」
「そ、それは...」
俯いて言い返せない様子。だって全部事実だもんね。
「まぁ心配しなくても大丈夫だと思うよ、なんか...そんな気がするんだ。」
「......だと、いいな...」
さて、いい報告を待っているよ誠君。誠奈ちゃん。
「さ、屋敷に戻ろう?」
「...そうだな。」
まぁでも僕は別の第三者の事が気になる。
誠君達が馬車に乗る時に気づいたけど、向かいの家の屋根の上から3人組が覗き見していた。
気配を消す魔法を使っててアンナも気づいてない様子だったけど...僕だって一応魔法師団長だ、その程度の魔法くらい無いに等しい。
どうやらアンナを狙っているようだけど、アンナは強い。それに今日は僕も付いてる。直接僕らに攻撃はしてこないだろう。もしかすると誠君達が狙われるかもしれない。今の僕達の会話も聴覚を強化する魔法を使えば聞こえたはずだ。行き先はバレていると考えていいだろう。
あの二人を襲ってアンナを引き釣り出そうとしているのかも...
一応誠君には忠告しておいた。誠奈ちゃんには教えたって怖がらせるだけだろうしアンナはただ心配にさせるだけだから誠君だけに。
3人組は魔力がそんなに多くなかったから魔法はそこまで強くないだろう。誠奈ちゃんで十分だ。体術は誠君で相手できるだろう。
(やられることはないだろうけど...頑張ってね。誠君。誠奈ちゃん。)
「さ、早く戻ろう。ちょっと肌寒いよ。」
「まぁ待て待てそう急かすな。暖炉をつけてやろう。」
早朝のため肌寒い風が吹く中、アンナとともに屋敷へと戻るのであった。
(ファイトだよ。誠君。誠奈ちゃん。)
んんー、何故だ。ほんとに何故だ。まだ入試まで行かないだと?