静かなる闇
なんとなく週一で落ち着きそうです。
アクセス、ありがとうございます。
...なぜ夜中に書くのかなぁ...?
「とうちゃーく!」
僕達はクロマの町にたどり着いた。
皆が度重なる野宿で疲労している中、異常に力が漲っていた。
この前再構成した足腰は、以前のものよりも強靭になったらしい。
「な...なんなのよ、その力は何処からでるの?」
カチュはへとへとになっている。
ほかの仲間よりも体力がないせいか、杖に支えられているような姿勢になっている。
「それに、あの町で武器を作ったのはいいものの、長剣3本って、全部同じ形じゃない!おかげで不慣れな武器を使う羽目に...」
「まぁまぁ、これも経験だと思って...ひとつの武器に絞っていては、いつまでも強くなれないと思うけどね、リーダー」
と、マスカルがまだ文句をいいたげなカチュを制止した。
「とにかく、クロマに入ろうよー」
カーラも疲労しているみたいだ。
「今回はカチュの家におじゃまするから宿代が浮いて助かるよ」
「ええ、1度決めたことですもの、しっかりとおもてなしさせていただくわ」
僕達はやっと人工物に泊まれることに歓喜した。
「...ねぇねぇ」
「...なに?」
カーラがこそこそと耳のそばで話してきた。
「なんかさ、視線感じない?」
確かに、町の人から妙に視線を感じる。
この短剣が珍しいから?
いや、視線は短剣の方に向いていない気がする。
僕を見ているような...
「...とにかく、カチュの家にいこうか。なんだか嫌な視線だ...」
僕達は視線が刺さる中、急いでカチュの家に向かった...
「だめよ」
カチュの母親ははっきりと言った。
「マ...お母さん!どうして!?」
「その男からは闇を感じるわ。そんな奴を家に入れる、ましてや止めるなんて言語道断よ」
「そんな...」
カチュは落胆した。
「...わかりました、今すぐに町を出ます」
「...え?」
「出るのは僕だけでいい。君達はここに泊まれると思う」
「ラク...」
「大丈夫大丈夫、僕は頑丈だからさ、辛くないって」
僕はそういって、カチュの家を去ろうとした。
「ちょっとまってよ!」
カーラが引き止めた。
「ラクだけ外で寝て、私たちは家に泊まるなんてできないよ!ラクがでていくなら、私もついてく!」
カーラは僕についていくと決めたらしい。
「私も同意見だ、リーダーが外で寝るなんて、仲間として恥ずかしいね」
マスカルも付いてきてくれるみたいだ。
「母さんがこんなにひどい人だとは思わなかったわ!私もラクについていくわよ!」
「カチュ!これはそんな単純な話じゃないわよ!この男についていったら、確実に死ぬわよ!」
「それでも構わないわママ!私の事は私が決めるの!」
「...後悔するわよ、絶対に」
カチュも付いてきて、結局皆で町のそばで野宿するという不思議な光景ができた。
「それにしても、カチュがママって...ふふふ、見かけによらないね」
「べ、別にいいじゃない...!」
カチュは手をぶんぶん振った。
「カチュ、なんかあった時よりもすこし柔らかくなったね」
カーラが言った。
「...そう?あまり実感はないけど...」
そんな話をして、時間はどんどん過ぎていった...
ふと思い出した。
「ねぇ、僕から邪気を感じるっていってたけどさ」
「あぁ、私の母さんが?」
「もう母さんって言わなくてもいいのに」
「うう...!それで!それがどうかしたの!?」
カチュはやはり恥ずかしいのか、すこし口調が強くなった。
「いや、君も僕の邪気を感じるのかなって思ってさ。もしかしたら、僕の事があんまり好ましくないから、嘘言ったのかも」
「...ママは嘘をつかないわよ。ママは町の中でもかなり優秀な魔法使いなんだから」
とすると、僕の中にはなにか闇の力があるに違いない。
だが、闇の力...?なぜ?今まで感じた事はないのに...
「...実際、私も感じるわよ、貴方から黒い何かを」
「黒い何か...」
僕は考えた。
もしかすると、この前再構成した体に関係するのでは...?
「ねぇカチュ」
「何?」
僕はカチュに質問した。
「魔法の使い方を教えてくれないかな」
「具体的には、力を出すというより、自然に体から出ていく感じね、呼吸と似てるわ」
「呼吸...」
僕は体の中にある闇をイメージした。
すると、いともあっさりと魔法を出すことができた。
ただしそれは、教えてくれた火の魔法なんかじゃない。
矢印の形をしたドス黒い何かを発するものだった。
「えっ...?」
そばにいた仲間達は皆唖然とした。
矢印は手のひらでクルクルと回り、再び体の中に消えた。
「...今のは...?」
仲間たちから感じる明らかな恐怖。
「なんだこれ...?」
自分自身なにがなんだか分かっていなかった。
ただ一つ確信したことがある。
自分は決して白の中にはいない。
黒の中にいる。
それだけがわかった。
「ついに開花したな...」
魔王は遠くから魔法を通して見ていた。
「いかが致しましょうか?」
側近は静かに伺った。
「やつに、手土産をくれてやれ」
「御意...」
側近は闇の中に消えた。
「ククク...ここからが正念場だ...」
「はぁっ、はぁっ...」
気がつくと走っていた。
僕が仲間の近くにいると、いつの日か絶対に危険な目に合わせてしまうだろう。
仲間達に迷惑をかけることはできない。
このまま消えてしまおうか...
「...待て」
「誰だッ!」
僕は短剣を抜いた。
「ふふ...落ち着け。私はお前の味方だ」
男は明らかに僕の矢印と同じような気を放っていた。
「その様子だと、お前は目覚めたようだな」
「目覚めた...?」
「そうだ、お前は闇の力を自らの力で取り戻したのだ」
「自らの...?」
「そうだ、お前は人間じゃない。我々と同類...いや...」
男は口を濁した。
「何が言いたいんだ?」
「単刀直入に言おう。お前には仲間がいるだろう?」
「あぁ...それがどうした?」
「そいつらを裏切れ」
「裏切る...?」
裏切る、という言葉に、僕は何かを感じた。
凄まじい嫌悪感を...
「お前に断る権利はない。お前が私と話している間に、魔物の軍勢があの町を襲っている」
「なっ...!?」
「そこでだ。お前が仲間を裏切れば、魔物の軍勢を引かせてやろう」
仲間か、町の人々か...
「くっ...」
「さぁどうする?といっても、選択肢はないがな...」
「くそ...リーダーがいなくなってから、突然魔物が...!」
マスカル達は魔物と戦っていた。
勿論町の人々も戦ったが、なんにせよ数が数倍は違う。
明らかに劣勢だった。
皆疲労していた。町の人々も半ば諦めていた。
「...おい!あれをみろ!」
町人のひとりが叫んだ。
「...あれは...ラク?」
すると、魔物は皆一斉に攻撃をやめ、距離を取った。
そこには、道化師の格好をしたひょろ長い男と、ラクがいた。
「ラク...?」
「...皆」
ラクは静かに語り始めた。
「僕は人間なんかじゃない。こいつらと同じ、魔物らしい。その証拠に...」
ラクは手のひらから矢印をだした。
矢印は黒く光を放っていた。
「おい...あれは...」
「間違いない...あれは闇魔法...!」
町の人々は皆どよめいていた。
「これでわかったろう。僕はここにいちゃいけない。皆を危険な目に合わせるだけだ」
「そうだ、だからこいつは危険な目に会う前にお前らを殺すそうだ」
ラクは相変わらず暗い顔をしていた。
「...しっかりしてよ!」
突然、カーラは大声で怒鳴った。
「ここにいちゃいけない?誰がここに居るなっていったの?危険な目にあう?もう危険な目にあってるよ!でも、ラクのせいじゃないよ。そいつが呼び寄せたんでしょう?」
「...」
「ねぇラク...私はね、あなたにあってから、人生が大きく変わったんだよ。色んな人に出会って、笑って、泣いて...全部ラクのおかげなんだよ!」
「...!」
「そんな人が、私たちを苦しめる訳ないよ!闇魔法を使おうが、魔物だろうが、ラクはラクだよ!」
「カーラ...」
「ふん、遺言はそこまでだ。おい、さっさとやれ!裏切れ!」
「僕は...僕は!」
ラクはもう迷わなかった。
たとえ黒の中にいようと関係ない。
仲間と共にいく。
力が張る...
「オオオオオォォォォォ!!!」
思い切り手のひらを地面に当てた。
すると、魔物の軍勢の真下から、巨大な矢印が飛び出した。
まるで巨大な槍のように...
凄まじい威力をもつ矢印が複数も地面から飛び出した。
魔物の軍勢は一瞬にして全滅した。
「これが...ラクの力...」
皆が圧倒された。
邪悪な存在のはずの闇魔法。
それが、人々を助けた。
「貴様ぁぁぁ!」
道化師の男が怒るのは当然だ。
一瞬にして自分のもつ軍勢がやられたのだから。
「僕は、もう迷わない。これが答えだ」
ラクは左手で短剣を抜き、男の喉笛を切り裂いた。
「がひゅっ...」
そういって男は倒れた。
と、同時にラクも倒れた。
巨大な矢印をいくつも召喚すれば、倒れるのも無理はない。
「ラクっ!」
カーラはラクに駆け寄った...
「ん...」
僕は眠っていたらしい。
「あっ!やっと起きた!」
カーラはずっと見ていた。
「ここは...?」
「カチュの家だよ」
「なぜ...?」
「皆、ラクのこと見直したってさ」
「そうか...ところで2人は?」
「買い出し。ラクのために色々作ってあげるんだってー」
カーラは自分も作りたかった、とボソッと言った。
...カーラが関わってなくてよかった。
「またいつでも来てくださいね」
「ええ、魔王を倒したら、また来ますよ」
僕達はカチュの母親に挨拶をし、町を出た。
「さてリーダー、次の町はどこにする?」
マスカルが訊ねてきた。
「そうだね...次は...チピとか?」
「チピか...別段何か有名なものはないな...」
「なぁんだ...残念」
カーラは心底残念、といったジェスチャーをした。
「おいおい、さっきの買い出しでゴールドが少ないんだ。ムダ使いはなるべくしないように」
...所持金は聞かないことにしよう。うん。
「さて、それじゃ...」
「しゅっぱーつ!...ふふっこれ言ってみたかったのよね」
カチュに言われてしまった。
...まぁ、いいか...
「何?カクルムが?」
「えぇ、少なくとも町のひとつは楽々滅ぼせる程の軍勢を渡しましたが、全滅致しました」
側近は静かに答えた。
「...そうか」
魔王はニヤリと笑った。
「我のもとに来る時が待ち遠しいぞ...ククク...」