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たまおの不幸な卒業文集  作者: 花南
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 隣駅に模擬テストを受けに行った帰りに篠宮さんをプラットホームで見かけた。

 漠然と、線路を見下ろす瞳。死にそうな顔。

「篠宮さん!」

 僕は思わず飛び込む前に声をかけてしまった。篠宮さんは僕のほうを確認するといつもの厳めしい眼光を光らせて「おや三芳くん、今日は私服なんだね」と言った。

 そういえば篠宮さんの私服というのを初めて見た気がする。なんだか貧困に喘いでいるって聞くとすごくボロボロな服とかをいつも着ているのとか想像しそうだけれども普通のスカートとシャツ、そして僕があげたセーターだった。

「セーター初めて着たんだけどあったかいのな」

「お望みとあらばマフラーも買ってあげようか?」

「お前は本当に気持ち悪いくらい善意に溢れた男だよ、三芳。私は首にものを巻くのが嫌いなんだ。首が絞められるような感じがして嫌なんだよね」

 改札口に切符を通して篠宮さんが外に出た。僕も続けて改札口を出る。

「プラットホームで何してたの?」

「三芳よ、プラットホームに立つ人というのは乗るか降りるかのどちらかなんだよ。それとも私が自殺でもする馬鹿に見えたと思うのかい?」

 僕は、篠宮さんのセーターの裾を引っ張って止めると言った。

「死ぬんじゃあないかって、思った」

 暗い目がこちらを見上げ、そして「ぎゃはは」と笑った。

「最近思うんだよね! あんたのほうが死にそうな顔してるけど大丈夫かなって! 受験勉強ってそんなに大変なんですか、もう受験関係なくなっちゃった私にゃ分からん世界だよまったく」

 無神経な女が僕のことを軽くイラっとさせたあとに、あの人を嘗めきったような半眼をしてからこう言った。

「じゃあものいっそのこと私と死ぬかい? 寂しくないように、ふたりで」

 悪魔の、囁き。別にこんな女のために死にたいなんて僕は思わないけれども、最低の馬鹿なギャグだけれども、それが本音なんでしょう?篠宮さん。君がこの馬鹿馬鹿しい茶番劇に早く幕を下ろしたいと思っていることくらい、周囲の人間は知っている。僕たちは、そんなに馬鹿じゃあない。君はすごく無神経で、そして僕は思ったよりも繊細にできていた。

 君は知ってる? 「私は傷ついたのよ」という言葉が人を傷つけることがあるということを。「これくらい傷ついたんだからね!」って誰かに傷を作ったら犯罪になるってことを。

 篠宮さんのやっている行為は、僕に対しての誹謗中傷なんだよ。君より裕福でごめんなさい、君より綺麗でごめんなさい、君より繊細でごめんなさい、君より長生きしちゃうだろうけどそれもごめんね、そして生まれてきてごめんなさい、君を幸せにできないこともごめんなさい。

「三芳、お前本当に最近大丈夫か? あんた受験でまいってるんだろう?」

「……しにたい」

「え?」

「いきたい」

「びっくりしたよ。何言い出すんだよ」

 無意識に、篠宮さんの首に両手の指を絡めていた。マフラーを巻くのですら嫌がるその首に。君さ、前世は首吊り自殺かなんかしたんじゃあないかな? そして今世は僕に絞殺されるなんてどうだろう。

 だけど力を篭めることはできなくて、その首に指を密着させたまま、こう言うのが精一杯だった。

「……生きよう」

 君も僕も、もっと生きていなくちゃ。この人生に復讐しなくちゃだめだ。憎しみでいい、悲しみでいい、絶望でいい、世界平和なんてなくていい、君がこの世界を恨むことに執着して少しでも生きていてくれるなら僕はこの地獄絵図を恨まない、すべてゆるすから。

 君を殺す勇気がなくてごめんなさい。自分で死ぬ覚悟もなくてごめんなさい。

 世界が平和であればいいね。君がお腹を空かせることもなければ草食動物が肉食獣に食われることもない、誰も何も食べずに呼吸もせずに生きていけるような空間があればいいのに。

 君が奇麗と言ってくれる僕の歌声で君がお腹一杯になれるような構造していれば僕も君も幸せになれるのに。


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