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俺は彼女たちから逃げられない。  作者: 石田未来
第四章 茜と彼女たち
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第四章 Ⅴ あの日の約束

「どうして里緒がここに?」


 自分の家の前で待っている少女を驚いた表情で見ていた。

 そして里緒の方は、茜を見るや否や早歩きでやって来た。心なしか少し不満そうな顔をしていた。


「ねぇ茜。少しいい?」


「え?まぁ…良いけど、どうしたの?」


 彼女の何とも言えないその表情に少し、戸惑いながらも茜は、特にやることがなかったので了承した。

 もちろん部活で疲れているものの、そんなことを言えるような状況ではなかった。


「ちょっと色々とね…。そんなに時間はかからないから。」


「わかった。」


 里緒の言葉を信じ茜は頷いた。

 そんなこんなで、2人は近くにある公園へと行くことにした。

 ……………



 2人は暫く歩いていき、公園へと着いた。

 夜の公園は人が少なく、いるとすれば、ウォーキングをしているお年寄りやカップル、電灯に集まる虫くらいのものであった。

 2人はベンチに腰掛けるとあまり近すぎ、かといって遠すぎない適度な距離で座った。


「それでどうしたの?」


「実はね、蒼月ちゃん…西園寺さんのこと知っているでしょ?」


 突然でた言葉に衝撃を受けた。まさか里緒の口から西園寺蒼月の事がでるとは思わなかったからである。

 蒼月と里緒は同じクラスであることを茜は知らないのだ。


「どうして、蒼月さんのことを知ってるの?」


「それは、私と蒼月ちゃんは同じクラスの友人だからよ。」


 それを聞いた茜は、納得をした。それに里緒は特進クラスである。ということは蒼月も必然的にそうなる。

 彼女の洞察力の凄さが何となくわかった。しかし、まだ分からないところも存在していた。


「なるほど、そうだったのか…。それで蒼月さんがどうしたの?」


「実は妙なことを言っていたのよ。」


 里緒は少し申告な表情をして茜を見てきた。そんな顔を見て茜は思わず唾を飲んだ。

 いったいどんなことを里緒に言ってきた。茜も蒼月からは妙なことを最後に言われていたことから、それは気になるところであった。


「蒼月ちゃんはね、誰よりも早く(・・・・・・)茜と知り合ったのは私って言っていたのよ………どういうこと?」


 里緒の表情は真顔ではあるものの、それが逆に恐ろしさを感じた。

 目もどこかしら怖い。茜は何も悪いことはしていないにも関わらず、冷や汗がでてきた。


「俺も分からないよ。それに俺だって妙なことを言われたんだよ。」


「それって何?」


 相変わらず表情は変わらない。そんな彼女を眺めつつ、質問に対する答えを述べた。


「私はあなたであって、あなたは私って言われたんだよ…。俺もさっぱり分からなくて…。」


 廊下で分かれる際に言われた言葉であった。あの印象強い言葉を忘れることなどなかった。

 そして里緒が言ったその言葉も同様だ。蒼月は一体2人に何伝えたいのか?それを知るのは蒼月自身であり、誰も知らない。


「茜は小さい時から蒼月ちゃんのこと知っていたの?」


 茜を上目使いで見てきた。とは言うものの、それは真面目な顔であったため違う意味でドキッと茜はしていた。


「俺は蒼月さんのことを知らない。それに俺は、昔のことは実はあんまり…。小学生くらいならわかるけど…。」


「そうだったのね…。だから(・・・)か…。」


 茜の答えに、里緒は何となく納得した表情をしていた。それとともに、少し悲しそうにしていた。

 それは前に旅館に泊まり朝散歩に2人で行った際に見たものと似ていた。


「茜は本当に昔のことを覚えていないの?」


「いや、覚えていないと言うよりも、思い出せないんだ。」


 茜は今まで里緒の顔を見ていたのを、地面の土の方を見つめた。

 そして一言そう言った。


「それって…。」


「思い出そうとすると激しい頭痛がするんだよ。思い出そうとするのを止めようとするんだ…。」


 これも2人で朝散歩をしていた時にその場面があった。里緒の笑顔を見た瞬間、何か懐かしさを感じた、それと同時に以前見たことのあるその表情を思い出そうとして、茜は頭痛を発症した。

 一体何故だろうか。


「じゃあ小学生前の記憶はないんだ…。そんな……。」


 里緒は絶望を抱いた顔をしていた。そして、里緒は何か考えた顔をして茜の手を突然掴んできた。


「な、どうしたんだ?里緒…?」


「茜、お願い。私と付き合って。」


 彼女は掴んだ手を両手で握りしめて茜の顔を見た。

 その顔は切実に何か望む少女のような顔をしていた。そして何より、里緒はいつもとは明らかに何かが違っていた。

 昨日のことといい、彼女は一体どうしたのだろうか。


「ま、待ってくれ里緒。どうしてそんなこと?それに俺は柚月がいるんだぞ?」


「だって私は約束したもん…。いつか必ずまた会えるって…。その時はずっと一緒にいようって…。なのになんで…。」


 里緒の目からは涙の粒が今にも零れ落ちそうになっていた。そして茜の手を握る力が段々と強くなっていた。

 その痛みに耐えられず離そうとするものの、彼女の手はそんなことはさせなかった。

 そして、里緒は茜に押し倒すようにして倒れかかってきた。とっさの事だったために、支えきれず地面へと倒れ込んだ。


「うっっ!り、里緒?待ってくれ。約束って一体どういうこと?」


「私と茜は結ばれる運命なの。だってあの時約束(・・・・・)したのよ…?」


 里緒は茜にのしかかるようにした体制をしていた。そして茜を見つめていた。悲しそうにしているその瞳は、戸惑う茜の姿がうつっていた。

 里緒の言う約束というものは一体何かは茜には理解が出来ない。いや、理解したくても出来ないのだ。

 何故か、頭痛によって止められてしまうのだ。


「里緒…。俺達は会ったことがあるのか?」


 茜は思い切って聞いてみることにした。里緒なら知っているはずだ。

 しかし、その質問は彼女にとっては無情なものであった。


「思い出してよ!!!私と茜は……!!」


 彼女はその無情な言葉に耐えきれずとうとう涙を流した。彼女はただ思い出してほしいのだ。

 あの時の約束というものについて、それだけ大切に考えていたのだろう。

 彼女の涙は、仰向けに倒れている茜の顔に落ちた。彼女の顔は涙は冷たかった。茜にはそれがわかった。


「ごめん…。本当にごめん…。」


 茜はただ謝るだけしかなかった。記憶がない以上どうすることも出来ない。

 今はただ彼女を見守るということだけしか出来なかった。


「もう耐えられない…。こんなことダメだって分かっているけど…。」


「な、何を!?」


 そういうと里緒は制服をはだけさせて、そして涙が流れている顔で茜を見た。

 茜はそんな彼女の行動に唖然としていた。そして制服をはだけさせているところを恥ずかしさから思わず逸らした。


「茜。私を見て。」


 里緒は目を逸らしている茜を少し強めの口調で命令した。

 仕方なく、少しずつ里緒の方を見た。

 すると里緒は茜に覆いかぶさり、茜の唇を自分の唇で塞いだ。


「はむ……。ぺろ…くちゅ……はぁ…。」


「り、里緒やめ!…む!くちゅ…。はむ……あっ…。」


 生々しい音が響いた。生憎公園は電灯があるものの、薄暗く、遠くから見れば人がいるとは思われない。

 そんな2人は、健全とは言えないような行為をしていた。


「茜……茜……。もっと感じたい…。はむ…。茜をもっと私に感じさせて……ぺろ…くちゅ……くちゅ…はぁ…はぁ…。」


 里緒は完全にネジがとれていた。歯止めがきかなくなっていき、茜の意思を無視してキスをし続けた。

 獲物にありついた肉食獣のように貪りついていた。

 茜は、そんな彼女をやめさせようとするものの、ペースを完全に持っていかれていたためそんなことは出来なかった。


「なぁ…こんなのおかしいよ…。どうして…?あっ…。」


「茜が悪いんだよ…。私をこんなにさせて…。責任とってよ…。」


 そう言うと、里緒は自分のブラウスのボタンを外しはじめた。流石にこれはまずいと感じた茜はその手を止めようとしていた。


「やめろ!里緒!落ち着いてくれ!こんなの変だよ!!」


「だったらどうしてあの時の約束忘れてるの?私はずーっと覚えていたのに…。茜は私のものなのに…。」


 里緒の目は暗闇であったが光を失っていたのがわかった。それほどまでに彼女はその約束というものの覚えていたのか。

 それなにの自分は忘れるなんて…。茜は自分が憎くなってきた。


「里緒…。こんなことはやめよう?しっかり話し合おう?じゃないと俺は里緒が……。」


 茜は里緒に訴えかけた。今の彼女に響くか分からないがとにかく今は彼女に言うしかなかった。

 確かに、今回このようになってしまったのは自分の責任であると自覚している。

 だからこそ、1度しっかり話し合わなければならない。昔の出来事についてしっかりと。


「だったら私と付き合ってよ…。私は旅館であんなこと言ったけど、やっぱり待てないよ…。胸が苦しいよ……。茜が他の女といる時、私は胸が締め付けられて苦しい……。」


 茜の考えとは裏腹里緒には全く伝わってはいなかった。いや、里緒にとっては今の茜の言っている言葉は逃げているようにしか感じないのだ。

 だからこそ、今はっきりと言っているのだろう。


「どうしてそこまで俺のことを…。」


 茜にとってはこんな約束を覚えていないような男を好きにならなくていいだろうと思っている。

 しかし、里緒はそれでも茜の事が好きなのだ。


「私のことを助けてくれたから…。あの日(・・・)。」


「あの日?」


 あの日とは一体いつのこと言っているのだろうか?茜は思い出してみるものの、全くの心あたりがない。あるとすれば、ネザーモールの一件程度である。


「茜は少し変わったよね…。あの女と付き合ったからかな?それともこの傷?」


 そう言うと、里緒は茜のシャツを上にあげて左の下腹部にある大きな傷を指でなぞった。

 その瞬間、茜は妙な痛みが傷から現れた。火で焼かれたような痛みが傷に走ってきた。


「いっっ!!」


「まだ痛むんだ…。そう言えば…。まだちゃんと聞いていなかったよね。この傷の原因。」


 旅館でお風呂に入った際、里緒はこの傷を発見して話を聞いた。

 その時里緒は茜を刺した人物に対して殺意を抱いたが、どうしてそうなってしまったのか、いまいち内容が把握出来ていなかった。

 一体中学校の時に何が起こったのか。


「約束を忘れていたこと。不問にするかわり教えて?」


「…………。わかった…。その代わり、俺から降りてくれないか?」


「わかったわ…。」


 茜としてもあまり話したくはないものであった。しかし、茜は約束のことを忘れてしまっていたということもあり、不本意ながら話すことにした。

 里緒は茜から降りて、はだけていた服をただした。そして、再びベンチに座ることにした。


「この傷の原因か……。思い出すのは久しぶりか……。中学2年の時……。」



 茜は里緒の方は見ずに、何も無い虚空を見て話をし始めた。

 全ての元凶とも言える中学2年のあの日。

 茜という人間の全てを狂わせたと言っても過言ではなかった。

 そして、茜だけではなく周りの人間の運命を変えることにもなった。

 茜は、重い口調でその時のことを話し始めた……。




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