第一章Ⅱ 告白そして嫉妬
放課後の時間になった。彼、加賀美茜にとって勝負の時であった。なにせ、ラブレターなんてはじめて貰ったのだから緊張しているのだろう。
手が少し震えていたのだ。
「今どきラブレターなんて古風というか…」
ちなみに茜は柚月に放課後は先生に呼ばれたからという嘘の口実をつくり詮索されるのをしのいだ。
柚月はいつもとは違い妙に物分りがよかった。
「あ、あの人かな?手紙の差出人は…」
中庭にある桜の木の下に1人の少女が立っていた。
手入れの行き届いた、つやのある髪でまるで大和撫子を体現したかのような女子であった。
かなりモテるに違いないはず…
「あ、お手紙読んでもらえましたか?加賀美くん?」
「俺の名前知ってるんだね。君の名前は?」
茜にとって、全くの初対面であったが向こうは茜を知っているようだ。まぁ手紙を出しているから普通そうだろうが。
「あ、ごめんなさいね!。2年1組の松枝里緒です。はじめましてだよね?」
1組ということは彼女は特別進学科の生徒である。
茜には特別進学科にあまり友人はいなかった。
そればかりか彼女とは話したこともなければ、顔すら見たことがないのである。だから、なぜ彼女が茜のことを知っているのか不思議であった。
「うん、そうだね。君はどうして俺のことを知っているんだ?」
「それはね……部活…ずっと見てたから……」
部活………それは茜の所属しているアーチェリー部のことであった。
こう見えても茜はインターハイで4位の結果を残している優秀な選手だ。
また茜のファンであるという女子生徒はあまり表立って活動していないが実は、そこそこいるのだ。彼女達からは「弓矢の皇子様」言われている。
本人は知らないが……………
「部活見てくれてたの?」
「はい!とってもかっこいいです!」
彼女はニッコリ笑って茜のほうを見た。そして茜はその笑顔に思わずドキッとしてしまったのだ。
「あの、それでですね。加賀美くんに言いたいことがあって………………よかったら私と付き合ってください!!」
一瞬時が止まったように感じた。茜は理解するのに少し遅れた。
(今この人付き合ってくださいって言ったのか?)
驚きが隠せなかった。男としては美人な女子に告白されて普通は死ぬほど嬉しいはずだ。
だか、茜には彼女である柚月がいた。しかしもし、彼女を裏切れば己の身がどうなるかもわからない。
いや間違いなく自分という人間は殺されるだろう…
それに 彼女がいるのに告白を受け取るのは不純だと考えた。
そして考えた末に、断ろうと決心をした。まさにその時だった……
「ねぇ? あかね……これは……どういうことなの?」
その声はどこか聞いたことのある声だった。いや…いつも聞いている声である。
そして、茜は一瞬で判断した。それと同時に恐怖で身体が震えていた。身体全身が自らの危険を必死に警報として鳴らしているようだった。
「っっっ!柚月………?」
そう言うと茜は柚月のほうを見た。彼女は笑ってはいるものの目はとてつもなく冷たい目をしていた。
それは下ネタを女子の前で言って冷ややかな目をされるよりも何百倍も冷たい目をしていた。
「告白されるなんて………随分な身分じゃないの?ねぇ?」
そう言うと柚月は茜に向かって段々近づいてきた。そして彼の耳元まで行き、こう呟いた。
「あとで……覚えてなさいよ?」
その一言だけいうと、今度は里緒のところに歩み寄り
「悪いけど、あなたの告白に付き合っているほど彼は暇じゃないの。私との先約があるから……」
「えぇ?」
里緒は突然そのようなことを言われ、理解ができなかったが柚月はそれだけいうと茜の腕を物凄力で引っ張っていき、中庭から消えていった……
「一体どういうことよ……あの人は誰?……」
里緒は言われた言葉の意味を理解した。しかし、自分が勇気をもってした告白を台無しにされたことに憤りを感じていた。
だが、二人ともその場にはもう、いなかった…………
「おい!柚月!どうしてお前があそこにいたんだよ!?先に帰ったんじゃないかよ?」
「いいから黙ってついてきなさい………」
柚月は女子とは思えないような低い声で言葉を放ち
茜を鋭く睨んでいた。
やがて柚月は歩みを止めた。目の前には柚月の家があった。そして、再び歩きはじめて家の中に入っていき、階段を登ると彼女の部屋についた。
「柚月……一体何する気だよ?」
茜がそう言うと、柚月は茜をベッドの方へ思いっきり突き飛ばし馬乗りになった。そして茜の両腕をねじ伏せた。
「ねぇ?今朝約束したよね?どうして破っちゃうの?」
「それって、さっきの告白のことかよ?あれは、仕方がないだろ?告白の返事をしないと相手に失礼だろ?」
「口答えしないでちょうだい。なんにせよ、あなたは約束を破ったの?わかる?」
柚月は茜に顔を近づけてそう言い放った。冷たい目をしており、茜に恐怖を与えた。
「まぁ、でも今回のは許してあげる。ちゃんとこうやってしるしをつけてればよかったのよ。」
そう言うと、茜のシャツを少しはだけさせて首に思いっきりカブリついた。
「うっっっ!!!や、やめろ……柚月…頼むからやめてくれ!!」
茜は首筋に伝わる激痛と彼女の甘い口付けに耐えられず必死に抵抗したが、柚月はそれを許さなかった。
「はむっ……ぺろっ…はむっっ………はぁ……」
「うっっ!あぁ………ゆ、づき…やめて……あっっ…!」
柚月は茜の首筋に噛み跡を残していった。まるでこれは私のものだ!と主張するようにそして首だけではなく身体のあっちこっちにしるしをつけていった。
その行為は1時間ほど続いた。そして………
「今回はこれで許してあげるけど次同じようなことをしたら…わかってるわね?」
柚月は微笑んでいた。
しかし、その微笑みは無邪気なものとは違い、真っ黒い影があるものだった。
茜はさっきの行為によって、ぐったりとしていた。激痛の中に少し快感を感じていた自分に情けなさをおぼえていた。
そしてあの行為が終わって少ししたあと、茜は自分の家へと帰っていった。
その後ろ姿は哀愁が漂っていた。何か大事なものをなくしたような感じにも見えた。
「茜の身体にしっかりしるしをつけたし………
これでよってこないでしょ?ふふふ…」
1人部屋で満足している女子の姿がそこにはあった…………
「ただいま………」
茜は元気など全くなく、搾り取った声でそう言った。
「あら?おかえり茜。」
出迎えてくれたのは茜の姉である翠であった。黒い髪を一つ結びしており、背が高くグラマラスな身体をしている。
茜の8つ上であり茜にとって唯一の肉親であった。
「どうしたの?元気ないけど?」
「い、いや!なんでもないよ!姉さん。」
姉である翠が浮かない弟を心配してきたが、さっきの行為のこともあり少しドキッとしてしまった。
もしあれが姉さんにバレたらとんでもないことにになる……それだけは避けないと…
そう茜は考えていた。しかし、姉は弟の異変にすぐに気づいた。
「茜………あなた私に何か隠し事してるでしょ?
正直に言いなさいね?」
茜は翠にいとも簡単に見抜かれてしまった。顔にでやすいタイプではないものの、姉の洞察力には勝てなかったようだ。
「何もないって!」
必死に隠そうとしてももはやバレバレである。
そしてさらに翠の追求は止まらない。
「茜……あなたもしかして………あの女………柚月ちゃんのところに行ったでしょ??」




