第三章Ⅶ お礼を受けちゃうGW4日目 後編part1
圧倒的な存在を誇る建物には「松枝旅館」と書かれたかなりの年季の入った木製の看板があった。
そして里緒がいった一言に、茜は理解をに追いついていないような反応をした。
「1泊ってあの1泊?」
「うん、というか他になんの1泊があるの?」
自分が聞き間違えていないかを確かめるようにして尋ねた。勿論、聞き間違えではなく1泊する、つまり1日泊まるということであった。
ようやく理解が追いつくと、首をブンブン振って里緒にそれはできないと伝えた。
「いやだって、俺そんな金ないし…。それに姉さんが待ってると思うし…。」
「大丈夫だよ!なんとかなるって!」
あたりを見ればすっかり暗くなっておりもう、家に帰った方がいい時間帯であった。
それに、うちでは恐らくご飯を作って待っている姉がいる。もし帰ってこなければ、間違いなく怒られるだけでは済まされなかった…。
しかし、里緒は笑顔で茜の手を無理やり引っ張って中へと入っていった。
彼女から手を離そうと抵抗するがガッチリと握られた手は離れることはなくズルズルと玄関の方へと引きずり込まれいった。
玄関へと入っていくと、廊下の方から着物をきた綺麗な女性が歩いてきた。
そして玄関付近まで来ると、正座で茜を迎えてきたのだった。
「あなたが、里緒言っていた茜さんでございますか?本日は当旅館へのご利用ありがとうございます。」
決して派手ではなく、かといってみすぼらしくもない絶妙な色あいで施された着物に、里緒と同じいや、それ以上恐らく翠と同じくらいであろう胸に里緒にそっくりの若々しい女性であった。
髪の毛はテレビでよく見る女将の髪型をしていた。
そんな綺麗な女性を見て、茜は思わず顔を赤らめた。
「えっと…。里緒のお姉さんですか…?」
茜はその若々しさから20代前半くらいであろうと思った。実際、肌の綺麗さなどから見ても、彼女は20代前半であると誰もが思うだろう。
しかし、その言葉を受けた女性は ふふふ 。と笑っており、里緒も笑いをこらえていた。
「あらあら、お世辞がお上手な方ですね。お姉さんだなんて…。私こう見えても、36歳ですのよ?」
「えぇ!?嘘だろ…?ていうことは…。」
女性の実年齢をきいた茜は驚愕していた。36歳ということ幾ら何でも姉妹ではありえない。
だとするとこの女性はもしや…そう思った茜は笑いを必死にこらえている里緒の方を目が点になって見てきた。
「あの人は、私のお母さんなの…。この松枝旅館の女将をやってるのよ。」
「松枝久美と申します。以後お見知りおきを、茜さん?」
里緒の母久美はニッコリと笑って茜の方を見てきた。そして茜をじろじろと品定めをするような目で見てきた。
そして、どこか満足したような顔をして里緒の方を向いてきた。
そして、里緒も同様自分の母に顔を向けて2人だけにしかわからないようなアイコンタクトをした。
「では、早速茜さんの泊まる部屋へと案内します。」
「ちょ、ちょっと待ってください!俺家帰らないと!姉さんが家で待ってるし…。」
勝手に話を進められペースを持っていかれるところをギリギリで止めた。
確かにめったに泊まることのできないような高級そうな旅館をタダで泊まらせて貰えるのはありがたいと思うだろう。
しかし、泊まるなど姉の翠に一言も言っていない。もし、その状態で泊まれば後でどうなるのやら…。
「大丈夫だって!後で連絡したらいいし!それに自慢じゃないけどうちの旅館は老舗で有名人も泊まるくらいなところだよ!?」
「この娘の言う通りですよ?折角ですから、泊まってみてはいかがですか?」
2人の圧がとにかくすごかった。彼女たちは提案をしているというよりも、むしろ圧をかけてきいるようであった。
2人のあまりの眼力に圧倒されてしまった茜はため息をつき、渋々ながら泊まることにしたのだった。
「後で姉さんに連絡しないとな…。」
「では、ご案内させていただきます。私の後へついてきてください。」
「茜いこ?」
里緒の母もとい、女将さんは茜についてくるように言ってきた。
そして、里緒は茜の手を自分の大きく実った胸に抱くようにして上目遣いで見てきた。
茜はその胸の柔らかさが手から伝わってきたのか、顔が少し赤くなり、手を離そうとするが、里緒そうはさせなかった。
結局そのまま、今日泊まる部屋の方へと進んでいった。
……………
「これはすごいや……。」
部屋へつくと茜はその存在に圧倒されていた。
茜の泊まる部屋というのは、8畳に次の間があり、そこからの眺望がまた絶景であった。
普段都会に住む人間からしてみれば縁のないような、自然の眺めは心を奪われそうになる。
そして、床の間には、いかにも高そうな掛け軸や、盆栽が飾られてあった。
「どうですか?お気に召したでしょうか?」
「ほ、本当にここタダで泊まってよろしいんですか?」
普通に泊まったらとてつもない額になるであろう部屋に自分なんかが泊まっていいのか確かめたくなった。
だが、それぐらいの部屋であるのだ。恐らく間取り的にもかなりいい部屋なのだろう。
そんな茜の質問に女将さんはニコニコと微笑んで口を開いた。
「娘の恩人ですもの。勿論タダで充分ですよ?」
「今日は存分にくつろいでいってね?」
2人の笑顔はやはり似ていた。親子であるとすぐに気づくくらいに。
折角の行為を無駄にするわけにはいかないと思った茜は甘えることにした。
そして、女将さんは他のお客さんから呼ばれたとのことから出ていった。
部屋には茜と里緒2人だけが残っていた。
「すごいな…。里緒の家の旅館って…。」
「私もいずれここの後を継ぐのよ。だから旦那さんには婿養子になってもらわないとね?」
そう言うと何故か里緒は茜の方を先程同様ニコニコした顔で見てきた。
茜は思わず、ドキッとなった。しかしそれは恋煩いによるものとは違い、少々寒気を感じるようなものであった。
彼女の圧のある笑顔に苦笑いで答えるしかなかったのだった。
「そうだ。茜お風呂入りたいでしょ?この部屋はね、他の部屋と違って専用の露天風呂があるの。」
「えぇ!ここ専用の露天風呂まであるの!?うゎ…とんでもないところに泊まっちゃったな…。」
茜は思わず面食った。想像を遥かに超える松枝旅館である。
しかし、露天風呂とはまた風情がある。それに専用ということは貸切のようなものである。
したがって、人目を気にせずにゆっくりと湯船に浸かることができるのだ。
そういった意味では茜は少しワクワクしてきたのであった。
「ここ扉を開くと脱衣場があってまっすぐいくと露天風呂だよ〜。」
「わかった。じゃあ早速入ってくるよ!」
そう言うと、露天風呂に期待して、里緒言われた通りに露天風呂へと向かった。
「ふふふ…。」
茜が露天風呂の方へと向かうと、里緒は不敵な笑みを浮かべて茜の後ろ姿を見ていた。
部屋の中にある扉を開くと里緒の言う通り、脱衣場が存在した。よく温泉にある脱衣場に似ているが少し小さかかった。
早速自分の着ている服を脱いでいるとある致命的な壁にぶつかった。
「換えの下着がない…。」
温泉などに入るうえで忘れてはならないのが、換えの下着である。
しかし、今回は仕方がないだろう。まさか、旅館に泊まるなんてことを考えることはなかったのだから。
しばらく考えた結果、嫌々ながら、今日使った下着をまた着るという選択肢にした。
本当はやりたく無いのだが…。
しかし、ふと近くの脱衣棚を見ると、男物の下着が1式置かれていたのであった。
それも、茜にピッタリのサイズの…。
「えっ…。なんか下着あるんですけど…。でもこれって…新品?だよな?なんで…。」
何故こんなところに新品の男ものの下着、尚且つ茜のサイズにあったものが置いてあるのか、不思議でたまらなかった。
そして、ちょっとだけ恐怖を感じた。
まるで、必ず茜がここに来るということを予言するかのようであった。
「この際だから、つかうか…。もしかしたら、そういうものかもしれないし…。」
そういうものとは、温泉で下着やタオルを売っているようなことを指していた。
しかし、だからといってサイズがドンピシャのものが置いてあるのだろうか?
考えれば考えるほど謎が深まっていくので、これ以上は茜は考えるのをやめた。
すべて脱ぎ終わると茜の鍛え上げられたたくましい裸体が顕になった。日頃から鍛えている茜の身体はゴリマッチョほどではないものの、筋肉がついており着痩せによりも目立っていないが、胸板も厚かった。
そして、例の左腹部の大きな刺し傷もあった。
「あ、入る前に、姉さんにLIN○しておこう。」
そう言うと茜はズボンにいれていたスマホを取り出し、緑色のアイコンのLIN○を開いて、翠にメッセージを送った。
(今日は友達から松枝旅館ってところに
誘われて泊まることにしたから。ご飯
いりません。)
「さていくか!」
メッセージをうち終えた茜は近くにあった自由に使えるタオルをもって露天風呂への扉を開いた。
ガララララ……
「すごい…。」
自然の中にある露天風呂、それに茜は目を奪われた。温泉というものは久しぶりである茜は新鮮な気持ちを持っていた。
そして、松枝旅館という高級旅館の露天風呂というブランド力がさらにここを引き立てていた。
「でも、なんだろう…。前に来たような……。気のせいか?」
そんな露天風呂の景色を見た茜だったが、さっきの部屋もだったがなんとなく違和感を感じていたのだ。
だが、具体的にどのような違和感かはわからなかった。
しかし、早く1日の疲れを取りたい茜は特に気にすることなく、かけ湯を浴びて、露天風呂へと浸かった。
ジャボン……
「ふぅぅ〜〜。気持ちいい!温泉っていいなぁ!景色もいいし、最高!」
ちょうど良い湯加減に温泉のいい香りがした。先程、看板に美容や患部にいいと書いてあった。
それを見たおかげか、本当に肌にきいているような気がしていた。
「たまには温泉で…こうやってゆっくりもいいなぁ…。」
露天風呂に浸かったところからみる自然を景色から、ふとある人物のことを茜は思っていた。
「柚月にも見せたかったなぁ…。こんな景色めったに見られないし。」
自分の彼女である柚月のことを考えていたのだ。今日は、里緒との約束から願いを聞くことはできなく申し訳なさも感じていたが、この景色を見せたいと素直に思っていた。
しかし、恐らく普通にいくとかなり高いと思われるので、無理だろうなとは感じていたのだった。
ガラガラガラ……
「ん?なんだ?」
突然開くと扉の音に思わず、その方向を向いた。
すると、思いもよらない光景がそこにはあったのだった。
「湯加減はどうかな?茜?」
「り、里緒!!!!?」
何故か、風呂に入ってきている里緒、しかも裸で。勿論、タオルなどで隠しているものの、胸は谷間がくっきりと見えて、今にもこぼれそうになっていた。
髪の毛は上にあげて止めていたがそれはそれでまた風情があったが、突然のことであったので茜は慌てふためき、とりあえず自分の大切なものはタオルで隠すことにした。
「どうして入ってるんだよ!?」
「どうしてって、私も入るよって言わなかったかしら?」
「言ってない!それにこんないい歳の男女が一緒に入っていいのかよ!?」
恥ずかしさを紛らわすように、とにかく出てくる言葉をいった。
目もなるべく合わせずに、必死にそらしていたが、やはり茜とて立派な男子である。
目をそらそうとしても、無意識のうちに、里緒肢体を見ようとしていた。
そして悪戯な笑みを浮かべている里緒は茜にさらに言った。
「入ったらどうなっちゃうの?茜?教えて?」
「そ、それはその…。とにかく!俺がやばいんだって!」
里緒からの思わぬ追求に茜も口を籠らせた。
里緒の顔から、わざと言っているのだとわかった。
茜は顔を真っ赤にして、必死に訴えるも、完全に里緒にペースを握られてしまっていたのだった。
これ以上何かえいえば、墓穴を掘るだけでメリットなどなかった。
諦めた茜は、仕方なく、一緒に入ることにした。
「気持ちいいね〜茜?」
「はぁ…。なんか…疲れがどっときた気がする…。」
里緒の笑顔とは対照的に疲れきった顔を茜はしていた。
折角の自然に囲まれた露天風呂を堪能しようと思った茜だったが、里緒が気になって、それどころではなくなっていたのだ。
「ねぇ…茜…。あの時告白の返事だけどね…。考え直してもらえないかな?」
「えっ?どういうこと?」
急に真面目な顔になった里緒から出てきた言葉に衝撃を受けた。
内容は、あの時の告白のことであった。確かあの時は里緒からの告白を断り、柚月が入ってきて色々と大変だったが、まだ決して終わりではなかった。
里緒は柚月から茜を奪い取るといった。勿論、その後も色々とアプローチを茜にかけていったのだが、これといって振り向いてもらえなかったのだった。
「私は、茜が誰かのものになるのが耐えられないの…。私にもっと振り向いてほしい。私だけを見てほしい。」
「り、里緒…。」
里緒はだんだん茜の方へと近づいてきた。少しずつ茜との距離を縮めようとするが茜は、後ずさりをするようにしていった。
「私は柚月さんのことが嫌いよ。それはもう、憎いほど大っ嫌い。」
彼女の見たこともないような、黒いオーラはどことなく柚月の黒化状態と似ていた。
だがこちらの方は、悲しみようなものも混ざっている気がしていた。そこが柚月のそれとは違うと茜は思った。
「私は茜のそばにいたいの。好きな人のそばにいたいだけなの…。なのにどうして…。」
「里緒…。」
気がつけば、そこは石の枠のところでありこれ以上後ろへは行くことができなかった。
そして、そんな茜の胸里緒はゆっくり自分から包まれるようにして入っていった。
自分の耳で茜の心臓の音を直に聞いていた。はやくなっていく鼓動に里緒は少し笑顔になっていた。
「私のことを意識しているんだね。」
彼女は茜に身を預けるようにしていった。里緒の豊満な胸があたりさらに胸の鼓動がはやくなっていっき耐えられなかった。
しかし、茜には柚月という彼女がいる。だからこそ裏切ることは出来ないと思っていた。
しかし、里緒の顔を見ると拒絶することができなかったのだ。
「里緒。どうして俺のことが好きなんだ?最近知り合ったばかりだし…。」
「最近か…。やっぱり…覚えてないのね…。」
里緒は最初こそは聞き取れた声だが、だんだんとボソボソっと聞き取りにくい大きさへと変わっていった。
彼女の悲しそうにしている顔に茜はどうしたらいいかわからなかった。
そして里緒は真剣な趣で茜の方を再び見た。
「柚月さんは本当に茜のことが好きなの?私から見れば、彼女のものは恋よりも独占欲に感じるの。」
「っっっ!!」
茜は里緒の思わぬ言葉に先程受けた衝撃を超えるものを受けたのであった。
そして、この言葉。以前、保健室で出会った、西園寺蒼月も同じようなことを言っていた。
同じようなことを違う人間から聞いた茜は、その時は信じていなかったものの、妙に信ぴょう性が現れた。
確かに、彼女の嫉妬深さには目に余るようなこともある、茜だって被害を被り痛い思いをしているのだ。
「だから、これ以上柚月さんといたら、茜はそのうち自由を奪われるよ?それでいいの?」
「そんな、バカな…。」
自由を奪われるなど考えたこともなかった。今までは柚月とのやり取りを普通とまでは思っていないものの、適度なものとして茜は捉えていた。
しかし、客観視してみると、自分たちのやっていることには、異常さを感じた。
だが、茜はそれを認めたくはなかった。柚月を好きであるという気持ちは変わらない。だが、このままでは里緒の言う通り、まずいほうへと進むのではないかと、考えるようになってきた。
「私は待ってるよ?茜が私の方を振り向いてくれるまで。勿論、振り向いてくれなくても…。だから、安心して?」
里緒の目はどことなく光を失ったような目をしていた。そして、その言葉に一瞬心臓がドクっとなり、心臓を掴まれたような感覚が茜にはあったのだった。
「私からふっておいてなんだけど…。この話はもう終わりね?」
「あ、あぁ…。」
先程の光の失ったような目から一変いつものような輝きを取り戻しニッコリと笑っていた。そして、茜の元から里緒は離れた。
茜は彼女の心理というものが、未だよく掴めなかった。
しかし、茜の方も愛想笑いでなんとか応えた。あまり深く考えない方が身のためだと感じた茜はこの出来事を心の奥へとしまいこんだ。
「そうだ!茜、背中流してあげようか?」
「せ、背中を!?」
「そうだよ。せっかくだし。今日はサービスするよ〜。」
先程とはだいぶ温度のあるいつものテンションの里緒は洗面所を指さした。
彼女のペースに流されっぱなしの茜は断ることなどできずに、彼女に従うことになった。
大事なところをタオルで隠して湯船から立ち上がると、里緒の目はあるものに止まった。
「茜。その傷どうしたの?」




