第三章Ⅴ お礼を受けちゃうGW4日目前編
「ご、ごめん!!いろいろとあって遅れちゃった…。本当にごめん!!」
「いいよ!いいよ!こっちから誘ったことだし、それより大丈夫?息苦しそうだけど?」
現在茜は楠公園というところに来ていた。息が荒い状態であり、手を膝について、息を整えていた。
集合時間に少し遅れた茜だったが里緒は特に怒ってはおらず、むしろ大丈夫?と気を使ってくれた。
なぜ遅くなったのか?これには茜の立場的な理由?があった。
遡ること約2時間前………
「よし、完璧だ。めざまし前に起きるなんて俺ってすごいな。」
今日は珍しくめざましが鳴るよりも前に目が覚めたのだ。いつもの茜であれば、平気でめざましの時間をすぎるのだが、この日違っていた。
「さすがに遅れるわけにはいかないからね。さて着替えるか!」
ベッドから起きた茜はクローゼットから私服を取り出しスウェットから着替えた。最近は初夏ともあってかポカポカであり過ごしやすい季節となった。
着替えた終えた茜は誰もいないリビングにいき軽く朝食をとることにした。
「姉さんは流石にまだ寝てるか……。昨日あんだけ騒いだし…。」
姉の翠は昨日担任の森本先生と酒を一晩中飲んでいたからまだ寝ているのだろうと思った。
翠以外、朝食を作る人がいない加賀美家では選択肢としてパンを焼いて食べるか、何も食べないのどちらかしか選択肢がなかった。
「パンでも食べるか…。」
キッチンにあった食パンを取り出し、オーブントースターにセットして待ち時間はソファに座って、テレビを見ることにした。
「最近ストーカーの事件が多いな…。姉さんとかは大丈夫なのかな?」
テレビをつけるとニュースをやっており、その内容というのは最近多発しているストーカー被害についてであった。
5人ぐらいの人たちがストーカーについての討論をやっていた。
「最近はストーカーが多発していましてね。女性の方々には気をつけてもらいたいですね。」
「最近のストーカーというのは特に陰湿で、知らないアドレスからのメールや電話、そして盗聴器を部屋に仕掛けたりしているとのことです。」
「と、盗聴器ですか!?そんな人います!?まず部屋に入れないでしょ?」
(えぇ!?盗聴器!?そんなことする奴がいるのかよ……恐ろしいな…。)
最近のストーカーというのは手の込んだことをやるのが多い、しかしだからといって盗聴器なんてどうやって仕掛けるというのだ?そんな疑問が湧いてくるし、実際されたとなるとゾッとする。
「部屋に入らなくとも、方法はいくらでもありますよ?最近の盗聴器というのはかなり高性能でね…。カプセル剤のような大きさのものだってあります。
例えば、それを普段洗濯しないスーツなんかに入れられたら…。」
「それでも、クローゼットとの中にしまう人もいますよね?そしたら大丈夫なのでは?」
確かに、いくら高性能と言っても遮蔽物などがあれば声は聞こえないはずだ。
だが、ストーカー犯罪の専門家?の人は首を左右に振り口を開いた。
「従来の盗聴器ならばそうでしょうね…。ただ最近ネザーインダストリアル社が開発した盗聴器は桁違いに高性能でね…。一軒家程度の音はすべて聴くことができます。」
茜は思わずゾッととした。そんなものがあるのかと疑いたくなったが番組の行った実験により、それが可能だということが分かった。
翠にもストーカーに会わないように言っておいた方がいいと考えた。
チーン!!
トースターの音が鳴り焼けたのが分かった。あまり焦がさないようにと小走りでパンを取りに行った。
「はむ……。朝食パンはなんかしんどいな…。なんていうか…物足りない…。」
パンにかぶりついた茜はどこか不満げな顔をしていた。まだまだ成長期の茜にとっては朝食がパンのみというのは物足りない。
そんな感じで質素な朝食をとっていると玄関からインターホンが鳴った。
ピーンポーン!!
「ん?誰だよ…こんな時間に…配達か?」
食べかけていたパンを皿に乗せて玄関の方へと向かった。
「はいはい。どちら様ですかね?」
扉をゆっくりと開けると、そこには昨日あったばかりの彼女がそこにいた。
「おはよう茜。来ちゃった?」
茜は思わず目を擦った。なぜに、ここに彼女である柚月がいるのか?生憎、今日は約束もしていないし、別の人と約束をしていた。
しかし、これはこれで不味いなと感じていた。
「な、なんで…?」
「なんでって…。彼女が彼氏の家に来ちゃダメなの?」
茜の反応に不柚月は不機嫌な顔をした。そして、茜が言うよりも先に柚月は家の中へと入っていった。
「お、おい!柚月!」
柚月はリビングへ行くと皿に乗った食べかけのパンを見つけた。
それを見た後、茜の方に振り返って軽く微笑んだ。
「まーた質素な朝食ね。私が作ってあげようか?」
柚月はキッチンの方へと向かおうとした、しかしそれを止めるように茜は口を開いた。
「今日はいいよ。俺用事があるからさ。早くでないと行けないだ。」
その言葉を聞いた瞬間柚月の顔色は変わり暗い影のあるような表情へと変わった。
その表情を茜に向けて、少しではあるが震え上がらせた。
「誰と…?」
いつものような高くて可愛らしい声音とは違い低く曇ったような声は柚月の今の感情を十分に表現出来ていた。
そんな柚月を見て茜はここで「里緒と」なんて言えば、確実に殺されると思い慎重にそして嘘偽りのない言葉を選んだ。
「友達と…だよ?」
里緒とも一応友達であるので、言葉自体に間違いはない。しかしそれでも疑っている柚月はさらに質質問をしてきた。
「友達って誰よ……もしかして……女?」
柚月の低くて曇ったような声音は最後の「女」という部分をさらに強調した。
「女」という部分を聞いた時に茜は身体中から冷や汗が止まらなかった。今いる柚月は普段の柚月と違い黒化になっている。
ここで仮に嘘をついても後にバレて殺される。ならば女と言ったらどうか?無論殺される。
しかし、今日は里緒と約束をしていたために破るわけにもいかなかった。そこで、己の命をかけて言うしかなかった。
「堂本と遊ぶんだよ。」
後で死ぬという選択を選んだ。どのみち、女と正直に言っていけなくなるよりも、ちゃんと約束を守って後で殺される方がまだいいと感じたからである。
「ふーん……そうなんだ…。どこで遊ぶの?」
柚月は納得いっていない表情をしてさらに追求をしてきた。まだ信用されていないと感じた茜はこれまた慎重に発言をすることにした。
「あ、えーっと……映画館だよ!?」
「映画館…?こんな時間に?」
時計を見るとまだ8時ほどであり、営業時間までまだまだ時間を持て余していた。それに、映画館は比較的距離が近いところにあるため、まずこんな早く出なくても良いのだ。
(しまった!!適当に言いすぎた…。でもな…ここで場所変えたら柚月にバレるだろうな…。)
「いや、あ、その…。そ、そうだよ!?早めに行こうぜって、約束してたの。」
「……それ本当…?嘘じゃない…?」
未だに曇りきった目で茜の方を見ている柚月は茜の不自然さがどうも気になっていた。
男友達と遊ぶなら別に怒ったりはしないのに、何故か茜はオドオドしている。何か、裏がある。心の中でそう感じていた。
「う、うん!だから約束破るのは悪いしさ…。だから、今日はごめんね?」
「…そう…。まぁ、いいわ。茜が嘘ついてないならね…。」
ようやく、納得してくれたとしてホッとしていた。しかし、柚月は茜の顔に当たるくらいにまで、近づき鋭い目つきで茜を貫いた。
「もし…嘘ついてたら……。茜…私、何するかわからないから…?」
「っっっ!!!は、はい…。」
柚月の背後に一瞬黒い何かが見えた。それは果たしてなんなのだろうか?
ただ一つ言えることは、柚月に今回のことを知られたらまず無事ではすまないであろうということだけが分かった。
止まらない冷や汗を肌で感じつつ返事をした。そして、それだけ言い残すと、柚月は踵を返し加賀美家を出ていった。
「…あやしい……。何か隠しているわね……。」
家から外にでた柚月は加賀美家を1度見渡すと何かをポツリと呟いた。明らかに隠しているということは分かった。しかし確証がなかったため結局、踵を返し加賀美家を後にして行った。
「…ふぅ………。なんだか…どっと疲れた…。せめてGW後にお礼をしてもらった方がよかったかも…。」
今更ながら茜は後悔していた。お礼を受ける必要がなかったとも思うし、お礼を受けるとしてもこのGWというなんとも落ち着かない休みの期間よりも別の土日の方がよかったと感じていた。
「はぁ…。今何時だ?…」
疲れきっいた茜は壁にかけてあった時計を見るともう8時30まで針が進んでいた。
約束場所である楠公園は茜の家から少し遠いところにあるため、すぐにでなければ間に合わない時間であるのだ。
「やばい!早く準備しないと!!遅刻する!?」
ドタバタと急いで準備をするほど切羽詰まっいたのであった……。
そして現在…楠公園にて…。
「ほんとにごめん!遅刻しちゃって…。」
「いいって!謝らないで?私が誘ったんだから…。」
深々と頭を下げて謝る茜に手でいいからいいからという感じでなだめていた。
そもそも今日誘ったのは里緒の方であるので別に遅れたからと言って起こる理由はなかった。
「それよりさ、集合したことだし…。いこ…?」
申し訳なさそうな顔をしている茜に少しずつ近づき、上目遣いで見てきた。彼女の小動物のような眼差しにドキッとしまった茜は思わず下を向いたものの、次は彼女の大きな果実の谷間が見え顔が赤く染まった。
「うっっ!そ、そうだね…早いところ行こうか。じゃないと俺の理性の方が…。」
「…?」
「いや、なんでもない!じゃあ行こう!」
首をコクっとかしげる里緒から、わざとやっているのではないと分かった。彼女はおそらく天然なのだろう。
もう一度聞きなおそうとしている彼女を遮り、目的地へ行こうと促した。もし、聞き取られていたら引かれていたかもしれない…。
「そう?それなら行きましょう。私についてきて?」
「わ、分かった!それにしてもどこに行くの?」
「それは……ヒ・ミ・ツ!」
目的地を尋ねる茜に里緒はもったいぶり教えようとはしなかった。その時に、人差し指を立てて3回揺らして可愛らしげなポーズを茜に向かって見せた。
そんな彼女の仕草から今から向かう目的地に少し期待をした茜である。
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「こ、ここって?」
「可愛いでしょ?ぬいぐるみだよ?」
「いや、見たらわかるけど…。」
現在、2人の来ているところは、可愛いぬいぐるみの売っている店であった。なぜに、ぬいぐるみ屋にきているかと言うと、4月あたりにネザーモールにて茜がぬいぐるみを買っているところ里緒が見ていたことがあった。
ちなみにこの茜が買ったぬいぐるみというのは、茜の彼女である柚月へのプレゼントとであった。しかし、里緒は勝手に茜がぬいぐるみ好きだと勘違いしており、今に至るのだ。
「茜って確かぬいぐるみ好きだよね?」
「好きか嫌いかで言ったら、好きだけど…」
茜は正直、反応に困っていた。映画館かレストランに行くのかと思いきや、まさかのぬいぐるみ屋と言う、斜め上にぶっ飛んだ場所であったからだろう。
しかし、里緒の方はニコニコと楽しそうに微笑んでおり、困った顔なんてすることができなかった。
2人は色んなぬいぐるみを見て回った。それこそ、男が来るには少し痛々しいようなものさえあった。
「どんなぬいぐるみが好き?」
「え!?あ、あぁ、そうだね……。ライオン?」
「ライオンだね!ちょっと待ってて!」
ぬいぐるみの好みを聞くとササッとライオンのぬいぐるみを掴み何処かに持って行ってしまった。
素早い彼女の行動を茜はただただ、呆然と見るしかなかった。
1分後……。
「お待たせ〜!はいこれ!」
「これは…さっきのライオン…?」
里緒から手渡されたものは先ほど茜が好きだと言っていたライオンのぬいぐるみの入った袋であった。
それをいきなり手渡されたものなので、戸惑い何度もそれを確認した。
里緒の方を見ても相変わらずの笑顔でどうしたらいいからわからなかった。
「そうだよ!茜がぬいぐるみ好きだからお礼に買ったの。気に入って…くれた?」
浴衣をきた彼女が「似合うかな?」と彼氏によく言う言い方に+男の心を揺さぶるような上目遣いに喜ばないわけにはいかなかった。
「う、うん!嬉しいよ!ありがとう里緒。」
少しぎこちないかもしれないが、笑顔でお礼を言った。まぁ、別にぬいぐるみが嫌いな訳ではないし、折角里緒が自分のために買ってくれたことは素直に嬉しかったのだ。
里緒の方は茜の笑顔に心底嬉しかったのだろう。顔が緩んでで頬まで紅く染まり照れていた。
やはり好きな人から「ありがとう」と言われるのは誰であっても嬉しいであろう。
グルグルグル……
「ん?何だ…?」
だらしのない音がどこからか聞こえ、その音の音源を辿っていった。音のするほうを見ると、慌ててお腹を抑えて恥ずかしそうに顔を赤らめている里緒がいた。
もしやと思い聞いてみることにした。
「里緒…。もしかして、お腹空いた?」
「っっっ!!わ、私は別に…。」
ギュルギュルギュルギュル……!
おお、今度は先ほどよりもさらに大きな、そして思わず誰もが聞いてしまうような音が鳴った。
先ほどまで赤かった里緒顔はさらに紅に染まり、ゆでダコのようになってしまっていた。
そんな音に耐えきれなく鳴った茜は思わず、抑えていた声が漏れてしまった。
「ふ。はははは!!なかなかいい音鳴らすね?」
「き、聞かないでよ!?」
「里緒が自分でやったんでしょ?」
「うぅぅ……。」
恥ずかしさのあまりに顔を両手で抑えて、屈んでいた。そんな里緒の姿に、笑いながらも、ちょっとやりすぎたなという表情をして屈んで丸くなっていた里緒と同じように屈み声をかけた。
「ごめんごめん。そろそろお昼にしよ?俺もおなかすいたし。」
「茜のいじわる…。奢ってよね!?」
「はいはい、じゃあ行こうか?」
ぬいぐるみ屋を後にして、昼食を食べるために別のところへ移動することにした。
2人は手が当たりそうなほどの距離で2人で歩き、傍から見れば恋人にも見えるようであった。しかし茜と里緒は恋人同士ではなく、振った者と振られた者という歪な関係であった。
そんな2人はたくさんの人々が往来するレストラン街の方へと足を進めていった…。
里緒とデート?をしている茜ですが、こんなところを柚月に見られたらどうなるでしょうね?笑
次はお礼を受けちゃうGW四日目中編になります。
更新は近々すると思うのでよろしくお願いします。
また感想や指摘や評価をしていただけたら嬉しいです
m(_ _)m




