第二章Ⅲ 割と地獄な土曜日曜part2
part1の続きからです。
今回は少し翠にスポットを当てています。
ではどうぞ!
「私から茜を奪おうとしているからよ。たった1人の大切な弟を……。」
翠の放ったその一言には深い意味が込められていた。前にも言ったように茜と翠には両親がいない。
しかし、最初から両親がいなかったわけではなく、亡くなったのだ。
頼れる肉親が近くにいない中、翠は茜を1人で育ててきた。父と母がいないという寂しさを感じさせないために、茜に人一倍愛情を翠は与えてきたのだ。
だから翠にとって柚月は、ぽっとでの茜の本当のことを知らない知ったかぶりの女と認識しているのだ。
「姉さん…。」
茜は翠に向かって小さな声で呟いた。自分をここまで育ててくれた姉のその言葉には、痛いほど心に響いたのだ。
「私は怖いのよ…。父さんと母さんだけじゃなくて茜まで私の元から離れていくのが……。あの時だってそうよ。」
翠の言うあの時というのは茜の左腹部の傷の原因のことだ。
これは茜が中学校2年の時にあった、茜にとっての大きなターニングポイントとなった出来事である。
詳しくはまだ触れないが、いずれにせよ、茜や周りの人間の運命を変えたのだ。
「姉さん…。約束したじゃないか?俺は姉さんを置いていかないって。
俺は姉さんのことが好きなんだからね。」
姉さんのことが好き…。自分をここまで大切に育ててくれた姉への精一杯の言葉である。
もちろん茜としては、女性としてではなく姉として、家族として翠のことが好きなのである。
しかし言葉というものは、たまに誤解を招く時がある。
「なっっ!茜、それほんと?」
翠は酔っ払って赤くなっていた顔がさらに真っ赤になり、ゆでダコのようになった。ほんの一瞬で。
「うん、そうだね。」
「そ、そうなのね…。ふふふ…。」
茜の反応に翠は満足して、微笑んでいた。だが、何かが違う。
何か裏があるような微笑みだった。もしくは黒い影のようなものが後ろにあるような笑いであった。
「そういえば、茜。玲に聞いたんだけど、進路はどうするの?」
「え?まだ2年生の一学期だよ?」
唐突に質問をしてきた。それも、あまり茜が触れて欲しくない進路のことであった。
正直のところ、柚月から同じ大学がいい、と言われているもののその大学は、有名な私立大学 慶創義塾大学である。
はっきり言って茜の今の学力では不可能であるのだ。
「当然でしょ!?早めに考えておかないと、あんた後悔するよ?」
「う、うん……。」
「やっぱり大学に進学するでしょ?どこにするの?」
翠はさらに追求してきた。翠は茜に大学で失敗して欲しくないのだ。だからこそ、今のうち考えておくことに意味があると思っている。
茜は国公立大学の方が翠の負担にならないと考えているものの、柚月には同じ大学がいいと言われている。まさに、ジレンマ状態であった。
「慶創義塾かな……?」
「あんたこの前の模試の判定は?」
「明城大学と中桜大学はAだけど、慶創はC…。」
茜は学年82位であるものの、それは特別進学科80人も含まれているため、むしろ好成績なのである。
明城大学と中桜大学は、ともにMARCHと呼ばれる私立でも頭のいい大学である。それがA判定はたいしたものなのだ。
「茜。別に私は私立に行くなとは言わないけど、今のままじゃ慶創は無理よ?」
「わかってるよ…。頑張ります……。」
「まぁこの話はまた今度でいいわ。」
ようやく地獄の進路相談は終わり、茜はお風呂に入ることにした。
今日1日の疲れをとるように深々と浴槽へと入っていく。
「はぁ…。気持ちいいね。やっぱり風呂ていいよな〜。」
かなりご機嫌になった茜は、うたた寝しそうになっていた。
すると脱衣所の方から物音がしてまた風呂場のドアには人のシルエットが写っていた。
そして、そのシルエットはドアへと近づき突然ドアノブをあけた。
「なっっっ!!姉さん!何やってんだよ!!!」
「私も一緒に入ろうとおもって〜〜。」
なんと、ドアノブを開けたのは翠であった。服はすべて脱いでおり、バスタオル1枚だけ巻いていた。
しかし胸はこぼれおちそうになっており、茜は目のやりばに困っていた。
「なんで入ってんだよ!!」
「いいじゃない。昔は一緒に入ってたんだし。」
「それは昔の話だろ!!」
茜は姉の身体に欲情しないように、翠から目線をそらして発言した。しかし、翠はそんなこと全く気にしておらず、ズカズカと茜のいる浴槽へと侵入してきた。酔っているとはいえ、あまりに大胆すぎる…。
「ちょっ!、姉さん!大人2人は流石に狭いって!」
「何言ってるの?茜はまだまだ子供でしょ?」
「もう高2だぞ!」
翠は酔っているためか、茜のことはお構い無しに浴槽へと入ってくるため、仕方なく茜は受け入れることにした。
しかしなるべく翠にあたらないように、端っこへと移動した。
「茜〜。なんで隅っこにいくの?こっちに来なさい。」
「いやだよ!恥ずかしいもん。」
「もしかしてお姉ちゃんの身体に欲情してるの?この変態〜。」
「うっ……。」
完全に翠にペースをとられており、茜はなすがままであった。
どうも茜は、女性の押しに弱い傾向があると思う。柚月のお仕置きもそうであるが、里緒との一件でも。
「もう!俺先に身体洗うからね?」
「じゃあ私が背中流してあげるわよ?」
「いいって!自分でできるから!」
翠から普通の男性であれば喜ぶであろう提案を、必死に断った。
まぁ、年頃の男には刺激が強いのだろう。
ゴシゴシ……
茜は自分の身体を入念に洗っていった。しかし、柚月にされたマーキングは汚れとは違い取れることがなくしっかり跡が残っていた。
「茜。あんたそれってキスマークよね?」
翠は茜のその跡をみて低い声音で茜に質問した。
「え?あ、こ、これはなんでもない!」
「嘘をおっしゃい。大方柚月がつけたのでしょうね。」
怒りにも満ちた表情翠はしていた。自分の弟に自分のものだと主張するようにキスマークをつけた柚月に対してのものであろう。
「そうね…。茜。こっちに来なさい。これは命令よ。」
「え、だからなんでもないって。」
「いいから来い…。」
さっきと同じ男のような低い声音で茜を呼んだ。これには、流石に茜は抗うことができず、嫌々ながら翠のところに行くことにした。
「椅子に座りなさい。」
浴場にある椅子に座るように催促をされた。
茜は言われた通りに椅子に座ると、翠が突然浴槽から立ち上がりそちらに歩いてきた。
そして……。
「ちゅっ……。はぁむ……。あぁっ…ぺろ……くちゅ……」
「な!姉さん何するの!?」
なんと驚くことに翠は茜に抱きつき、茜の鍛え上げられた身体にキスをしてきた。
まずは首筋にそして鎖骨あたり、様々なところにマーキングをしていった。まるで柚月が行ったところを上書きするように…。
「はむっ……ぺろ…ぺろ……ちゅっ…ちゅっ……はぁ…はぁ…」
「あっっ……やめて姉さん……こんなのおかしいって…あっ……。」
茜が感じながら辞めるように翠にいうものの、止めることはできなかった。
しばらくその行為は止むことがなく続けられた。ようやく終わったものの、茜は疲れきっていた。
風呂場からあがるとそのまま自分の部屋のベッドへと直行していった。
「はぁ…はぁ…。何するんだよ…姉さんは…。」
さっきの行為によりすっかり疲れきっており、ぐったりとしていた。
一方、翠はというと、同じく自分の部屋に戻っており、かなり上機嫌だった。
「はぁ…。気持ちよかったわ…。茜の身体、久しぶりに見たけどあんなにたくましくなっているなんて…。」
部屋の真ん中でポワワンとなっている翠はさっき行為を頭の中で繰り返し回想していた。
鍛え上げられた茜の身体にこれでもかというばかりのキスマークをつけた。柚月に勝った気分でとても気分がよかったのだ。
「せっかくなら写真でもとっておけばよかったな…。」
唯一、やり残したこととして写真をとることを思っていた。彼女は茜の写真をコレクションとしてたくさん保存していた。
現に彼女の部屋の棚には茜コレクションと書かれているアルバムが1から25まであったのだ。
どう考えても撮りすぎであるが…。
そしてもう一つ、彼女は秘密の部屋があった。
ガチャ……
翠の部屋の中にあるもう一つの扉…。茜ですら知らないその場所。
「いつ来てもここは癒されるわね…。ふふふ…。ふふふふ……。」
奥の部屋にあったものは、壁全体に無作為に貼られた茜の写真があった。それも、いつ撮ったのかわからないような写真ばかりであった。
それだけでなく、茜の使ったTシャツや、ズボンなどもあった…。
「絶対にここは、茜に見られるわけにはいかないわね…。
まぁ、もっとも、見せる気はまったくないけどね…。ふふふ…。あはははは!!!!」
確かに彼女は酔っていた。だが、それとは関係なく、彼女は狂ったように笑っていた。普段の彼女からは想像つかないよな笑い声に狂った瞳。
その瞳には一体何が写っているのか……。まだ今は何もわかりはしない……。
普段とは違う翠。
もしかしたらこれが翠の本性なのかも知れませんね…。




