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廻る廻るよ運命の輪

作者: 冬眠クマ

「君に祝福を贈ろう」













「何を笑ってやがる」



そこは崩れた王国、瓦礫の世界。


膨大な力の渦に圧壊された魔城にかつての面影はなく、無残な死骸を晒すだけだった。


瓦礫の中で対峙する男が二人。


片や流麗な白銀の鎧をまとった白髪の男、片や紅いボロ布をまとった赤髪の男。


片や生気を漲らせ絶対の力を身にまとい怨敵を見下し、片やその顔に生気はなく枯れ果てた枝のような有様で己を破ったものを見上げていた。



「いや、失礼。嬉しくてね、つい笑ってしまった。」



謝罪の言葉を告げる男だが、いまだその口には紛れも無い微笑が浮かんでいた。


奇妙である。


男の周りは紅く染まっていた。その身から流れる血が瓦礫を染め上げていたのだ。


間違いなく致命傷であろう。微笑みが浮かぶような状態ではない。


だがしかし男は笑っていた。この上なく嬉しそうに、幸せそうに。



「そんなに死ぬのが嬉しいのか。

 ・・・ふざけるなよ外道が!!」



激情ともに白の男が告げる。


彼の知る枯れ木の男は外道と呼ぶにふさわしかった。


邪悪。破壊と混沌を撒き散らし、己から数多の大切なものを奪った怨敵。


憎かった。憎くて憎くて憎しみで狂いそうだった。



許さない。よくも奪ったな。必ず、必ず思い知らせてやる・・・



そう・・・思っていた。


心許せる仲間、愛する者と出会い、その凶念は薄くなってはいたが、それでもなお憎しみは消えることなく残った。


そんな怨敵がなぜ今際の際に笑うのか、彼にはまるで理解ができず、その微笑みが許せなかった。



「ああ、怒るのも無理はない。君にとって私は不倶戴天、存在することすら許すことが出来ない怨敵だろうからね。

 そんな男がが幸せそうに笑っている。許せるわけがない。

 ・・・分かるよ、私もかつてはそうだった。

 ああ・・・思い返せば彼もまたそうだったのかもしれないな、いや、きっとそうなんだろう。」



そう、懐かしそうに、もう届かないなにかを思い出すかのように彼はその奇妙な言葉を告げた。



「なに?」


「ああ、度々すまないね、つい感慨にふけってしまった。年寄りの悪い癖だよ。

 なに、なんでもないことさ。私もかつては君のように憎むべき敵がいたということだよ。・・・愛する者もね。

 ああ、懐かしいな・・・」



男の微笑みが深くなる。


信じられなかった。


這いよる混沌、悪徳の王、そのような名で呼ばれている男にそのような者がいたなどと。人を愛していたことがあったなどと。


・・・ふざけるなと、そう思った。


許されていいわけがない。それは人のありかただ、外道に許されていいものではない。



「憤っているね。ああ、それも分かる。

 私も怒りを覚えたよ。ふざけるな、そんなことは許されない、と強く思ったものだ。

 ましてや死ぬことが望みなどと言われた時にはなおさらね。」



・・・いま、なんと言ったのだろう



「そう、死ぬことが望みだった。彼も、そして私も。

 だから笑うのだよ。ようやく夢見ていた願いが叶ったのだから。

 ・・・ああ、永かった・・・」



イッタイコイツハナニヲイッテイル



「君には感謝してもし足りない。よくぞ私を殺すまでに至った。

 本当にありがとう。」



そうして、男は心からの感謝を述べたのだ。


瞬間、激情が吹き上がった。



「ふざけるな・・・ふざけるなよ貴様!!

 死にたかった、殺してくれたありがとうだと!?

 冗談じゃない!!死ぬなら勝手に自殺でも何でもすればいい!!

 俺の大切なものを壊した、俺を地獄に落とした理由がそんなことだというのか!?

 どれだけ・・・どれだけ人を嘲笑えば気が済むんだ貴様は!!!!!!」



それがこの男を喜ばすだけだとしても構わない、殺したい。とそう強く思った。


今の殺意に比べれば、先の殺し合いの時の殺意などせせらぎのようなもの。


そう感じるほどの瀑布のごとき怒りだった。


そんな様を見ても、男の微笑みは消えなかった。



「そう怒るものではないよ。理由はある。

 私は強くなりすぎたのだよ。特に、死に対してね。

 ・・・君には私がいくつに見えるかな?」



男の突然の質問、そして理由という言葉に興味を引かれ一旦怒りを抑える。


ただこれが終われば即座に殺す。殺意は胸の中に残った。


さて、客観的に見れば男は30代くらい、若くもなく、年老いてもいない、そんなように見える。



「・・・見た目通りの年じゃないだろうな。数百年は生きてるのか?」


「残念ながら不正解だよ。

 答えは分からない。億は超えたあたりから数えるのはやめたからね。」


「な・・・!?」



予想外の数字に驚く。


永い時を生きてきた男はその壮絶さを告げる。



「そう、それほどの時が流れても私は死ねなかった。

 強大になりすぎた力が、死ぬことを許さなかったのだよ。

 自分で死のうとしても自分を殺し切れない。即座に回復してしまう。

 時もだめ、自分でもだめ、ならば誰かに殺してもらうしかあるまい。

 前例もあったからね、私はそれに一縷の望みをかけていたのだよ。

 ・・・そして願いはかなった。」



そうして、終わりは始まった。


男の身体が足先から崩壊してゆく。



「最後に一つ、君に祝福(のろい )を贈ろう。

 おめでとう、君の力は私を超えた。

 だから









            君は私以上の地獄を味わうだろう










 ・・・くくく、俺だけがこんな目に会うのは許せない。そんな妬みだよ。

 まぁ、そうならないように祈ってもいるがね。おそらく無理だろうが。」



崩壊は進む、男に残されたのはもう顔だけになっていた。



「さぁ、これで幕引きだ。この地獄の世界の。


 ・・・逢いたいなぁ、逢えるかな

 ・・・レティ」



地獄に耐えかねて狂うしかなかった男が消える。


最後に残った口に弧を描き、穏やかに微笑んでるようだった。










「俺はお前とは違う。」



やり場のない思いを抱えて男は呟いた。



「お前のようにはならない。」



思うことは多々あった。


あの男を超えた力を持っているというのはそういうことなのだろう。




俺も死ねなくなったのだ。






確証はない、だが確信はあった。


しかし、不安はない。


自分には愛する人がいる。


たとえ死が二人を分かつとも、その思いを抱えて生きていける。決して迷わない。


そう心に決めたのだ。


さぁ、悪夢はもう終わった。


帰ろう、そしてこれから歩んでいこう。


幸せを。
















十年後・・・君の笑顔がただただ幸せだった。











三十年後・・・一緒に年をとれないことが寂しかったけど、君が一緒にいてくれる。













五十年後・・・君がいなくなった。けれど忘れない、君との日々を。絶対に迷わない。














百年後・・・新たな友人。楽しい日々がまた始まる。














二百年後・・・誰もいなくなった。哀しい。














五百年後・・・全てが変わっていく。もう名残も見当たらない。・・・寂しい。













千年後・・・最近、死について考える。
















一万年後・・・彼女の夢を見た。俺は大丈夫だよ・・・・
















十万年後・・・彼女の夢を見た。大丈夫・・・・















百万年後・・・彼女の夢を見た。















一億年後・・・ ・・・許してくれ。















百億年後・・・ ・・・・・・死なせてくれ















那由他の果て・・・
































                    ミツケタ















全てが紅く染まった。



この日、廻る運命の輪に囚われた者がまた一人。








                                了









六作目です。


たまにはギャグなしのバッドエンドも書いてみようと思い挑戦しましたが。

・・・難しいっすね、バッドエンド。


とても後味が悪いと思いますが、楽しさも感じて頂けたら幸いです。

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