Rapunzel Ⅳ’
何度もすみません。
Rapunzel Ⅳの後日譚です。というより、むしろ直後ですね。
「私」の物語は、あれで区切られると同時に始まりでもあった訳です。
「――結局、望み通りになったのですね」
溜息交じりの声には、吐息のような笑いが返される。
雨の中で、声も無く泣き崩れていた彼女を見つけたのは、彼と伶であった。
瞳から生気の色を失い掛けていた彼女を、ふたりは闇に溶け込むようにして連れ去ったのである。
しかし既に、彼女の眼は正気を失っていた。
降り頻る雨から救い出した、ただ一人の人物以外を、その眼は映さなくなっていたのだ。
差し出された腕に縋り付くように、彼女はその手を伸ばし、そのまま眠りに付いた。
木の陰から窺っていた伶は、それが至極当然のことのように思えた。
抱き締められ、やっと見つけた場所に安心しきった様子で彼女は眠っている。
それは以前見た、童話のお姫様のようだ。
「……(王子にしては腹黒過ぎだけど)……」
口の中で感想を零す。
それが聞こえた筈はないが、眼鏡の奥の瞳が自分に向いたように感じる。
今度は呆れたように息を吐いて、伶は口を開いた。
「そういえば、例の彼女に話していたそうですね。ワタシの身体のこと。惚けたって無駄ですよ。あの日、態々手袋を外さずにいたのは、ワタシの後にあの女性と会うからだったのだと、ロビーで呼び止められて直ぐに判りましたよ」
伶の話を聞きながらも、彼が応えることは無い。
それを静かな肯定だと取った伶は、そのまま続けた。
「まったく、人が悪いわ。ワタシだけを変わり者にして。でも、あの女性とは一体どういう関係だったのですか? ワタシはてっきり同じ患者さんだと思っていたんですけど、違ったんですね」
相変わらず、腕の中でじっとしている彼女の髪を撫でながら、スッと視線を伶に向ける。
「……イイ加減に出て行け、と?」
伶は、それから感じ取った言葉を小さく呟いた。
「ワカリマシタ、邪魔者は退散致しましょう」
芝居がかった仕草で、壁に凭れ掛けていた背を起こし、コートを手にする。
腰に提げた時計を見ると、自分の約束時間を過ぎていた。
「―――それじゃ、ごきげんよう」
ドアを閉めると伶は絨毯の廊下を、コートを羽織ながら待ち合わせ場所まで駆けた。
ドアチェーンを掛けに立ち上がると、見上げてくる視線に翳りが浮かぶ。
腕を放すと、縋るような小さな手が袖口を引いた。
軽く微笑みを返し、頭を一撫でしてドアに向かう。
その背には心許無さの香る視線が注がれ、当人もそれを知っていた。
――どこにも行かないで。
彼女の瞳は言葉よりも雄弁であった。
再び椅子に戻り、頬に手を伸ばす。すると甘える子猫のような仕種で、彼女はそっと瞼を伏せる。
満足そうに笑みを浮かべて、彼は静かに口を開いた。
「さぁ、いらっしゃい―――」
※言葉を少し変更させていただきました。(11,8,1)